第4話 神帝暦645年 8月11日

「もぐもぐ。ねえ、お師匠さまー。モンスターは一体、どこからやってきて、どこに去っていくのー? もぐもぐ」


 ユーリが魔力回復の魔法の香草マジック・ハーブッをもしゃもしゃと牛さんのように食べながら聞いてくるわけなのだが? ちょっとは女性らしくおしとやかに食べようとは思わないのか?


「もぐもぐ。それはとっても哲学的な話だな。そもそも、自然に満ちる魔力でこの世に具現化したものと、動物に何かが憑依してモンスター化するってのが定説らしいんだ。もぐもぐ」


「ごっくん。うふふっ。ユーリにツキト? 魔法の香草マジック・ハーブッを食べながらおしゃべりをするのはよくありませんわよ?」


「もぐもぐ。そんなこと言われても、次のモンスターが湧いてくるまで残り30分もないんでしょー? ゆっくり魔法の香草マジック・ハーブッを食べ終わった後に話してたら、モンスターに奇襲をしかけられちゃうよー? もぐもぐ」


 アマノに注意をされる俺とユーリであるが、魔法の香草マジック・ハーブッは繊維が豊富であり、なかなか喉に通らない。そのため、よく噛んでから飲み込む必要があるのだ。しかし、徒党パーティの支援魔法に特化しているアマノはさすがに食べ慣れているのか、魔法の香草マジック・ハーブッをぺろりと食べ終わっているのであった。


「まあ、このモンスターが湧くのに時間がかかるってのも不思議なんだけどな? まるで俺たちにわざわざ休息を与えてくれるために、モンスターが手加減してくれてるんじゃないかって想っちまうよなあ? ごっくん」


「モンスターだって、無限に体力があるわけではありませんからね。そりゃあ、休息を取るでしょうよ。でも、それは動物系のモンスターに限っての話ですがね。魔力が源のモンスターが何故、攻撃をしかけてこないのかは、わかりかねますねえ?」


「おっ。団長。見回りご苦労。何か、めぼしいモノでも見つかったか?」


「なんで夜盗よろしくな発言をしているんですか。大体、今日出てきたのは、まだスライムだけですよ? スライムのゼリーくらいしか、堕ちていませんよ。まあ、カツイエくんは喜んでかき集めていましたけどね?」


 ちっ。スライムはけち臭い奴だぜ。コボルトみたいにネックレスや指輪を所持してくれていりゃ良いモノをよ! 俺の小銭稼ぎの夢が一瞬でパアじゃねえか!


「ねー? 団長ー、お師匠さまー? なんで今日はスライムだけしか現れてないのー? あたし、8月15日が近付けば近づくほど、すっごく強いモンスターが連続して現れると想っていたんだけどー?」


「うーん。ユーリ、それはだな? スライムは掃除屋だからって説があるんだわ。昨日、散々、コボルト・アンデットをぶちのめしたってのに、そいつらの肉片がきれいさっぱりなくなってるだろ? モンスターの死体はスライムが喰っているって説があるんだよな。なあ、団長」


「そうですねえ。でも、不思議なことにスライムは人間を襲いますが、人間の死体を食べようとはしないんですよね」


「うんーーー? なんだかよくわからないよー? スライムって、自分の体液で相手を溶かして食べるモンスターじゃないのー? それなのに人間を襲うのに食べないってどういうことー?」


「うふふっ。ユーリ? スライムは人間の老廃物を好むのですわ? だから、身体の垢や、排泄物を好んで食べるのですわ? そうだからこそ、スライムゼリーを身体に塗ると、お肌がつるつるになるのですわ?」


「なるほどー。スライムって変わった性癖持ちなんだねー。身体の垢はともかく、おしっこを好むってなんだか嫌だなー」


「おい、ユーリ。前にも言ったが、年頃の女性がおしっことか言う単語を使うんじゃねえ。団長が興奮するだろうが!」


「ちょっと、ツキトくん。大事な話があります。そこの木陰の裏に行って、先生とこれからのことについて話合いをしませんか?」


 うおっ! 団長がいきなり魔力を増幅させて、俺を睨んでやがる! やっべ、俺、何か団長の気に障ることなんて言ったっけ?


