友情を破壊する奴隷契約

ちびまるフォイ

【募集】奴隷契約の協力者

「奴隷契約書?」


「ああ、どうやら市役所で申請できるみたいなんだ。

 奴隷になった人は支配者の言うことをなんでも聞くんだ」


「誰がそんなのやるんだよ」


「大丈夫、僕とお前で奴隷契約を1日ずつ交代でやってみようぜ」


遊び半分で奴隷契約を結びに市役所へと出かけた。


「ではこちらの書類に記入をお願いします」

「ホントにあるんだ……」


書類には『奴隷名』と『支配者名』を記入する場所がある。

さらに奴隷期間も何日か記入する場所がある。


2枚もらった俺と友達は、片方に奴隷契約を

もう片方に支配者として記入を済ませて提出した。


「受理しました。奴隷契約スタートです」


初日は俺が支配者で、友達が奴隷となる。

友達の首には黒い奴隷チョーカーがつけられた。


「えーーと、じゃあ3回まわってワン」


「……、……、……ワン! ってなにさせるんだよ!」


「いやぁ、本当に従うのか試したくって」


奴隷チョーカーによとて支配者側の命令は意志とは関係なく実行される。


「わかってると思うけど、犯罪とかさせんなよ」

「当たり前だろ。あくまで遊びなんだから」


俺が支配者の1日は、友達を軽くパシらせる程度で終わった。

その次の日、今度は俺が奴隷となり友達が支配者のターンとなる。


「よっし、じゃあ靴なめろ」


「いきなり!?」


反論の余地なく体は友達の前にひざまずく。


「その次はお前の家から最新のゲームをよこせ」


「ちょ、ちょっと待てって! 遊びだろ!?」


俺とは打って変わって生々しく奴隷を使いこなす友達に驚く。

きっと昨日、奴隷生活をしながら「あいつに何させてやろうか」と

ずっと耐えながら考えていたにちがいない。


「遊び? ああ、そうだよ。これは全部遊びだ。

 だから支配者として存分に奴隷で遊んでるんじゃないか」


「お、おい……」


「次は俺の宿題でもやってもらおうかな。

 あぁ、その前に自分の顔にバカと書いておけ」


「く、くそっ……!」


俺が奴隷側に回ったとたんに急に態度を変えやがった。許せない。

今に見てろ。俺が支配者側になったらこれ以上の屈辱を味わせてやる。


奴隷日を終えると待ちに待った支配者のターン。


「それじゃ、今からお前の一番大切な思い出を燃やせ!!」


昨日の復讐がはじまった。

どんどん内容はエスカレートして復讐は過激になっていった。

お互いに奴隷日での屈辱を支配者側で晴らし続けること数日。


ついに、遊びの奴隷契約書最後の日となった。


俺は最後の奴隷としてその任を全うしていた。


「……今日で奴隷も最後だな」


「誰に口をきいてる。僕は支配者だぞ。敬語を使え。

 それに僕のことは支配者様と呼んであがめろ」


「……支配者様、やっぱり奴隷契約なんてよくなかったです。

 最初に書き溜めた書類ぶんの奴隷生活をしましたが、

 お互いに屈辱を晴らし返すだけだったじゃないですか」


「……まあ」


「お互いに消耗して、大事なものを失って……。

 やっぱり奴隷契約なんてするもんじゃないんです」


「そうだな」

「わかってもらえましたか」



「僕が奴隷契約をするからおかしくなったんだ。

 僕がずっと支配者なら、なんら問題ないじゃないか」


「え?」



「奴隷に銘ずる。市役所で奴隷契約を追加を行うぞ!

 今度は交互に立場を入れ替えたりしない。お前がずっと奴隷だ!」


「そ、そんな……!」


心に反して体は従うように動いてしまった。

規定上、奴隷契約の連続追加は1ヶ月までとされている。


友達は支配者側の立場をフル活用して上限いっぱいまで奴隷契約を結ばせた。


「あはははは!! これで奴隷生活を延長だ!!」


1ヶ月なんて、人ひとりを壊すには十分すぎる長さ。


「し、支配者さま……どうかお願いがあります」


「なんだ?」


「これから1ヶ月奴隷として生活するのは、俺一人では限界があります。

 なので、子奴隷契約を結ばせてもらえませんか?」


子奴隷契約は、奴隷側の人間が奴隷を雇う契約。


「いいだろう。奴隷の立場も板についてきたじゃないか。

 支配者に奉仕する精神が身についたようだな」


「ありがとうございます」


「妙な真似をさせたら絶対に許さないがな」

「もちろんです」


俺は知り合いにかたっぱしから連絡し、

今の状況と俺の考えと奴隷契約について頼み込んだ。


多くの奴隷協力者が集まると、支配者もご機嫌だった。


「すごいな、壮観じゃないか。これだけの人間を好きにできるなんて」


「私たちは支配者様の奴隷です」

「なんなりとお申し付けください」

「どんなささいなことでも構いません」


「じゃあ、背中をかいてもらおうか」


「喜んで」


多くの奴隷を用意したことで1人1人の負担は軽くなった。

狙いはそれだけじゃないが、多数の奴隷を従えた支配者はご機嫌だった。


「飯を食わせろ」

「風呂に入りたいな」

「ベッドまで運んでくれ」

「なにか面白いことをしろ」


「「「 はい、喜んで!! 」」」


けして逆らうことはない。


「支配者様、なにかお手伝いはございませんか?」


「はははは。もう完全に奴隷根性が染みついているな。

 では肩もみでもするといい」


「喜んで」


逆らうどころか、自ら進んで尽くすように心がけた。

1ヵ月後、奴隷生活が終わるまでずっとこの調子をキープし続けた。



奴隷生活が終わると、子奴隷協力者に感謝を告げた。


「みんな、本当にありがとう。

 俺ひとりじゃ間違いなく体と心が壊れていた。

 みんなが協力してくれたからうまくいったよ」


「私たちも人数多かったから、そこまで負担じゃなかったよ」

「でも、むかつかないの? あれだけこき使われて」

「そうそう。支配者契約は残っているんでしょ?」


実は、最初の奴隷と支配者契約の途中で友達は奴隷契約を延長した。

それだけに俺の支配者の日は、まだ1日だけ残っていた。


「その気になれば、今度は奴隷期間を1ヶ月伸ばして

 同じようにこきつかうこともできるじゃない」


「そんなことするもんか。あれを見てみなよ」


俺は協力者たちに目くばせした。

死線の先にはかつて支配者だった人間が路上に倒れていた。



「誰か……飯を食わせてくれ、一人じゃできない。

 トイレに連れて行ってくれ……誰か……」


自分での生活力を失った人間の成れの果てが転がっていた。

さんざん尽くしてやったかいがあった。



「ああはなりたくないから、奴隷契約の延長なんて不要だ」


どちらが奴隷に縛られていたのか。今じゃもうわからない。

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