あかり

手を繋いで歩く帰り道


いかにも冬の夕暮れらしく寒かったけれど

風は強くなかった


この天気ならちょうど良い、と

あなたに見せたいものがあって

あなたを誘うとうなずいたので

ほんの少しだけ遠回りをした


あなたと私

どちらの背と比べても

数倍も高いその樹には

クリスマスはとうに過ぎたけれど

穏やかな暖色の灯りが

枝に沿って

するすると散りばめられていた


マジックアワーという言葉を

どこかで覚えてから

もう十年以上は経つ


黒鳶の幹と枝

千歳緑の葉に

金茶の灯り

それから薄群青の空


手を繋いで

ダウンコート越しに肩に触れて

大きな樹のてっぺんまで

空もまとめて

あなたと私

喋りながら一緒に見上げた

遠く、飛行機も飛んでいた


やわらかな数分の出来事


その後あなたは

家の方向に向かって私の手を引いた

その動作はとてもあっさりとしていたけれど

私は

こういうことを、濃く、できるだけ濃く、

憶えていたいのです

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