第7話 神帝暦645年 8月21日 その3

 しっかし、身体の半分が精霊でもないただの小動物である、このネズミのこっしろーが魔法を唱えられるってどういうことだよ?


「なあ、団長。このネズミのこっしろーは、齢300年とかだったりするのか?」


「いえ? ネズミとしては長命な部類に入るみたいですが、こっしろーくんの言いを信じれば、20歳と言ったところみたいですよ?」


「ぼく、今年で20歳でッチュウ。今、恋人募集中なのでッチュウ!」


「そうかー。こっしろーくんは恋人募集中なのかー。これは飼い主としては応援しないとダメだねー?」


「おい、ユーリ。こっちを視て、聞いてくるんじゃねえ! こいつが一応、普通のネズミってことは、ネズミ算のように子供をポンポン産んでしまうってことだろうが! 俺たちの家の食材を全部、こいつの家族に喰われかねないぞ!?」


「あっ。そうだねー? うーーーん。こっしろーくん。彼女を作るのは諦めてほしいところだよー?」


「えええ!? ぼくは家族を作ったらダメなんでッチュウか? それだと一匹寂しい老後を過ごすことになるでッチュウ……」


 くっ。こっしろー、そんなに悲しい顔をするんじゃねえ! 俺もかなりの晩婚だったから、あわや、このまま独り身で生きていくのか? と寂しい気持ちになっていたから、こっしろーの気持ちが痛いほどわかってしまう!


「まあ、半分、精霊である火の犬ファー・ドッグとか、水の猫オータ・キャットは、普通の動物のわんちゃんや猫ちゃんと同じで、繁殖期は年に1回だから、飼い主もその時期だけ気をつければ良いんだが。ネズミは年がら年中、繁殖期だよな?」


「そうでッチュウ。ぼく、毎日のように可愛いメスネズミとイチャイチャしたいでッチュウ。頼みますから、僕に可愛い彼女を作らせてほしいでッチュウ」


 うーーーん。ネズミと同じく年がら年中繁殖期のニンゲン族やエルフ族の場合は、ここ50年ほどで避妊方法も確立されてきているから、昨今は、突発的出来ちゃった結婚問題は回避されつつはある。だが、ネズミの避妊方法なんて、聞いたこともないからなあ?


「なあ、団長? ネズミの場合、どうやって避妊すればいいんだ?」


「それは去勢でもしたら良いんじゃないんですか?」


「去勢はやめてほしいでッチュウ! ネズミ界の栄えあるネヅ族がぼくの代で滅んでしまうのでッチュウ!」


 おい、待て。栄えあるネヅ族って、いったいぜんたい、何なんだ? ここはツッコミを入れるべきなのか? と、俺は思ってしまったのだが、話が進まなくなりそうなので、スルーしておくことにする。


「だ、そうだ。去勢以外で何か良い方法を頼む」


「難しいことを言ってくれますねえ? ネズミサイズの避妊具でも作れっていうんですか? 先生に」


「避妊具ー? 何それー?」


「あれ? ユーリくん。避妊具って知らないんですか? ツキトくん。ちゃんと、ユーリくんに性教育を施していないんですか?」


「い、いや。それはアマノに任せっきりでよ。いや、すまん……。親である俺がちゃんと教えるべきなんだが、どうも、男親だと教えにくいっていうか何というか」


「ダメじゃないですか。ユーリくんが、ひと晩の過ちで妊娠したらどうするんですか? 男と言うモノはナマでやりたがるダメな下等モンスターなんです。女性がしっかりと避妊方法を知ってないと、痛い目を視るんですよ?」


「は、はい。すいません。あとでアマノと一緒にしっかりとユーリに叩きこんでおきます……」


 くっ。俺としてもわかってはいるんだが、どうしても、腰が引けてしまう話題なんだよな。


「さて、避妊具については、ユーリくんはツキトくんとアマノくんにじっくりと教えてもらってください。2人の寝室の机の引き出しにでもしまってあるので、それを見せてもらったほうが早いでしょう。それで、ネズミのこっしろーくんの彼女の件ですが」


「何かいい方法があるでッチュウ? おっぱいはCカップあると嬉しいでッチュウ!」


 ネズミの世界でのCカップって何だろうな? 2ミリとか3ミリなのか?


