四話 エロゲと苦行と行動と

4-1

 翌朝。 

 日曜日。

 ベットの横の椅子に置いていたスマホが鳴りだした。

 目覚まし時計を見ると九時を指していた。

 日曜日なのでアラームじゃない。通話の呼び出し音だ。

 日曜の朝に電話を掛けてくるなんて、どこのバカだ?

 俺は枕に顔を突っ伏したまま、手を伸ばし、スマホを取った。

 画面を見ると神村の名前が表示されている。

 現在最も見たくない名前だ。

 昨日は結局既読してスルーした。俺も疲れていたし、あんな四文字だけ送られても返信に困る。

 言いたいことの予想は大体つく。だけど一方的に非難される覚えはない。

 それに俺も姉貴も断じて嘘はついていない。

 ただ、真実を言わなかっただけだ。

 しばらく着信画面を眺めていると、音は鳴り止み、着信一件と表示された。

 俺は再び眠ろうと思い、スマホを枕元に置いて顔に枕を押し当てた。

 休日は寝たいだけ寝る。それが俺のルールだ。

 例え電話が鳴ろうと、槍が降ろうとそれが変わる事はない。

 そう心に決めていた。

 しかし、その決心も二度目、三度目の着信と続け様に猛り鳴ると鈍ってくる。

 マナーモードにして放置するのもありかもしれない。

 しかしそれをしたらどこか負けになる気がした。負い目があるのを認めるようなものだ。

 冗談じゃない。

 姉貴は真剣にやってるんだ。

 そう思って、姉貴を擁護している自分に気付いた。

 そのことに少なからず動揺した俺は、四回目の着信で敗北した。

「・・・・・・・・・・・・はい。中杉ですけど」

「なんで出ないの?」

 神村の声は明らかに怒っていた。

 なんで出ない? こうやって怒られるからだ。

「寝てたんだよ・・・・・・。それで? なに?」

「なに? 昨日、既読ついたよね?」

 神村は責める様に言った。

 流石声優を目指すだけあって声に迫力があった。

 思わず謝ってしまいたくような言い方だ。

「・・・・・・そうだっけ? 寝ぼけて触ったのかも。覚えてないな」

 俺はとぼけた。このまま逃げ切れるなら逃げ切りたい。

 正直、昨日から俺にはやりたいことがあった。

 珍しくやる気もある。その邪魔をしてほしくない。

 神村は沈黙した。

 もし感情が目に見える力を俺が持っていたなら、スマホからは禍々しいオーラが漂っているのが見えるんだろう。

 先に沈黙を我慢できなくなったのは俺の方だった。

「・・・・・・・・・・・・あの、神村・・・・・・さん?」

「今から会える? 近くに公園あるでしょ。そこに九時半に来て。じゃ」

 神村は一方的に電話を切った。

 会えると尋ねながら返事も聞かない。疑問の皮を被った命令だった。

 もし行かなかったらどうなるんだろうか。

 神村の言っていた公園は窓の外に見える小さな公園の事だろう。

 今が九時八分だからあまり時間はない。

 神村がクラスメイトじゃなかったら、そして美鈴の友達じゃなかったら。その上、声優を目指していなかったら、俺の選択肢の一番上にはバックれるが表示されたはずだ。

 しかし現実に選択肢はない。

 オートモードも、スキップも、ギャラリーモードもない。

 道を歩いていて美少女の転校生とぶつかることもないし、ピンクの髪の女もいない。

 なにより聞き分けの良い女なんていない。

 俺は仰向けになり、天井をしばらく見つめ、長めに息を吐いてから、体を起こした。

 今思えば、これは俺が引き起こした事態だ。

 神村にちゃんと言っておけばよかった。

 だけど俺は言えなかった。

 姉貴のことが恥ずかしかったんだ。

 いや、もしかしたら嫉妬してたのかもしれない。

 他人がどんな目で見ても夢を追いかけ続ける姉貴が羨ましかったのかもしれない。

 俺は、少し自分が恥ずかしくなった。

 窓の外は晴れていた。

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