第10話 試練の初陣

 ミハル達陸戦騎独立第97小隊は、エンカウンター西方30キロの師団野営地へ進出していた。


「はあっはあっはあっ」


ミハルは走る。只一人で、銃弾の飛び交う中を。

土にまみれ、窪地に伏せ、両脇や頭上を銃砲弾が飛びぬける。

その度に地面に這いつくばう。


みんな、ごめんなさい。

 私一人だけ逃げてしまって。生きていてごめんなさい。

 車長、操縦手、無線手・・・一緒に死ねなくて・・・ごめんなさい>


ミハルの周りは炎上した味方の車両が出す黒煙で、見通しが利かない。


<我々の軽戦車では歯が立たなかった。

 撃っても撃っても、当たっても命中させても、弾き返され続けた。

 私達の乗った3号戦車の37ミリ砲では、あの重戦車には歯が立たない>


ミハルは味方が居ると思われる方向に向って走る。


<味方に知らせないと。

 無線が妨害されている事を、敵に未知の重戦車が居る事を!>


ミハルが窪地を抜けて味方車両から吹き出る黒煙を越えた時。


「あっ!ああっ!!」


・・・目の前にあの重戦車が迫ってくる

傾斜した前面装甲、丸みを帯びた砲塔

そこから長く突き出た砲身

正に悪魔の化身そのもの・・・


その車体が、ミハルに迫る。


「うわあああぁっ!」


悲鳴をあげるミハルに、さらにその重戦車が迫って来た。





  ((ガバッ))




