千切レズ契レの追奏曲(カノン)
ももちく
ー芽吹きの章ー
第1話 神帝暦645年 4月9日
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
運命の時まで、残り6年余り。神帝(しんてい)暦645年 4月9日。
【千切れの魔女】と
この物語に登場するモノたちにの未来には残酷な運命が待っている。
禍福はあざなえる縄の如しなのか? それとも……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ああん? 団長。何ふざけたことを言ってんだ? ついに頭の中に
「いえいえ。至って、先生は正常です。それと失礼ですね? 先生は金の亡者か何かなのですか? あと、ツキトくんは、先生が狂ったとでも言いたいのですか?」
――ここは世界の中心部に位置する、ヒノモトノ国。その国には遥か昔から
「だから、1週間前にうちの【
俺は団長の座っている椅子の前にある値が張るであろうアンティークな仕事机を両手でバンッ! と叩いて、団長に抗議するのである。
「いや、そのまま額面通り受け取ってもらって結構ですよ? あれ? 何か深い意味でも考えてました?」
団長が特に俺の態度を気にしないといった体で言いのける。ったく、何言ってやがんだ、この団長は。いっつもよからぬことを考えているくせに、今更すぎるんだよ。どうせ、今度も、とんでもなく厄介なことに首を突っ込もうとしてんだろうが。
「いや。なんでもない。だが、ひとつだけ聞かせろ。あいつを、ユーリを国が近く
【
その【
「さすが勘だけは、A級冒険者クラスに匹敵しますねえ? ツキトくんは長生きしないタイプですねえ?」
団長が口の端を軽く歪ませて、ニヤリと笑う。逆だろ。逆。なんで勘が良いのに早死にしなきゃならんのだ。こいつは馬鹿か何かかよ。
「勘だけ良いのはあまりよくありませんよ? だって、ツキトくんは逃げ足が遅いじゃないですか? そういえば、今日がツキトくんの誕生日で、40歳になったんでしたっけ? 精神的な面はともかくとして、そろそろ、体力が衰え始めてきたんじゃないんですか?」
「そう思うのなら、俺が将来、遊んで暮らせるくらいの報酬の良いクエストに連れていってくれよ。それか、もっと割りの良い仕事を紹介してくれよ。なんで、よりにもよって、ユーリを1年もかけて育成しなきゃならん眼に俺があうんだよ。【
「割りの良い仕事を回せと言われましてもねえ? 近々、【
「じゃあ、そのクエストの方に俺を回してくれてもいいんじゃないか? 俺だって、たまには歯ごたえある奴と闘いたいしさあ?」
「そう言われても、難易度BからAクラスのクエストですよ? 下手したら、荷物持ちのツキトくんでも、死にますよ?」
うっ。難易度Bならギリギリだが、難易度Aとなると厳しいな。くそっ。結局、どう言おうが俺みたいな万年C級冒険者には荷が重いってか。俺は顔を上に向け、部屋の天井を数秒、見つめたあと、観念して
「ふううう。わかった。降参だ。でも、たった1年で駆け出しのE級冒険者をC級冒険者並にするってなると、とてつもない労力になるんだが? 普通は、そこそこ才能がある奴でも最低5年はC級冒険者になるために訓練と経験をつまなきゃならないんだぞ?」
「そこはほら。あなたの奥さんのアマノさんにも手伝ってもらいましょうよ。あなたと違って、元はB級冒険者なんですし。それに、ユーリくんは水と風の魔法が得意みたいですからね。相性が良くていいと思いますけどね?」
「うーーーん。ユーリの奴、あれでも、俺に対して攻撃的な性格をしているから、風の魔法じゃなくて、てっきり、土の魔法が得意だと思っていたんだがなあ? なあ、その判定は確かなのか? にわかに信じられないんだが」
ヒノモノトノ国に数多く存在する冒険者ギルドに登録する過程において、簡単な適正検査が行わるわけなのだが、その検査は本人の武器適正と、おおざっぱに魔法を戦闘に使える程度の魔力を本人が保持しているかだけを視るものだ。
