松源寺の会見 天正五年(1577)初春

誘い

1-1 幕開け

 梅は咲く。池の水面にその姿は冴え、淡い色は薄いながらも華やかにも見える。仙せん桃とう院いんは寺の縁側に佇み、春の訪れを楽しんでいた。……彼女は穏やかな顔もちで、誰もが見ても美しいと思うだろう。それもそのはず、彼女はまだ二十三か二十四辺りなのでまだ若い。決して出家するような年齢ではない。


 そして彼女には子供がたくさんいる。彼女が産んだわけではないが、二十人ほどの子供たちは彼女を慕う。誰もが彼女に心を開き、彼女も子供たちへできる限りの愛情を注ぐ。彼女を支える侍女らの支えもあり、加えてわずかながらの援助もあり、こうして生活ができている。


 ……ここでは平和な日々が続く。血なまぐさいことより離れ、俗世間より隔離されているかのようだ。だがその雰囲気をぶち壊すような武骨な侍三人が突然やってきた。



 一人は腰がたいそう曲がった老人。肌色はめっぽう悪く、今にも死にそうである。この度たびは残りの気を振り絞ってやってきた。その後ろには三十ぐらいの侍が二人。


 老人の名は森岡信治。大浦家の屋台骨を支えてきた忠臣だったが、今は訳あって隠居している。若い方の一人は板垣将兼。石川城の城代を務める優秀な侍だ。もう一人は森岡も信元といい、父信治の跡を継いで頑張っている。


 三人ともに桜や梅などと美を楽しむような余裕はないので、池の横で立ち止まることなく、ずがずがと寺の庫裏へ向かう。周りで遊んでいた子供たちは恐れおののき、木々の陰に隠れて様子を窺った。だが……五歳くらいの娘は何も知らずに鞠を持って三人の前に出てしまう。下から怖い顔を覗いたもあって慌てて逃げようと走り出したのはいいが、木の根で思わずこけてしまい泣きだしてしまった。さすがに三人は一瞬立ち止まったが、迷惑そうな顔をしただけで特になにもしない。そのまま先へと進みいくだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る