ミハルは飛び起きた。

辺りには搭乗員仲間が眠っている。

ミハルの横で毛布に包まっているミリアの寝顔が安らかに寝息を立てていた。


「夢か・・・また、あの時の夢を観ちゃったんだ。

もう忘れようと決めたのに・・・明日から戦闘が始まるというのに・・・」


ミハルは野営場所からそっと離れてマチハの所へ行く。

車体は静かに眠っているかの様だった。


そっと近寄り手で車体を撫でて、


「ねえ、今度は大丈夫だよね。

 今度は弾き返されないよね・・・もう逃げなくてもいいんだよね」


車体に呟きかける。


「ミハル、起きていたのか?」


マクドナード軍曹が、ミハルの後から現れて声を掛けてきた。


「あ、軍曹。軍曹こそ寝ないのですか?」

「ん?まあな。

 こいつの初陣だからな。

 手塩を掛けて整備してきたこいつが故障なんてしないと思うが、気を揉んでしまってな」


そう言ってミハルと同じ様に、車体を撫でる。


「大丈夫ですよ。軍曹の整備は完璧ですから」

「ふふん。そう言って貰えるとありがたい」


軍曹は、我が子を見送る父親のような顔でマチハを見上げた。


「こいつは試験本部で埃を被っていたんだ。

 リーン少尉が自分の隊に欲しいって言った時にはびっくりしたよ。

 時代は75ミリ砲になろうとしているのに、いくら長砲身だからって47ミリ砲なんだからな。

 撃つまではせめて60ミリ以上の砲が欲しいって思ったものさ。

 でも、バスクッチ曹長が撃って、初めてこの砲が解ったんだ。

 素晴しい砲だったんだなっと」

「そうですね、通常徹甲弾であの貫通力。弾も良く伸びますしね」

「ああ。こいつに問題があるとすれば、装甲の薄さだけだ。

 魔鋼状態ならいざ知らず、

 普通の時は前面50ミリ、側面30ミリ、後面50ミリしかないからな。

 37ミリ徹甲弾の近接弾を弾き返せない。そこが弱点だからな」

「はい、良く解っています。

 原型の3号J型と同様に、発見されない様に機動する必要がありますね」

「単騎の場合はな。だが、今作戦は大規模作戦だ。発見されない方が難しいだろうさ」

「・・・軍曹は今作戦には、不向きだと思われるのですか」

「違う。オレはこの車両が不向きだと思っているわけじゃない。

 今作戦自体が不必要だと思っているんだ」

「作戦自体が・・・必要ないと?」

「そうだ、こんな大規模作戦は、戦車がすすんでやる事じゃない。

 敵の中央を付くと言うが、戦車の数では、敵の方が勝っている。

 まして、陣地を構えた敵に正面から挑むなんて、正気の沙汰じゃない。

 敵の対戦車砲の、イイ鴨だ」

「確かに正面から突っ込むのは、危険ですね」


ミハルはマクドナードの心配が心に刺さる。


「そうだ。

 いくら魔鋼騎が、此方の方が多いと言っても多勢に無勢。

 数で押し切られたらひとたまりも無い」

「私達は、カモになると・・・」

「そうなって貰いたくは無いのだよ、ミハル」

「私もそんな作戦は嫌です」

「こいつも、そんな馬鹿げた作戦は嫌って言ってると思うんだ。このマチハもな」


マクドナードはマチハを見上げて車体を摩った。


「はい・・・。そうですね」

「で、リーン少尉は?どうしてる?」


振り返ったマクドナード軍曹がミハルに訊いた。


「軍曹の思った事と同じ想いだったのか、意見具申しに、師団本部へ行かれました」

「そうか、まあ少尉も直情型だからな。

 こいつの呼称もミハルに任せたし・・・マチハって、どう言う意味だったっけ?」

「あ、そう言えば整備班の方には、言ってませんでしたよね。

 マチハって言うのは、マが魔法力のマギ。チは中型のチ。

 ハは、3番目って言う意味のハ。

 チとハは、ヤポンの言葉です」

「ふうーん。それでマチハって事か」

「はい。搭乗員仲間に言ったら、受けてしまって。決まりました」

「はははっ、敵さんにバレても誰も判らんだろう」

「はははっ、あまり意味ないかもとも、思いましたけど」

「まあ、後はリーン少尉が本部とどう掛け合ってくれるかだな、ミハル。

 明日に備えて早く休めよ、いいな」」

「はい!」


マクドナード軍曹は、整備班のテントに戻って行った。

それを見送って、ミハルは明日の作戦が上手くいく事を願わずには居られなかった。






  ((グオルルルッ))


轟音が轟き、戦車師団が配置に付いた。

リーン少尉は砂煙で霞む辺りを見廻して、


<これからが、私達の能力が試される第1の試練。

 此処を潜り抜けなければ次は無い。しっかりするのよ、リーン>


自分に自分で発破をかけて、


「みんな!気を引き締めていくわよ」


皆にも注意を促した。


信号弾が紫の煙を曳きながら頭上を翔んで行く。


師団中央付近で、前進が始まった。

戦車師団が前進を開始する。


前方の敵対戦車砲陣地目掛けて、マチハは味方と共に進む。


「車長!作戦開始です。我が第3連隊は右翼に回り込むとの命令です」


キャミーの声が、ヘッドフォンから聞こえた。

キューポラから半身を乗り出し、連隊前方の軽戦車が突っ込み始めるのを確認するリーン。


「よし、行こう。戦車前進パンツァーフォウ!」


リーンがラミルに命令を下した。

辺りの戦車に動きを合せて、マチハは進む。


「前方、第1軽戦車大隊が敵と交戦開始っ!」


豆粒の様に小さく見える軽戦車が敵の対戦車砲陣地に突入し、早くも数両が大破して煙を上げる。

軽戦車から、敵陣地の様子が後方の支援部隊に連絡されて、


「車長っ!砲陣地より支援砲撃が来ます」


キャミーの声と共に、頭上を砲弾が飛んでいく。


 ((シャッシャッシャッ))


重砲の飛ぶ乾いた音が、前方に向って流れて、


  ((グワン、グワンッ))