そして、その冒険者ギルドでの検査のあと、その道の権威たる魔術師サロンや宮廷魔術師会に所属する魔導士に詳しく解析してもらい、さらに【魔力回路の開放】を
俺も駆け出しの頃は、その金が自前では用意できずに、とある
まあ、本当に魔法の才能の有る奴ならば、所属する
「ユーリ君の魔力が常人と違い、ケタ違いに高いのは彼女の身体的特徴からと、冒険者ギルドの適性検査でもわかっていたので、あとはそれぞれの魔導士たちに鑑定と魔力回路の開放をお願いしました。ちゃんと、その魔導士から鑑定証明書をもらっていますので、なんなら、見てみます?」
そう言うと団長が俺に2枚の魔力鑑定書を渡してきやがったわけだが、こりゃすげえな。水、風共に現段階で魔力C級もあるのかよ。こりゃ、下手をすると5,6年も経つころには魔力B級に余裕で達するんじゃねえのか? ユーリの両目は真紅であり、魔力の才能があることは魔力検査を受ける前からわかっていたことだ。だが、この結果は、俺の予想以上と言って過言ではなかったのである。
「うーーーん。得意な属性はまだしも、どちらも魔力C級って、どういうことなんだ? こりゃ、まともなところに預けて、しかるべき訓練を受けさせれば、魔力はA級にまで到達することだって可能なんじゃないのか?」
俺がうきうき笑顔で団長から手渡された魔力鑑定書をまじまじと視ていると、団長は仕事机に両肘を当てて、ふうううと長いため息をつきやがる。
「そんなお金、どこから捻出するんですか? あなたが稼いでくれるのであれば、良いんですけど? でも、そんな甲斐性、あなたにありましたっけ?」
くっ! 痛いところをついてきやがるぜ、団長は。
「まあ、魔力B級までなら、C級冒険者にでもなれば、それくらいの費用は3年もクエストに出ずっぱりでもしてれば、その分のお金は稼げます。でも、その先が問題なんですよねえ?」
そうなんだ。魔力B級クラスまでなら、団長の言う通りなんだ。だが、A級クラスとなるとそうも言ってられないことになるのは、俺もわかっている。まずは、魔力B級に到達した時点で魔術師サロンに登録しなければならないわけなのだが、これが貴族さましか相手をしないのかよと思えるくらいの登録料を取られることになる。
まあ、わかりやすく言えば、B級冒険者がB級クエストを1年分、出ずっぱりの収入を全部、つぎ込んだくらいだ。C級冒険者なら3年分といったこところである。
E級冒険者の1年分の平均収入は金貨12枚(※日本円にして約120万円)だ。これは庶民の1カ月の生活費が大体、金貨1枚で済むのと同程度だ。D級冒険者ならその2倍の24枚を稼げるようになる。そしてC級冒険者なら36枚ってことになる。だが、これはあくまでも平均収入なのだ。多く稼げる年もあれば、まったく稼げない年も、もちろんある。
まあ、B級からは収入が跳ね上がるから一概に平均は出せなくなるわけなのだが、無理やり言わせてもらえば、金貨100枚くらいだと言われている。
要は何が言いたいかと言うと、一般庶民が3年は喰いっぱぐれしないほどの金を魔術師サロンは登録料だけで請求してくるわけなんだ。魔力B級でこれなら、魔力A級ともなれば、どうなるか? 俺は思わず、再び部屋の天井を見上げて、ふうううとため息を出してしまうのも無理がないと言ったところである。
「なあ、団長。あんた、A級冒険者なんだろ? だったら、ちょちょいのちょいで俺の可愛い娘に投資をしようと思わないわけ?」
「ツキトくん? 知っていると思いますが、うちの【
「そ、そうだよな。【
「まあ、その宿賃も
ああ、やばい。藪をつついて
「正直、
うーーーん。これはどうにかして、団長を煙にまいて、この部屋から退散する
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます