第15話 神帝暦645年 7月7日

彦星ヒコ・スター織姫オリ・プリンセスが年に1回会えるのって、7月7日の七夕の日だよねー。ねえ、なんで、彦星ヒコ・スター織姫オリ・プリンセスは分かれ離れにされたのー?」


「そりゃあ、仕事もせずに年がら年中、イチャイチャしてたら、生活できないからな。彦星ヒコ・スターは出稼ぎに、織姫オリ・プリンセスは内職にいそしんでるわけだ。まあ、それでも1年に1回は無いよなー。俺もアマノと1年に1回しか会えなかったら、発狂しちまうぜ」


「うふふっ。そんな嬉しいことを言われても何も出せませんわ? それよりも、今日は、この前、ユーリが受けたD級冒険者昇格試験の合格発表日なのですわ? 確か、通知は自分が所属している一門クランの代表に連絡が行くんでしたわよね?」


 神帝暦645年 7月7日の昼。いつもの通り、俺たち3人は【欲望の団デザイア・グループ】の館の敷地内でユーリの訓練を行っていた。そして、今は昼メシの肉じゃがニック・ジャガーを食べたあと、食事休憩に入っていたわけである。


「ああ、そうだな。団長が暗い顔でやってくるのか、はたまた、1年振りの再会を喜ぶ彦星ヒコ・スターのように現れるか、見ものだぜ」


「ええーーー? 合格するのは嬉しいけど、あたしの彦星ヒコ・スターさまが、団長なのは嫌だなー。お父さん、代わりに団長から報せを受け取ってきてよー」


「うーーーん。合格かどうかは、本人に知らせるまで団長には守秘義務があるからなあ。俺が団長に問い合わせても教えてくれないと想うぜ?」


「うふふっ。一門クランの代表に教えておいて、守秘義務もへったくれも冒険者ギルド側には無いような気がしますわ? しちめんどうくさいだけの手続き上の都合に、こちらを付きあわせてほしくないものですわ?」


「まあ、アマノの言いたい事もわからんでもないけどな。おっ、団長が来たぜ? はてさて、ユーリの昇格試験の結果のほどはどうだったのかなあ?」


 団長が満面の笑みを浮かべつつ、ホップステップジャンプからの空中で3回転半ひねりを加えながら、こっちにやってくる。ああ、これは合格かあ。しかし、D級冒険者昇格試験とはいえ、一発合格なんて、ユーリは相当優秀なんだなあと俺は思ってしまうぜ。


「はい。皆さん、お待たせしました。ユーリくんの正式な合否判定が出ましたので、先生、ここにやってきたわけです」


「団長ー。あたし、どうだったのー? もしかして、落ちてたー?」


「ふふふっ。よく頑張りましたね。合格ですよ。いやあ、E級冒険者から3カ月でD級冒険者に位階ランクアップしたのって、草津クサッツでは先生以来の快挙じゃないんですか? やっぱり、先生が見込んだだけはありますよ、ユーリくんは」


「やったーーー! 筆記試験でわからなかった部分は、適当に鉛筆を転がして、マークシートを埋めていった甲斐があったよー! これで、あたしも晴れて、D級冒険者の仲間入りなんだーーー!」


「うふふっ。さすがはユーリなのですわ。やはり、水の洗浄オータ・オッシュで洗濯が想いのままにできるようになったのが、審査員への高評価に繋がったのですかね?」


「いや、ちょっと待て。ツッコミどころは、そこじゃないぞ、アマノ。おい、ユーリ。マークシートを鉛筆を転がして、書きこんだって? いくらなんでも、それで合格したらダメだろ?」


「なんでよー。合格したんだから、良いじゃないー。お父さんは、あたしがD級冒険者になるのは反対だったわけー?」


「そ、そうじゃないけどさ……。そんな運任せなことをしたらダメだぞって、俺は言いたいわけでな?」


 俺がしどろもどろになりながら、ユーリに弁明をするとだ。団長がめずらしく俺に助け船を出してくるわけである。


「まあまあまあ。いいじゃないですか。そんな細かいことは。ちなみに、ユーリくんの筆記試験は合格ラインぎりぎりの80点です。いやあ、普通、満点近くを取るか、50点くらいで落ちるかのどちらかなんですがねえ? 先生、冒険者ギルドの試験官から疑われてしまいましたよ? なんで、こんなギリギリの点数なんか取れるんだと」


「そりゃそうだよな。出される問題の傾向と対策さえ、しっかり出来ていれば、普通は満点近く取れるもんな。俺は筆記で2回落とされたけど、3回目は98点を取ったからなあ」


「あらあら。私は92点でしたわ? でも、1発合格でしたけど。しかしながら、合格点ぴったりに点数を合わせるのは逆に至難の業なのですわ。それは、試験官のひとも疑わざるをえませんわ」