着弾する度に、爆炎が上がる。


<これでいくらか敵陣地が叩ければ、善いのだけれど・・・>


リーンが煙を眺めて、考えていると。


「車長っ!連隊指揮官から命令です。<突撃セヨ!>」


キャミーがキューポラに向って叫ぶ。


「了ー解っ!突撃するわ。対陣地戦、戦闘用意っ!」


リーンの命令で、前方機銃のボルトをキャミーは引き、弾を装填する。機銃の作動を確認するキャミーを見て、ラミルが顎を引いた。


「ミリアっ、対戦車砲ー戦っ。第1射っ、榴弾。装填っ!」


リーンの命令で47ミリ榴弾を装填し、ベンチレーションのボタンを押し込むミリアが、


「装填良しっ!」


きびきびと、各員がその責務をこなす。


<みんな、張り切っているね。私も責務を果たさないと。

 譬えそれが人を撃つ事だとしても・・・>


ミハルの心に、棘が刺さる。


<この痛み、苦しみが消える事は無いだろうけど、砲手となった私の責務なのだから。

 どんなに辛くても、もう逃げない・・・逃げたりしない>


照準器の中に、味方車両と敵陣地が見える。


「敵陣地まで後2000メートル!全員見張りをげんとせよ」


リーン少尉の声に、緊張感が増す。

キューポラの天蓋を閉めて、リーンが車内に入る。

連隊左側後方に付けたマチハの右前方を進む、新式の4号D型に敵の対戦車砲弾が命中し、たちまち停止してしまった。

だが、その車両は砲を旋回させて自分を撃った陣地を撃とうとしている。


「馬鹿っ!早く脱出しろっ!!」


キャミーが悪態を付いた時、


 ((ガンッ!グワンッ!!))


その停止した車両に、別の陣地からの弾が砲塔側面を貫通し、運悪く砲弾ラックを破壊して誘爆を引き起こして砲塔が吹き飛んだ。


「くそっ、右前方と、左にも対戦車砲が潜んでいるぞ!」


ラミアが大声で注意を促す。


「ミハル、左は位置が特定出来ていない。先に右側の陣地を叩くわ!」


リーン少尉の声に、砲塔旋回レバーを左に倒して砲撃準備を急ぐ。


「右前方1000メートル、対戦車砲陣地!榴弾!撃ち方始めっ!」


リーン少尉の命令で対戦車砲陣地に照準を定める。

ミハルの目にカモフラージュされた陣地が映る。


<人を撃つと思うな。砲を破壊する事だけを考えるんだ>


ミハルは必死に照準を合せる。

十字線の中に、対戦車砲の防盾を捉えて、


っ!」


トリガーを引き絞る。


  ((ボムッ))


