第4話 神帝暦645年 8月20日 その4
そんなこんなで【屋敷に住み着いた
「ツキトくん。これはやめておいた方が良いと思うんやで? わいの直観がささやくんやで? これは怪しいと」
「ああ、俺たちもそう思っているぜ? でも、興味が湧いたから、このクエストを受けてみるぜ。そんなわけで依頼主と話をする機会を作ってほしいんだけど? 頼めるか?」
「まあ、わいも仕事やさかい、いいんやけど、あんまりこういうのには首を突っ込まないほうが身のためやと思うで? 今日の夕方には依頼主との話し合いの日時を決めておくさかい、また、あとで冒険者ギルドのほうに顔を出してもらえるかいな?」
ヨンさんがそう言うので、俺たちは一旦、冒険者ギルドを出て、街へと向かい、昼飯を食べたり、本屋に寄ってみたりして、時間つぶしをするのであった。夕刻17時ごろになって、また、冒険者ギルドに顔を出すと
「明日の昼、ここ、冒険者ギルドの応接室で依頼主と話し合いってか。随分、あちら側は切羽詰まった状況みたいだな?」
「せやなあ。もうちょい時間がかかるかと思ったら、明日には打ち合わせをしたいと先方から言われたんやで? しかし、これがちょっと困ったことに、館の家主やなくて、執事が打ち合わせにくるみたいやで?」
「執事? ってことは、この依頼主の館は相当でかいってことか? 実際にその館を下見をしたわけじゃないから、わからなかったけどよ?」
「なんでも
「まあ、クエストの紙にも住所は書かれていたから、なんとなく場所はわかっていたけど、ホソカワ家の館ってかあ。こりゃ、面倒なこと極まりないって感じだなあ?」
確か、ホソカワ家は、50年ほど昔は
「打ち合わせの場を用意したんやさかい、今更、無理です。やっぱりやめますってのは、やめてほしいところやで? 冒険者ギルドだけやなくて、あんたさんらの
「ええっ!? 午前中に言っていたことと違わないか? 危険そうならやめておけって言ってたじゃんかよ、ヨンさんはさあ?」
「それは相手次第やで。報酬で折り合いがつかないのならしょうがありまへんけど、クエストの内容的にも、提示されている報酬額も、あんたらの
うっわ。これは厄介なクエストを受けちまったぜ。言っても、ちょっとした金持ちが依頼を出したモノだとタカを括っていたというのに、地主のホソカワ家が相手かあ。これは失敗したなあ?
「お父さんー? 何か問題でもあったのー?」
俺の隣に立つユーリが心配そうな顔つきで俺の顔を見つめてくる。
「いや、何でもないぜ? 世知辛い大人の事情ってもんが、絡んできて、少々、面倒だなあって思っただけだから。ユーリ。明日の館の執事との話し合いには、お前も同席しろよ? 良い社会勉強になるからな?」
「はいー、わかったよー! 何か無茶なことを言って来たら、一発ぶん殴って、報酬額を上乗せするように言えば良いんだよねー?」
「違うわ! そんなことしたら、俺たちは冒険者ギルドからお叱りを受けるだろうが!」
「うふふっ。依頼主を一発ぶん殴っているのに、お叱りだけで済ませてくれる冒険者ギルドには、本当に頭が下がる思いなのですわ?」
まあ、アマノの言う通り、冒険者ギルドの職員って、その点、心労がかさむ組織なんだろうなあって思うわ。なんたって、ヨンさんは30歳前半なのに後頭部に銅貨ハゲが出来上がったって言ってたしなあ?
「ううう。あんまり下手なことをせんといてや? わい、これ以上、胃薬を強いモノに変える気はないんやで?」
「ああ、すまんすまん。ヨンさん。俺からユーリに一発ぶん殴らないように注意しておくからさ? ユーリ。殴るのは最後の手段だからな? まずは言葉で脅せよ? で、どうしても言うことを聞かない相手なら、ぶん殴れ?」
「わい、ちょっと、胃が痛くなってきたんやで? ちょっと、お薬を飲ませてもらうんやで?」
ヨンさんがそう言いながら、包み紙を上着のポケットから取り出して、受付のカウンターの横にあるコップに注がれている水で包み紙の中の薬を胃に流し込んでいる。
若い頃、最初に冒険者ギルドにやってきた時、なんで受付のカウンターに水が入ったコップが置かれているのか不思議がってたもんだけど、1週間も経たずにその理由が判明したもんだったなあ?
ふざけたことを言う冒険者の顔に水をぶっかけるのにも使えるし、なかなかに万能なアイテムだわ。アレは。
「ふあああ。まるで天に召される気分になるんやで? わいはこの一杯のために生きている気分なんやで?」
「いや、昇天されても困るんだけど? しっかし、断ることが出来ない前提のクエストかあ。しまったなあ。ちゃんとその辺まで考慮してクエストを受ければ良かったぜ」
「ウキキッ。まあ、その分、報酬を上乗せしてもらいましょうウキキッ」
「ヒデヨシ。そんなのが通じる相手だと思うか? 地主ってのは大概、ケチな生き物なんだぜ? 自分の収入は最大限に、自分の支出は最小限にってのを地で行く奴らなんだぞ?」
「そこをどうにかするのが、わたくしの役目なのですウキキッ。まあ、金貨5枚ほど上乗せさせてみせるのですよ? ウキキッ」
すげえな。ヒデヨシは。猿そっくりの顔をしているのに、ニンゲン族相手との交渉力は眼を見張るものがあるんだよなあ。交渉下手というより、ニンゲン関係の構築にすら難がある俺から視ると、うらやましい限りだぜ?
「ウキキッ。ツキト殿は、脅し文句と一発ぶん殴るしか交渉材料を準備しないところがダメなのですウキキッ」
「なるほどなあ。ちなみにヒデヨシは交渉には何を使うんだ?」
「ウキキッ。女をあてがう、鼻薬を嗅がせる、水攻め、干し殺し。今、思いつくだけでもこれだけ、列挙できるのですウキキッ」
「ヒデヨシさんー。鼻薬を嗅がせるってなにー?」
「ユーリ殿。交渉相手やその周りにちょっとした賄賂を贈ることですよ。それだけで、好印象を得られるのです。ユーリ殿も銀貨を1枚もらえたら、嬉しいですよね? ウキキッ」
「確かに銀貨1枚あれば、値段の高いお肉とか買えるもんねー。賄賂は大切だねー、うんうんー」
「おい、ヒデヨシ。俺の可愛い娘を賄賂で籠絡しようとするんじゃねえぞ? こいつ、
「ウキキッ。それは良いことを聞いたのです。今度、ツキト殿の家にうかがうときは、そのお菓子を買ってくるのですウキキッ!」
「うふふっ。では、私には除湿器を買ってほしいのですわ? まだまだ残暑が厳しいので、
アマノさん? あなたが眠りにつくまで、自分がその
「ウキキッ。アマノさんはこの前のバンパイア・ロードの報奨金で買ってくださいウキキッ」
「あら、つれない返事なのですわ? やはり、ヒデヨシさんは若い娘にしか興味がないみたいなのですわ?」
「まあ、ヒデヨシは10歳年下の嫁さんをもらうくらいだしなあ。同年代のアマノにはこれっぽっちも興味ないんだろうな。俺としては安心だけど。さて、帰るか。明日の打ち合わせのためにも、今の内に英気を養っておこうぜ?」
「ウキキッ。ならば、夕飯は、そこそこ安くて、そこそこに美味しい料理屋が最近、この辺りに開店したので、そこに行こうなのですよウキキッ!」
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