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「ちょっと気を付けてよ」

 一瞬真顔になったミケは落としかけた塩を必死に捕まえた。

「な、何の話」

「そりゃねぇだろ。あんなに相談に乗ってやったってのに」

「んんっ」

 眉間をグッと寄せてからミケは「はぁ」と溜めていた空気を吐くと、観念したようにスツールに腰かけた。てか観念ってなんやねん。俺にだって聞く権利くらいあるはずだろ。俺の知らない間にあんなに悩んでいた片思いの相手とデートしていたんだから。

「あれはデートじゃないわよ」

「桜見て映画観たのが?」

「ど、どこまで知ってんのよ」

 浮気がばれた亭主か、お前は。

「たまたま俺もその日、そこにいたんだよ。広場で時間潰していたら、お前とイツキちゃんがいたって訳」

 おしゃれマッチョのオネェと、可愛らしい女の子が楽しそうにお話ししていたじゃない。

「見かけたんなら声を掛けてよ」

「掛けられるわけねぇだろ。そんなことよりなんでそうなったんだよ。ついこの間まで連絡先だって知らなかったじゃん」

 それなのになんで急にデートまで行ってんのよ、教えてくれたっていいだろ。こっちは寝起きが悪いんだ。

「うっ・・・実は」

「実は?」

「この間、イツキちゃんがバイト中にお店に行ったんだけど、その時に、その、偶然・。・・視たい映画が一緒だったのと、桜が綺麗だからって。イツキちゃんも春休みで学校がなかったし。違うのよ、ちゃんとはなちゃんにも言おうと思っていたのよっ沢山迷惑も掛けたし、言わなきゃって思ったんだけど、なんかタイミングを逃しちゃって」

 よく喋るのはいい訳の証拠。なんてね。

 まぁいい歳したおっさんが、おっさん相手にいちいち報告するのもね。躊躇いを感じない訳もないし。

「ま、別にいいんだけど」

「本当にごめんなさい」

 俺だって二人の会話、盗み聞きしてるからね。それは言わないけど。

「いいって。二人の仲が縮まったのならそれで。デート楽しかった?」

 訊ねると、ミケはキュッと唇を結んで小さく首を縦に振った。

「思っていたより、楽しかった」

 きっとミケの事だろうから身構えて臨んだんだろうなぁ。それでも楽しかったのなら良い事だ。人生で初めての、女の子とのデートだし。

 このまま二人が上手くくっ付けばいいな、なんて。

「で、今度はいつデートあるの」

「えっ」

 そんな驚いた顔してるってことは、まだまだ道は遠いってことか?

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