鈍い射撃音と共に、砲弾が目標へと飛ぶ。

照準鏡の中で、爆発と共に敵兵が跳ね跳んだ。


「命中!次は左舷の陣地よ。」


リーン少尉が敵陣地の破壊を確認して、次の目標を指示した。

ミハルは再び砲を旋回させて、砲撃の準備にかかる。


「砲撃待てっ!左舷の陣地は、他の車両が破壊したわ。引き続き見張りを厳となせ」


リーン少尉が命令を下す。


「はあ、はあっ・・・」


ミハルは息を詰まらせて、苦しむ。


<対戦車戦なら、人の姿は見ないで済む。

 狙った物が戦車なら、命中させるまでは少なくとも人の姿を見ないで済む。

 早く敵戦車が現れてくれないかな>


ミハルが苦しむ姿をミリアは心配そうに見詰た。


<先輩、苦しまないでください。これが戦争なのです。先輩の苦しさ、私は解りますから>


ミリアは心の中で、ミハルを庇う。


そこ此処で砂塵が舞い、対戦車砲の残骸が燻っている。

その周りには無残な姿になってしまった敵兵の亡骸が転がっていた。


「よし、粗方あらかた敵対戦車砲陣地は固唾けたみたいね。

 此処を突破すれば次はきっと戦車が出て来る筈だわ」


リーン少尉が次の行動に移る考えを話すと、


「車長、前進命令が来ません。どうも中央部隊が、苦戦している様です」


キャミーが無線を傍受して、リーンに報告する。


「何ですって!やはり敵は主力を中央に集めていたの?」


リーン少尉がキューポラから半身を乗り出し、双眼鏡で中央方向を監視する。

師団主力が向った中央辺りで、盛んに炸裂する弾幕が見える。


「ヤバイな。中央が逆に敗退したら、回り込んだ敵に挟み撃ちになるぞ」


ラミアが心配して、舌打ちする。


「ラミア、まだ負けたとは思えないから大丈夫よ・・・」


リーンが皆を勇気付けようと声に出す。


「車長!前方に敵戦車が接近中との事です」


キャミーが連絡を中継して言う。


「こっちにも来たか。敵の数は?車種は解らないか訊いてみて」


リーンがキャミーに無線で情報を求めた。


「軽戦車隊から、報告あり。敵はM2型軽戦車4両、中戦車M3型6両と・・・えっ!」


キャミーの声が途切れる。


「その他に何が居るの?」

「たっ、大変です。重戦車が8両!KG-1型が8両もいますっ!」


キャミーの悲鳴にも似た叫びが車内に木霊した。


「KG-1が8両ですって!我々中戦車より多いじゃないの!」


リーン少尉も驚いて訊き返した。


「軽戦車や、中戦車ならいざ知らず、重戦車が相手では此方の中戦車の砲では、ヤツラの正面装甲を打ち抜けないわ」


リーン少尉が即座に後退を指示する。


「ラミア、転進して!キャミー、味方重砲隊に支援砲撃の要請を連絡!急いでっ!」

「連隊指揮官車から指令。

 <全車後退、味方の支援砲撃があるまで、待機せよ>・・・との事です!」


キャミーが命令を伝達する。


「了解!ラミル全速後退!ミハル、ミリアは敵軽戦車が突っ込んで来たら、撃退してっ!」


矢継ぎ早に命令を下して、キューポラから辺りの状況を確認するリーン少尉。


「ミハル先輩、徹甲弾装填完了っ!」


ミリアが早々に徹甲弾を込めて、ミハルに知らせる。


「了解!次発装填も徹甲弾を用意!」


ミハルも照準鏡を睨んで、トリガーに指を掛ける。


「前方距離1500メートルにM2型軽戦車!早いっ!」


キャミーが目ざとく発見報告をする。

リーン少尉も即座に視認して、


「ラミル停車!ミハル、前方から近付く目標を撃て!

 距離1200、5シュトリッヒ前方を狙えっ!射撃始めっ!

 撃ちぃー方、始めぇっ!」


射撃命令を受けてミハルは、8倍望遠にした照準器に入って来たM2型軽戦車の正面下部に狙いを付けて、


っ!」


トリガーを引き絞った。


  ((ボムッ))


乾いた射撃音を残して、47ミリ徹甲弾が放たれる。


狙ったM2型の正面下部を貫いた高初速の徹甲弾は、その威力を見せ付ける。

薄い装甲を破った弾は、エンジンまでも貫いた。


  ((グワーンッ))


M2は爆発炎上して、斯座した。


「一両撃破!続いて3両が突っ込んできます」


ラミルが前方から迫る敵を知らせる。


「味方車両からも砲撃が始まった。後続している筈の中戦車に注意して!」


リーン少尉が軽戦車より後続している筈の中戦車に、主眼を置いて命令する。

味方車両が残り3両の内、一両を撃破した。


「軽戦車は左舷の方向に逃げます。

 前方にM3型中戦車が現れました。同じく突っ込んで来ます!」


ラミルの報告に、リーンが、


「M3の正面は硬い。出来るだけ砲塔を狙って!」

「了解っ!」


稜線を超えて、突進してくる敵M3型がレクチルに飛び込んでくる。

リーンの命令に、ミハルは前方右舷2時方向から現れたM3型の砲塔側面に狙いを定めて、


「撃っ!」


トリガーを引く。


  ((ボムッ))