「おい、ユーリ。不正を疑われかねんから、筆記試験の得点を誰にも言うんじゃねえぞ? せっかく合格したってのに、周りからケチをつけられたらたまらんからな?」


「うんー。わかったよー。ああ、こんなギリギリの合格点だったら、いっそ、落ちたほうが良かったのかなー? この先、誰にも言えないよー」


「まあ、そんなに気にしなくても良いんじゃないですか? 誰かに聞かれたら適当に90点だったーって言っておけば良いですよ。それよりも、これはお祝いをしないといけませんね。先生以来の天才、ここに現れるって感じでですね」


「団長って、確かに天才だよな。あくどいことを考えさせたらって話だけど。いや、この場合、天災。いや……? 人災か?」


「うふふっ。団長の場合は人災で良いのではないですか? しかも、聞いた話、あのひっかけ問題だらけの筆記試験を一発でクリアして、さらに100点満点で合格した数少ないひとたちのひとりなのですわ、団長は。性格が歪んでいるのでもなければ、あの筆記試験で満点なんて取れないと言われていますわ?」


「アマノくんー? ちょっと、毒がきつくありませんか? あんなの、試験用紙を作成したひとがどんな歪んだ性格の持ち主なのか想定すれば、満点なんて取れますよ。まるで、先生の性格の方が歪んでいるような言い方はどうかと想いますよ?」


「ユーリ、よおおおく、この顔を覚えておけよ? これが、性格が歪んだニンゲンの顔つきだからな? お前は間違っても、こういった男を婿にもらおうとするんじゃないぞ?」


「うん、わかったよー。お父さんー。あたし、性格が歪んでいない男性をきちんと選ぶよー。でも、お父さんって98点も取ったんだよねー? お父さんも団長と同様に性格が歪んでいるのー?」


 げふっごほっがふっ! 俺の心に痛恨の一撃が突き刺さったあああ! 痛恨の一撃は通常よりも3倍のダメージを受けちまう! 誰か、早く、俺の心に水の回帰オータ・リターンをかけてくれえええ!


「ま、待て。俺は2回、筆記試験に落ちたんだ。だから、この性格が歪んだ筆記試験の傾向と対策をちゃんと取っただけだ。だから、俺の性格が歪んでいるわけでは断じてない!」


「うふふっ。団長とツキトは付き合いが長いだけあって、2人はお似合いなのかもしれませんわ? そうでもなければ、こんな性格の歪み切った団長に付き合っていられないのですわ?」


「なかなかにひどいことを言ってくれますね、アマノくんは。まあ、先生のヒトの好みが激しいのは認めます。先生に合わないヒトは基本、うちの【欲望の団デザイア・グループ】の加入は断っていますからね。蹴られるヒトたちも、先生のやることに付き合わされるよりはマシでしょうしね」


「うちの一門クランは団長含めて31人いるわけだけど、本当にどれもひと癖もふた癖もあるやつらばっかりだもんな。団長は何か? こんな変な人材集めて、ヒノモトノ国でも行く行くは征服するつもりなのか?」


「それは先生の遠いご先祖さまがやろうとしたみたいですね。でも、どうなったかまではわかりませんけど。まあ、冒険者稼業に身を落としている先生がいるような一族ですから、きっと失敗したのかもしれませんね?」


「うーーーん。団長の御先祖さまって、すごいんだねー。普通、国ひとつ丸々、手に入れようなんて想わないよー?」


「当時の御先祖さまが何を想って、何を成し遂げようと思っていたのかはわかりませんね。あの【戦国の世センゴク・パラダイス】と言われた時代を調べるのは、マツダイラ幕府の手で禁止されています。何が起きたかを知っているモノなど、今の世には居ないんじゃないですか?」


「そうだなあ。帝立図書館に行っても、ある時代からの歴史書は全て禁書扱いで、閲覧もままならないからなあ。その禁書が保管されている帝立図書館の奥の扉はかれこれ100年以上、開かれてないって噂だもんなあ」


 平安京ペイアンキョウやそこに匹敵する大きな都市には帝立図書館と言うものがある。だが、どの帝立図書館でも、【大書庫】には入ることはできない。そのため、【大書庫】は、別名【入れずの間】と呼ばれていたりする。そこの扉が開いたといった話は、俺としては聞いたことが無いのである。


「あらあら。そんなものがあると、余計に中に入ってみたくなりますわ? 団長さん? 今度、その扉をぶち壊しにいきませんか? その時は私も手伝いますわ?」


「それは面白そうですね。ちょうど、先生の手で開けれない扉はこの世にないと思っていたところです。【根の国ルート・ランド】に関する何かが記載されている書物もあるかも知れませんから、今度、機会を見つけて実行してみましょうか?」

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