第17話 神帝暦645年 8月15日 その10

 ああ。なんだろうー? すっごく変な感じがするー。身体の奥。いや? お腹の奥がジンジンするー。なんだろー? よくわらかないー。


 でも、不快な感じじゃナイノー。


「ユーリ! ユーリ! てめえっ。なんでユーリに精の解放ドレイン・リターンをしやがったんだ!」


「それは面白くなるからに決まってるからよ? この小娘は臆病者よ? 自分の感情に蓋をしている感じだわ。あたくしがその蓋を取り外してみたいと思っただけよ?」


「むむむ、我が妻よ。それはわれの楽しみだったと言うのに横取りはよしてほしかったのである」


「あら、いやだわ。あなたがやっては、ただの性的嫌がらせになるだけよ? 女性に性の手ほどきをするのは、300歳のお爺さんではダメよ? 200歳のお姉さんがすべきことよ?」


 なんか、よくわからないことを言っているよー? この3匹は一体、何をしているんだろー? でも、そんなことはどうでも良いかなー。はあああー。むずむずするー。お腹の奥がジンジンしてむずむずスルー。


 それに暑いなあ。なんでこんなに暑いんだろー? 夏だからー? お昼過ぎの1番暑い時間帯だからー? それとも太陽がさんさんと輝いているカラー?


「バンパイア・ロード・マダム! てめえ……。俺の娘にこれ以上、何かしようものなら、殺す! 俺がこの身が砕け散ろうが、絶対に殺す!」


「あら、怖いわね。そんなに心配しなくても大丈夫よ? あたくしは夫と約束したのよ。あなたたちを肉体的に傷つけることはしないとね」


「何が肉体的はだよ! 16歳の小娘に精の解放ドレイン・リターンなんかしたら、どうなるかわかってんのかよ!?」


「ふむっ。それは服でも脱ぎだして、あっはーん、うっふーんくらいやりだすのではないか? 性欲の強さはひとそれぞれゆえに、どうなるかはわからぬが、なあに、お前の仲間たちは皆、気絶しているのである。観客がわれと、われの妻、そしてお前だけゆえに、心の傷はそれほど深くはならないのである」


「なに、冷静に解説してんだよ! くっ! ユーリ。正気を取り戻してくれ!」


 なんだろうー? ぼろぞうきんみたいな何かと、地面を這いつくばる何かと、高飛車な態度の何かがおしゃべりをしているよー? うーーーん。あたし、頭の中がぼやけているのかなあ? 何かが何かな気がするんだけど、よくわからナイー。


 でも、そんなことどうでも良い気がするー。ここはとっても暑いってことが問題なんだよー。いや? ちがうなー? 熱いが正解なのカナー?


「ちょっと待て! ユーリ! なんで、上着のボタンを外し始めてんだよ! おい、やめろ!」


「おーほほっ。始まったのですわ。でも、そこの貧相な身体の小娘だけが脱いでも面白味に欠けるわね。あたくしも一緒に脱ごうかしら?」


「良きかな。良きかなである。しかし、日の光がさんさんと輝く日中にドレスを脱いで大丈夫なのであるか? 我が妻よ」


「そう言えばそうね。しかし、不思議な話だわ。いくら、今日が8月15日のお盆と言えども、日中のさんさんと輝く太陽の下に出ても、身体に変調が出ないわね?」


「そうだよ、そこがそもそも、お前ら、おかしいんだよ! 普通なら太陽の光に焼かれて、身体がブスブスと焦げだして、火が着いて、丸焼けになるはずだろうが!」


 熱いよー。身体が熱いよー。そうだ、服を着てるから熱いんだよー。あたしって馬鹿だよー。なんで、そんな単純なことに気付かなかったんダロー。んっしょんっしょ。


「ちょっと、待てっ! ユーリ! ズボンのベルトを外し始めてんじゃねえよ!」


「あら。あたくしたちに質問をしておいて、小娘のほうを見るなんて、やぼな男ね。やっぱり、200歳のお姉さんより、20歳にも達してないような小娘のほうが気になるのかしら? ちょっと、誇りに傷をつけられた気分なのだわ?」


