第8話 神帝暦645年 5月25日
「うっわーーー。本当に2メートル半の
団長が1週間前に職人に作成を頼んでおくと言っていた
「はい。そこは、先生と交流の深い職人さんに頼み込んでおきましたからね。彼、嬉しそうでしたねー。こんなもん、誰が頼みやがった! こんなこと考えた奴、とっちめてやるからな! って。いやあ、彼、最後の仕上げの時には紅い色の涙を流していましたよ。二度とやらないからな! って。でも、これ、ただの訓練用なんですよねえ。ユーリくんが1人前になった時は、ちゃんとしたモノを準備させますんで、とりあえず、これで我慢してくださいね?」
「えええー。そんな我慢するとかじゃないよー。あたし、嬉しいよー。お父さんじゃこんなの頼んだところで、作ってもらえる職人さんのツテすらなさそうだもんー」
ユーリが嬉しそうに満面に笑顔を作っているわけだが、お前は忘れてはいけないぞ? お前が喜んでいる影では、紅い色の涙を流して団長に許しを請いても、こき使われた職人さんがいるんだ。しかも、アマノの予想では1カ月はかかると見込んでいたのに、この団長は1週間で作らせたんだぞ?
良いか? ユーリ。お前は団長の真の怖さを知らないんだ。いや、知ってはいけないんだ。この団長は【
「そこの万年C級冒険者兼荷物持ちのツキトくん。言いたいことがあるなら、ちゃんと声に出してもらわないと困りますよ?」
「いえ。なんでもありません、団長。いやあ、ユーリのためにこんな良い
俺がもみ手で団長をわざとらしく褒めたたえると、団長が、はあああと1度ため息をつき
「心にもないおべっかを使うのはやめておきなさい。だいたい、そんなんだから、ツキトくんは対人交渉能力が乏しいんだって言われるんですよ。いらないおべっかを使うよりはストレートにモノをはっきり言ったほうが伝わりますよ?」
そのストレートな物言いに武力と金を掛け合わせるお方は一体どこの誰なんですかね?
「言っておきますが、先生と交流が深い職人さんは、涙を流していたんですからね? そりゃあ、こんなふざけたモノを作れと言われたら、職人としては、てやんでい! バーロー! おととい来やがれってんだ! とは言いたくなるでしょう。ですが、伝統をぶち壊すのも、職人の仕事なのです。先生は彼の思い込みをぶち壊しただけですよ? 彼はひと皮むけたのです。だからこそ、紅い色の涙を流したのです」
まあ、半分は自分の殻をぶち破れたことに対する喜びの涙だろう。だが、もう半分の涙が紅い色の部分は絶対に職人さんの怨嗟の声が込められてるんだろうけどな!
「ねえねえ。お父さん。
「お父さんじゃねえ。訓練中はお師匠さまだ。んとだな。
「おおー。なるほどー。あたし自身がどうこうしなくても、
ユーリはそう言うと、
「おやおや。立派に、お師匠さまをやっているんですね。これはあと9か月後が楽しみですよ」
「ああん? なんだよ。それだと、予定より1カ月くらい短くなってんじゃねえか。団長から言われていた期間は1年のはずだぞ?」
「それは【
「そんなの聞いてねえよ。一体、いつ決まった話なんだよ。その来年4月ってのはよ?」
まったく、団長はいつも大事なことは突然、言い出すから困ったものだぜ。1か月もユーリの指導の期間を減らされるとなると、こりゃまた、アマノと相談して、ユーリの訓練計画を見直していかなきゃなるなあ……。
「そりゃあ、昨日の夜に
「そうだよなあ。そこがそもそもの疑問だよなあ。なんだ? 冒険者なら死んでも見舞金なんて出さなくて良くなって、予算を削減できてやったぜ! ってところなのか?」
ヒノモトノ国の東半分を占めると言われている【
「それがおかしい話なのですが、もし冒険者が死んだ場合はその冒険者に遺族が居れば、見舞金を支払うって国が言ってきているんですよね? それも、向こう10年はB級冒険者が喰うだけなら困らない金額をですよ?」
B級冒険者が向こう10年は喰うに困らない金額だと!? んじゃ、C級冒険者の1年の収入で換算すれば、ひとりの殉職者に金貨300~400枚も出すって言うのかよ!?
「おいおいおい。それはさすがに胡散臭すぎるだろ! なんで、そんな話なんかに乗りやがったんだよ!」
「半分はお金です」
「もう半分は?」
「好奇心です。いやあ、
「ちっ。まさに仕掛けられた罠とわかっていて飛び込んで行けってことかよ。そりゃあ、帝立鎮守軍の正規兵なんか使えないわな」
俺は今更になって、国、いや、マツダイラ幕府が正規の軍隊を動かさない理由がわかった気がしたのである。
「まあ、そう言うことです。でも、先生はただで死ぬ気はありませんよ。罠があるなら喰い破る。それが【
うわあ。団長が口の端を釣り上げて、真っ黒い顔をしてますわあ。俺は選抜メンバーに選ばれなくて本当に良かったぜ。俺程度の実力で【
「で、【
【
「まず、先生と同じA級冒険者のカツイエくんは連れていきます。それと先生の嫁たちのひとりのB級冒険者であるヨシノくんです。あとひとりは、うーーーん。他所からスカウトしてくるひとが入るかもしれませんねえ?」
「カツイエ殿は納得だな。それと支援魔法に特化したヨシノさんが居れば、同じく支援型のユーリとしても安心だろう。だが、あと1名って誰をスカウトする気なんだ? そんな急ごしらえの
【
「昔、【
「あああ! 団長が猿、猿、猿! っておちょくりすぎたせいで【
「彼、うちの
「うわあああ。やっぱり団長は腹黒いなあ。すっごく腹黒いなあ。俺は死ぬまでこの【
いつもなら、団長のお目付け役兼いじられれ役としてミツヒデが選ばれているってのに、【
「まあ、ツキトくんはユーリくんの育成次第では、うちの新人指南役に収まってもらう予定ですからねえ。少なくとも、先生が冒険者を引退するまでは付き合ってもらいますよ?」
「あああああ。やっぱり、俺の将来設計も団長がすでに決めていたのかよおおお。俺、自分の娘ですら手がいっぱいなのに、他のよく知りもしない奴の指導なんて出来るかなあ?」
「まあ、そこは要努力と言ったところでしょうかね? でも不思議ですよね。現役時代はパッとしないひとが、指南役に回ると、驚くほどの成果をあげますからねえ? あれはあれで才能なんでしょうかね?」
「俺は出来ることなら、冒険者稼業で名を上げたいわあ。なあ、団長。死にかけのバンパイア・チョウチョウ辺りが道端のどこかに転がっていなかったか?」
「バンパイアシリーズはやめておいたほうが良いですよ? 彼らは死にかけると相手の身体を乗っ取って、新たな自分の身体にしますから。彼らの死に間際における精神的支配力はB級冒険者といえども、逆らうのが難しいですからね。ツキトくんは大人しく、スライムを1万匹、倒すことをお勧めしますよ?」
ちっ。なんで高額賞金のモンスターは厄介な奴らばっかりなんだ。少しは、俺の一攫千金の夢のために大人しく死んでくれよ!
「ねえー。お師匠さまーーー。
はいはい。ユーリ。今、教えますよ。ったく、色々と、きな臭い情報を手に入れちまったなあ。最低限、ユーリが【
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