けもフレでキーワードSSやってみた

荒野豆腐

へいげんの夏

 私はライオンだよ。オーロックスやアラビアオリックスやツキノワグマからは大将って呼ばれてるよ。

 最近へいげんちほーはすごく暑いんだ。何でも今は夏っていう時期らしい。

 私は乾季と雨季しか知らないからそう言われてもピンと来ないんだけどね。

 とにかく今日みたいな暑い日は動くのもめんどくさいからゴロゴロして過ごすに限るね。ありがたいことに私のいる部屋は風通しもいいことだしさ。

 そう思ってたらドスドスと誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。

 十中八九ヘラジカだろうね。だらだらタイムもそろそろお終いかあ。

 まあちょっと退屈してたから別にいいんだけどね。

「頼もーう!ライオン!」

 ガラッと襖が空く音と共にヘラジカが現れた。

 次に言うのはお決まりのセリフだ。

「さあ!勝負するぞ!」

 ここまではいつも通りだ。

 けれどヘラジカの様子がおかしい。

 顔が熱っぽいし息が乱れているし目の焦点もどこかあってない。おまけに少しふらついている。

「どうしたライオン。勝負しない……の……か……」

「いや君それどころじゃないでしょ」

 危うく倒れそうになったヘラジカを私は支えた。

 どうやら事態は一刻を争うみたいだ。

「お前たち、今すぐ水を汲んで来い」

 私はヘラジカを木陰へと運び込むと、オーロックスが汲んできた水をヘラジカに浴びせた。

「ハッ!私は一体……」

「気が付いたかい?ダメじゃないかこんな暑い日に城まで走って来るなんて。ぶっ倒れて当然だよ」

「かたじけない、助かったよ。どうも暑いのは体に堪えてな」

「ヘラジカは見るからに暑そうな格好だもんねえ。今日みたいな暑い日は私みたいにダラダラして過ごしてみなよ」

「ふーむ、それもそうか」

 そして三十分後。

「だあー!ダメだ!退屈すぎる!!」

 ヘラジカが音を上げた。

「えー、私はあと数時間はこうしてられるけどなー」

「やはり私は昼間からじっとしているのは性に合わん」

「そうは言ってもねえ、外を走り回ったりしたらまた倒れちゃうかもよ」

「それは困る。私としてもみんなに迷惑はかけたくないしな」

「うーん、これはまたあの子に相談してみるしかないかな」



「という訳でかばん、君の知恵を拝借したいんだ」

「毛皮を脱いでしまえばいいのではとも思ったが、何故か部下たちが全員それを許してくれなくてな」

「皆さんは正しい判断をしてくれたと思いますよ」

 かばんは図書館で調べものの最中だったけれど快く私達の相談に乗ってくれた。

「つまりはお城の中でもできる遊びがないかと。そういうことですよね?」

「話が早くて助かるよ。何か良い考えはないかな?」

「では、これなんかどうでしょうか」

 かばんは毛糸玉を取り出した。

「ふうむ。あまり何か遊びに使えるようには見えないが」

「私はこうやって手で転がしているだけで時間潰せそうだけどねえ」

「まず毛糸の端と端を結んで輪っかを作って両手の指に引っかけて……」

 かばんはしばらく毛糸を操ったかと思うと。

「これが箒です」

「ふむふむ」

「これが鉄橋で」

「うんうん」

「そしてこれが亀です」

「おお~!?」

「これ、あやとりって言う遊びらしいんですがいかがでしょうか?」

「すごいじゃないか!是非他のみんなにも教えてあげてくれないか」

「うんうん、これなら危なくなさそうだしね」

 城に戻った私たちはさっそくかばんに教えてもらいながらあやとりを始めた。

「シロサイさん、ここは右手の中指を糸にくぐらせるんですよ」

「ふむふむですわ」

「できたでござる!はしごでござるよ!」

「カメレオンすごーい!」

「オーロックス違う、ここはこうだよ」

「マジかよオリックスおまえ飲み込み早いな」

 良かった、みんな楽しんでいるようだね。

 楽しんで……うん?

