第7話 神帝暦645年 5月17日
うーーーん。これは想っていた以上にユーリが1年以内にC級冒険者並になるのは難しいぞ?
「ほいほいほい。ほいっ!」
「せやせやせや。せやっ!」
1週間前から昼食後の1時間、ユーリとの組手を開始してみたものの、一向に上達する気配が無いのだ。ユーリの
「ほいほいほい。ほいっほいっ!」
「せやせやせや。せやっせやっ!」
俺は今、ユーリに3メートルある木製の槍で3連続の突きを出したあと、上からの2連続の叩きつけを行っている。だが、ユーリはその手に持つ1メートル半の木製の
「だーかーらー。ユーリ、お前の
「わかんないよー! なんで、
「
まったく。
型を覚えるための稽古の時はそれほど違和感を感じなかったのだが、所詮、型の稽古なんて、今のユーリでは相手を想定しきれない素振りにすぎんわ。こりゃ、またいちから
「じゃあ、
ああん? 何言ってんだ? この小娘は。
「お、おい。ユーリ。お前、天才だな? そうか、
「どうしたのー? お師匠さまー? 何をブツブツ言っているのー?」
ユーリが訓練用に使っている
「い、いや。槍の長さのほうがユーリとしては扱いやすそうだから、いっそ、
「お師匠さまー?
「いや。普通の奴らが使う1メートル半程度の
「ああー。職人さんに頼むと値段が跳ね上がるって言うねー。ちなみにいくらくらいしそうなのー?」
「そんなの万年C級冒険者の俺がわかるわけねーだろ。うーーーん。確かアマノの弓は職人に直接、制作依頼していたよな? でも、詳しい値段までは聞いたことがなかったな……。くそっ。ここは団長に頼み込んでみるか? いや、そんなことしたら、ユーリの身を自由にさせろと要求しかねんな、あの団長なら」
「うっわ。団長って、あたしのような可愛くて若い娘でが好みなのー? あたし、そんなの嫌だよー。あたしの身体を自由にもてあそんでいいのは、お師匠さまだけだよー」
こいつ、頭に虫でも湧いてるのか? 誰もお前の貧相な身体に興味なんて持ってねえよ! しかも、なんで自分で自分を可愛いとか言ってやがんだ? 自意識過剰にもほどがあるってもんだろが。
「あっ、今、お師匠さま、あたしの身体を貧相だって思ったでしょー!?」
「い、いえ? 滅相もございません? 俺はそんなこと、まったく思っていませんよ?」
「絶対、嘘だーーー! あたしの胸を視て、ふうやれやれって顔してたじゃないーーー! なんだよ、アマノさんが少しご立派だからって、あたしをそんな眼で視るーーー? あたしはまだまだ成長途中なんだよーーー!?」
い、いかん。俺としたことが大失敗をこいたぜ。年頃の娘は気難しいって、近所付き合いしている、俺と同じく思春期の娘を持つお父さんが愚痴ってたっけか。
しっかし、どうしたものかなー? 2メートル半の
「おやおや。こんな昼間っから、痴話喧嘩ですか? やめてくれませんかね? いくら、ここが【
あっ、ユーリの身体を狙っている団長が館から出てきて、こっちに近付いて来たわ。
「おい、ユーリ、さっさと逃げろ。ここは俺が団長を抑えておくからな? 俺の生き様をとくと拝んでおくんだぞ!」
「お師匠さまー。ありがとうー。あたし、お師匠さまの犠牲を一生忘れないからねー?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい! なんで先生が、顔を出しただけで、ユーリくんは、まるで性犯罪者がやってきたかのように、先生の顔を見るんですか?」
「いや、だってよ。団長って、ユーリを将来、自分のハーレムの一員にするためにも、俺にこいつを育てろって命令したんだろ?」
「うっわ、団長、最低ー。あたし、他の
「うっほん! 勘違いしないでほしいのですが、先生、若い娘は好きです。そこは否定しません」
そこは否定しないのかよっ!
「ですが、先生がユーリくんに求めているのは、その身体ではありません。その将来性なのです。そこを勘違いしないでほしいですね?」
「なんか、言っていることがただの言い訳にしか聞こえないんだけどな? おい、ユーリ。町の警護のモノを連れてこい。こんな若い娘が大好きな団長は、一度、牢屋で臭いメシを喰ってもらおう」
「うん、わかったー。じゃあ、団長。館にある
「確か、ヒトマルヒトマルじゃなかったかな? あんまり
「ヒトヒトマルマルですよ。って、そうじゃありませんよ! 先生を番所につきだそうとするのはやめてください。大体、警護のモノを呼んだところで、ユーリくんは16歳なのですよ? 立派な成人なのですよ? あとは本人たちの合意があるかどうかだけです」
ふむっ。なるほど。団長の言うことにも一理あるな。冤罪となって、俺とユーリが団長に逆に訴えられないためにも要確認だな……。
「おい、ユーリ。お前、団長のハーレムの一員になることに合意したのか? そこが大事だ。今までの団長との会話を想い出して、そんなことがあったかどうか、確かめてみろ」
「うーーーん。難しいところだねー。【
「ああ、確かにそれは事態をややこしくしちまうわな。なあ、団長。
「いえ。あくまでも
「だ、そうだ。ユーリ。やったな。これで、団長を無事、番所送りにできるぞ!」
「わかったー! ヒトヒトマルマルだったよねー! じゃあ、さっそく
「そろそろ、先生、怒りますけど良いですか?」
団長から魔力の気配が一瞬で高まるのを感じた俺とユーリは、その場で土下座をすることになったのである。
☆☆★☆☆
「で? 通常の
「は、はい。その通りです。団長の言いで間違っていません」
俺とユーリは団長からそれぞれ、げんこつをアタマに一発ずつもらい、さらに正座をさせられているのである。ったく、何で冗談で団長を番所に突き出そうとしただけだってのに、俺とユーリは団長に折檻を喰らわなきゃならんのだ?
「まったく突拍子もないことを考え付くものですねえ。でも、発想としては面白いですね。ツキトくんをユーリくんの指南役に選んだ先生の眼に狂いはなかったと言ったところですね」
何、自分で自分を褒めてやがるんだ。褒める先を間違えてんだろ!
「何か言いたげな顔をツキトくんがしていますが、この際、無視して話を進めましょうか。そうですね。どうせ、武器なんて消耗品ですので、形だけ整えておけば今のところ良いでしょうし」
「おっ? 安くすみそうなのか? 団長」
「はい。訓練用ならそれほど値段はかからないでしょう。それに【
「金貨5枚かあ……。それも訓練用でかあ。ああー、けっこうするんだなあ? わかった、団長。それで頼むわ。金は俺が準備しておくから」
金貨5枚もするってことは、加工費込みで考えれば、
「いいえ? それくらい先生が出しますよ? なんたって、ユーリくんの指導をツキトくんに頼んだのは先生なんですから。先生が肩代わりしてこそ、筋が通るってもんでしょう?」
この時、俺は団長からの出資を断っておくべきだったと後々、悔やむことになるわけなのだがな? 後悔、先に立たずとはよく言ったものだぜ。
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