「いえ。そうではなくて、避妊の方法の話です。こっしろーくんの家族が増えてくれることは先生としては研究の対象が増えて大喜びなのですが、ツキトくんの家の食糧庫が食い荒らされるのは問題ですからね。というわけで、薬を使ってみようと思うわけなのですよ」


「薬ー? 性欲を抑える薬なんて、あったっけ? どっちかって言うと、性欲を増したり、起ち具合を改善したりする薬のほうが多いだろ?」


「まあ、ニンゲン族もエルフ族も、1年中、繁殖期ですから、そう言った方面での薬の開発にお金をつぎ込んでいますね。でも、魔術師サロンでは、面白いことに、ニンゲン族やエルフ族の性欲を抑える研究をしている人物がいるんですよね」


「そりゃまた、おかしな研究をしているやつも居たもんだなあ。国としての方策としては、産めよ増やせよじゃんか。それと真っ向から反するような研究に国が研究費を出しているってことになるぜ?」


「産めよ増やせよでは遥か未来では、ヒトが増えすぎて、住む場所が無くなってしまう可能性があるから、ある程度、性欲を抑えることにより、人口増加をヒトの手でコントロールしようという目的があるみたいですね。まあ、ただの建前でしょうね。ぶっちゃけ、性欲をニンゲンがコントロール出来るのかどうかを知りたいってだけが、その人物の目的なんだと思いますよ?」


「うわっ。税金の無駄遣いもはなはだしいなあ。なんで、そんなとこに国は研究費を出しているんだよ。国による魔術師サロンの査察って、ほっとんど機能してないんじゃねえの?」


「まあ、そもそも研究なんて、そんなもんですよ。本当に世の中に役に立つなんか、二の次なひとたちばかりですよ? あそこの魔導士連中は。自分の知識欲が満たされるかどうかだけが判断基準ですからね?」


「そんなやつらが、汽車ポッポーとか、冷蔵庫アイス・タンクや、除湿器を発明したとか、信じられないぜ」


 俺は思わず、やれやれと嘆息してしまうのであった。しっかし、そんな研究機関に金をつぎ込むマツダイラ幕府もどうなのかねえ? と俺は思わずにはいられないのであった。


「メインでそれらを発明しようとしたわけではないと思いますよ? ただ、研究の副産物として産まれたと思っていた方が良いかもですね。ただし、やはり国が発展していくためにも研究機関というものは必須です。先生がこの国の統治者だとしても、同じように、研究機関には予算を割くと思いますよ?」


「まあ、それは俺も同感なんだけどさあ。なんか納得がいかないっていうかさあ?」


「難しい話はどうでも良いでッチュウ。今は僕に彼女ができるかが問題なんでッチュウ!」


 こっしろーは現金なやつだなあ。でもな? もし、こっしろーの性欲を抑える薬があったり、避妊具があったとしても、こっしろーに彼女が出来るかどうかは、また別問題だと思うんだが?


「まあ、それは良いか。で? その性欲を抑える薬ってのをどう手に入れるつもりなんだ?」


「ちょっと、ツキトくん。勘違いしてませんか? 性欲を抑えるんではなくて、避妊するための薬の話ですよ?」


「えっ? ちょっと待ってくれ、団長。性欲を抑える研究している魔導士がいるって話だったよな?」


「だから、それは建前です」


「おい。待て! その魔導士って、かなり危険な研究を実はしているってことにならないか!?」


「はい。その通りです。性欲を抑える研究ではありません。実際のところ、ヒトが子供を産めないようにするための研究をしています、その魔導士は」


「とんでもなくイカレタ研究してやがんな! そいつはニンゲン族やエルフ族を滅亡させる研究を行っているって言っても過言じゃねえぞ!?」


 本気で頭が痛くなってきたわ。なんでマツダイラ幕府はこんなふざけた研究に税金をつぎ込んでいやがるんだ!?


「一歩間違えれば、そうなりますね。でも、その魔導士としては、ある一定期間、ヒトが子供を産めないようにするための研究をしています。ひらたく言うと、その期間だけ、どれだけナマでイチャイチャしようが、妊娠する心配がないってことですよ?」


「うっわ。期間限定でかよ。一生とかだったら、とんでもないイカレタ研究だけど、ある一定期間だけってなら、男にとっては夢のような研究になるってわけか。馬鹿と天才は紙一重って、このことを言うんだろうなあ」


「その試作品が最近、完成したという情報を掴んだんですよ。というわけで、その試作品を、こっしろーくんに試してみてはどうかと思うわけです、先生は」


「なんだか、怖いんでッチュウ。本当に、その試作品は期間限定なんでッチュウか? ぼく、実験台になるのは嫌でッチュウ」


「ねえ、お父さんー? さっきからナマとか、男にとっては夢のような研究とか、何のことを言っているのー? あたしにもわかるように説明してよー?」


 ダメです。これはユーリが知らなくても良い、男の性事情なのです。ぶーーーと、ほっぺたを可愛らしく膨らませてもダメなモノはダメです! 良いね!?

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