「うふふっ。団長さん? 落ち着いてほしいのですわ? あと、そんなに魔力を増幅させては、スライムが反応を示すのですわ? せっかくの休憩時間を潰してほしくないのですわ?」


「おっと、先生としたことがうっかりしていましたよ。ご忠告ありがとうございます、アマノくん。いやあ、でも、不思議ですよねえ? なんで、わざわざ、敵対しているモノたちに休憩を与えるような真似をモンスターはするんでしょうね?」


「その謎を解明できたら、みかどから貴族の身分と宮廷魔術師会の幹部の椅子でも用意してもらえるんじゃねえの? 宮廷魔術師会や魔術師サロンの連中ですら、一向に謎を解明できてないんだろ、この現象って」


「まあ、色々と仮説はあるみたいなんですけどね。モンスターは実はニンゲンたちを全滅させることが目的ではなくて、強くなってもらうことが目的であり、そのために適時、休憩を与えているとか」


「なんじゃそりゃ。仮説と言うより、ただのとんでも話じゃねえか。その魔術師って、よくもまあ、宮廷魔術師会や魔術師サロンから追い出されないもんだな? 俺が幹部だったら、即刻、破門にしてるぜ?」


 ちなみに魔術師たちの組織がヒノモトノ国にふたつも存在するかと言うと、管轄が違うからだ。宮廷魔術師会のトップはみかどが君臨している。そして、魔術師サロンはマツダイラ幕府が管轄だ。どちらもこの国のトップに通じる組織なのだが、魔術師サロンは民間のニンゲンでも所属できるといった強みがある。


 宮廷魔術師会はとおとき血筋のニンゲンたちにしか、その門戸を開いてはいないのだ。


「まあ、宮廷魔術師会や魔術師サロンは魔術と言うよりは学術研究の色あいのほうが強いですからねえ。突拍子もないような研究でも許される風土があるのですよ。そのおかげで合成魔法と言う、危険なモノも研究対象として国から援助が出るのですよ」


「なんか、俺たちが納めている税金を無駄遣いされているような気がしてならないぜ。もっとマシな研究結果を発表してもらえないかなあ?」


「うふふっ。そう言えば、水と風の合成魔法で【神鳴り】を具現化できないか研究をしていると、魔術師サロンの月報に載っていましたわ? 本当、税金を納めるのが嫌になってしまいましたわ? 一度、魔術師サロンをぶちのめしに行った方が良いのかしら? と思ってしまったのですわ」


「なーに、考えてんだ。いくらなんでも【神鳴り】は無理だろうが。一体、全体、魔術師サロンは何をやろうとしてんだよ……」


「うんーーー? アマノさん、お師匠さま。【神鳴り】って、あの大雨の日とかにピカー! ゴロゴロー! ドッシャーーーン! って鳴ってる、あの雷のことー?」


「うふふっ。まあ、当たらずも遠からずなのですわ? 【神鳴り】とは【神成るモノ】がその力を鳴り響かせると言われているものですわ? その残滓が、大雨の日の雷と言われているのですわ?」


「よくわからないけど、【神鳴り】って言うのは、神さまの力ってことで良いのー? その神さまの力を魔術師サロンは使いこなせないのかと研究してるってことー?」


 ユーリは頭のネジが緩そうなしゃべり方をしているが、こちらの言わんとしていることを察する能力には優れているんだよな。まあ、察することは出来ているくせに、言わんでも良い一言を言うところは直してほしいところである。


「まあ、ユーリくんの言っていることで大体、合っていますね。ユーリくんは神と言う存在を信じていますか?」


「そりゃ、信じてるよー。そもそも、ニンゲンに備わっている魔力って言うのは神さまからの贈り物なんでしょー? 神さまが居なかったら、そもそも、ニンゲンが魔法を使えないんでしょー?」


「そうですね。でも、先生の聞きたいことは、そう言った実益を伴った話ではなく、宗教的な話ですよ? デウスの教えで言えば、あなたは神を信じますか?ってところです」


「うーん。そうだねー。そう言った意味でも、神さまは存在しているとは想うよー? あたしとお師匠さまが出会ったのは神さまの取り計らいだって思うもんー」


「まあ、魔力うんぬんではなくて、運命とかそういったモノに関わってくる神さまの存在って話だわな。で、そんな神さまの力である【神鳴り】を使えるんじゃないかって、魔術師サロンは研究をしているわけだ。しかも、俺たちの納めている税金でだ。一発、ぶん殴ってやろうと思わないか? ユーリ」


「確かに、それは腹ただしいねー。要はニンゲンは運命すらも自分の力でどうにかするための魔法を産みだそうとしているんだよねー? それはおこがましいとしか言いようがないよー」


「うふふっ。ニンゲンが運命に抗うのは決しておこがましいことでは無いのですわ? でも、それを司る神さまの力を自在に操ろうとするのは、さすがに度が過ぎている考えなのですわ? 団長さん? 一度、魔術師サロンを解体しませんか? 触れてはいけない領域があると思い知らしめたほうが良いと思うのですわ?」


「まあ、放っておいても勝手に神さまの裁きの神鳴りでも喰らうんじゃないですか? 先生ですら、手を出そうと思わない領域の話ですからね。自業自得で滅んでもらうほうが、自然な成り行きじゃないですかね?」


 しっかし、実際のところ、団長と魔術師サロンがガチで闘った場合はどうなるんだろうな? 魔術師サロンに所属する魔力A級の大魔導士たちを相手にどこまで闘えるんだろうな?

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