「いや待って、ヘラジカ何したらこんな状況になるのさ?」

 見るとヘラジカは角やら耳やらに毛糸がこんがらがって大変な状況になっていた。

「何が何だかよく分からなくて適当に糸を操ってたらこの有り様でな……」

「いや、だとしてもそうはならないでしょ……」

 見かねて私はヘラジカに絡まった毛糸を切って外した。

「すまない、どうもこういう指先を使う遊びは私にはなじめん。せっかく皆が楽しんでいるのにこんなことを言うのは忍びないが、やはり私は外で体動かす方が性に合っている気がする」

 毛糸から解放されたヘラジカは罰の悪そうな顔で言った。

「そうは言ってもねえ……」

「うむ……」

 困って顔を見合わせる私たち。

 重苦しい雰囲気が漂いかけたその時。

「あの、ヘラジカさんが外で遊べる方法があるかもしれません」

 おずおずとかばんが手を挙げた。

「本当かかばん?是非とも教えてくれ」

「ただその遊びはお水がたくさん必要みたいで……」

「水を用意すればいいんだね」

 私たちは外に出ると水を張った桶をいくつも用意した。

「足りるかな?」

「はい、これだけあれば十分だと思います」

「ところでかばん。その側においてあるものはなんだ?」

 かばんの足元には竹筒がいくつも重ねられていた。

 竹筒には持ち手が差し込まれている。

「これは水鉄砲らしいです。私たち以前にもフレンズさんがこれを使って遊んでいたのかもしれません」

「どうやって使うんだい?」

「まず竹の先端を水に浸けて持ち手を引きます。すると筒の中に水が入っていきます。それを確認したら持ち手を押します」

 かばんが持ち手を押し出すと筒の先端に空いた穴から勢い良く水が発射された。

「おお、これはすごいな!」

「私もやってみようかな~」

 私はニヤリと笑ってかばんを真似て水鉄砲に水を貯めると。

「ヘラジカ~、ちょっとこっち向いてよ」

「うん?一体どうし――ブハッ!?!?」

「あっはっはっは。どう?涼しくなった?」

 水鉄砲を食らってびしょぬれになったヘラジカは一瞬ポカンとしていたが。

「ほう、やってくれたなライオン!今度は私の番だぞ!」

 水鉄砲を拾いあげて反撃してきた。

「ヘラジカ様!私も助太刀するですぅ!」

「大将達だけ楽しんでずるいですよ!俺らも混ぜてくださいよ!」

「ほら、ハシビロコウもじっとしてないで参加しなよ」

「う、うん」

 気が付くとみんなが水鉄砲を手に撃ち合いを始めていた。

「後ろががら空きだぞヘラジカァ!」

「ヘラジカ様を援護しますわよ!」

 私たちの歓声は、桶に張った水が全て空になるまでへいげんちほーに響いていた。



 気が付くとあたりは暗くなっていた。

「すっかり夢中になって時間が経つのも忘れていたよ」

「俺たちも楽しかったです」

「私たちもです」

 良かった、オーロックス達も上機嫌みたいだ。

 そして肝心のヘラジカは。

「毛皮はぐしょ濡れになってしまったが暑い日だったにもかかわらず心ゆくまで外で遊ぶことができて私は満足だ」

「本当に良かったね、ヘラジカ」

「それもこれもお前のアイディアのおかげだかばん。本当にありがとう」

「いえ、僕はちょうどヒトの暮らしについて調べていたところだったので。でも皆さんが楽しんでくれて本当に良かったです。それと実はまだ見てもらいたいものがあって――」

 かばんはカラフルな筒を何本も取り出した。

 私がそのうちの一本を手に取って眺めていると。

「打ち上げ花火です。あっ、爆発物なので取り扱いには気を付けてくださいね」

「ええっ!?」

 私は驚いて、筒を取り落としそうになった。

「火を点けない限りは大丈夫だと思いますけど」

「まったく、驚かさないでもらいたいよ……」

「ライオンさんごめんなさい……。それでは今から火を点けるので皆さん少し離れてください」

 みんなが離れたのを確認すると、かばんは筒を地面に置いて点火した。

 すると、筒から小さな光の粒が上がっていき――。

 ――ポン、と音を立てて空に大輪の花が開いた。

「綺麗……」

 そうとしか言葉の出てこない自分自身の語彙の無さが恨めしい。

「花火は夏の風物詩なんです。せっかくだから、皆さんにも見てもらおうと思って持ってきたんです」

「すごい……ヒトはこんなにも美しいものを生み出せるのか……」

「では他の花火にも火を点けて行きます」

 赤や緑、黄色と色とりどりの光が夜空に花開いていく。

 私たちは声を上げることも忘れて目の前の光景に心を奪われるのだった。

 やがて花火は尽き、夜空はいつも通りの静寂に包まれた。

「なあ、ライオン」

「ん?何だい?」

 放心していた私はヘラジカの言葉で我に帰った。

「夏なんて暑くて嫌いだって思っていたけど、結構いいものかもしれないな」

「それについては私も同感かな」

 私はヘラジカの手に自分の手をそっと重ね合わせるのだった。

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