「うっせえええ! てか、とっとと、太陽の光で焼け焦げていろってんだ! 少しはバンパイアらしくしようって気はないのかよ!」


「ふむっ。我が妻よ。今、思ったのであるが、今日は太陽が隠れる日であったか?」


「あら? そうだったかしら? でも、その可能性が高いわね。それなら、夜に生きるあたくしたちが日中にこんな草むらのど真ん中で自由に活動ができる推測も成り立つわね? そこのニンゲン。今日は日蝕が起きる日であってたかしら?」


「日蝕? 太陽が何かによって、真っ黒い穴に変わる、あの日蝕のことか?」


 よいしょ、よいしょ。やっぱり上着とズボンを脱いだら、少しマシになってきたよー。あたしって天才ー。でも、まだ、身体が熱いなー。なんだろー? 全部、脱いだほうがいいのカナー?


「そう、その日蝕のことであってるわよ? で? 今日はそれが起きる日であってるのかしら?」


「なんでそんなことを俺に聞くんだ? 大体、日蝕がいつ起きるかは、誰にもわかってないはずだぞ?」


「あら? おかしいわね? ニンゲン社会にはそれを観測している機関があるはずよ?」


「はあ? マダムさんよ。何か勘違いしてないか? そんな機関があるなんて、こちとら、ニンゲンを40年やってきたけど、聞いたことなんてないぞ?」


 ああーーー。やっぱりすっぽんぽんが最高だよーーー。こう、火照った身体を冷ますには、草原のど真ん中で、何も身につけずに、風に当たるのが一番ダヨー。


 ん? あたし、今、何か変なこと言ったー? 火照った身体ー? 身体が火照るー? 火照るってなんだっけー? どこかで聞いたことがあるような単語のような気がスルルルルー。


「あら? あたくしの勘違いだったのかしら? ねえ、あなた? ニンゲン社会にはこよみと太陽と月の動きの関連を観測している機関があったはずよね?」


「うむ。オンミョウ座である。しかし、そこの男が知らぬと言うことは、オンミョウ座は解体されてしまったのであるか?」


「オン……ミョウ座? なんだそれ? 少なくとも、俺は知らないぞ? そんな機関。秘密結社とかそんなオカルト話の類じゃねえのか?」


「おーほほっ。これは確定的になってきたわね。ねえ、そこの四十路のあなた。記憶を改ざんされているかもよ?」


「はあああ!? 記憶を改ざん? 何言ってんだよ。そもそも、オンミョウ座なんてもん、存在しているかどうかすら怪しいもんを知っているかどうかで判断されるのに納得いかねぞ?」


「我が妻よ。たった100年前のニンゲンたちの英雄と呼ばれた男を知らぬこと。オンミョウ座の存在を知らぬこと。これはこの男の記憶が改ざんされたと言うよりは、情報を隠蔽されていると推測したほうが正しいのである。ニンゲンたちは何者かの手により、それらについて教えられていないのである」


 わかったー。火照るって言うのは、気持ちいいってことだー。そうか。あたし、今、気持ちよくなっちゃってるんだー。だから、身体がジンジンとむずむずとしちゃってるんだー。これは困ったなー? いつもなら、お父さんとアマノさんが寝静まったあとに、こっそりひとりでしているんだけどナー?


 うーーーん。どうしよー? 今、すっごくしたい気持ちになってるー。でも、この何か不快な音を出している何かが居る前でスルのはいやだなー? あたし、スルときは集中したいんだよなー? どうしたら、いいカナナナー?


 そうだー。音を出せなくすれば良いんだー。簡単な話ダッタヨヨヨー。


「お、おい!? なんだ!? 急に大空が暗くなってきやがったぞ! お前ら、一体、何をしたんだ?」


「あら、やっぱり今日は日蝕が起きる日だったのね。ほら、太陽を視てみなさいな。太陽が隠れていくわよ?」


「ふむっ。これは太陽が欠ける程度ではないのである。太陽が全て隠れる勢いであるな。これほどの見事な日蝕ならば、われら、夜の眷属が日中に堂々と出てこれるはずなのである」


 うるさいナー。いい加減、不快な音を出すのはやめてほしいヨー。消えてなくっちゃえば良いノニニニーーー!

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