砲弾は狙い通り、M3の砲塔側面に穴を開ける。


「命中!もう一発っ!」


ミリアがすかさず次弾を込める。

ミハルは次弾も、同じM3に撃ち込む。

ミハルの弾を2発受けたM3が停止して、淡く煙を吐き出す。


「よしっ、M3型撃破。

 出来るだけ数を減らすのよ。あのままの数で、突っ込まれたら大変だわ!」


リーン少尉は、キューポラから命令する。


「はいっ、各個撃破します」


ミハルが次の目標を探して、復唱した。

味方の残存車両から、発射煙が上がる。

稜線を越えて現れたM3型中戦車の正面に、50ミリ砲弾が命中したが装甲にはじかれて、あらぬ方に飛んでいく。


<駄目だ。味方の短砲身50ミリ砲ではM3の正面装甲を貫けない>


照準器の中に捉えたM3に、2・3発の味方砲弾が命中するのが見えるが、正面装甲に阻まれてことごとく弾き返されるのが解る。


<このままM3が突っ込んで来たら、味方の方が各個撃破されてしまう。

 こちらにも正面装甲を貫ける車両が居る事を解らせないと・・・足を止めさせないといけない>


ミハルはあえて一番装甲の厚い正面に狙いをつけて、


「少尉!徹甲弾で、M3の正面装甲を狙います。

 敵に警戒感を与えないといけませんから。

 撃破したら、敵は左右に分散します。

 その時を狙って、敵の側面攻撃を味方に連絡してください」


ミハルがリーン少尉に意見具申した。


「ミハル、やれるの?・・・解ったわ。

 キャミー、指揮官に連絡、我々が先頭車両を攻撃するから、敵が散開したら側面攻撃をしてもらって!」

「了解、指示します!」


キャミーが無線で、直ぐさま連絡を取る。


「指揮官了承っ!<攻撃せよ>ですっ!」


キャミーが振り向き、命令を伝達する。


「よしっ!ミハルッ!撃て!!」


照準器の十字線に、M3中戦車の正面機銃口に狙いを付け、


「撃っ!」


トリガーを引き絞る。

射撃音と共に砲弾が低伸して、M3に吸い込まれる様に命中し、正面装甲に穴が開く。


「敵先頭車両、停止。炎上しました。」


ラミルの報告を受ける前に、ミハルは敵戦車から4人の乗員が脱出するのを確認した。


<4人・・・後の2人は、どうしたのだろう。

 まさか、私の射撃で・・・ごめん・・・ごめんね>


ミハルは自分の射撃で、また犠牲者を出した事に気付き心の中で棘が刺さる痛みを知った。


「敵、先頭車両を避けて、左右に展開!」


キャミーの報告で、


「今よっ!全車に側面を狙わせてっ!」


リーン少尉がキャミーに、攻撃指示を出す。

味方の一斉射撃を受けて、次々と斯座するM3。

味方の50ミリ砲弾に、装甲の薄い側面を貫かれて大破し、炎上する車両。

またある車両は、砲弾ラックに命中弾を受け、誘爆して砲塔が吹き飛ぶ。

6両中ミハルが撃破した2両を含めて4両が撃破され、

残り2両となったM3はそれでも退がらず正面を向けて闘った。


「見上げたものだわ。

 でも・・・それは只の時間稼ぎ。後から来る重戦車を待っての行動」


リーン少尉はこの後、重戦車8両が来る事を忘れていなかった。


「潮時ね。ラミル全速後退。重戦車が来る前に、射程外まで引くわよ」

「了解。全速で後退します」


ラミルがギアを後退にしてアクセルを踏み込む。


「ミハル!M3の動きに注意。追って来るなら足止めしてっ!」


リーンはミハルにあえて、撃破を命じなかった。

足止め、つまりキャタピラを破壊するかエンジンを壊すかを命じたのだ。


「あ、はい。M3の足止めをします」


味方も、マチハの行動と時を同じくして、後退を始める。


<こちらもかなり手ひどくやられたみたいね。

 出撃時の3分の1は斯座、若しくは撃破されたのか。

 残り12両。その内中戦車は私達を含めて、9両。

 重戦車8両を相手にするには数が少なすぎる。

 重砲が、せめて4両程度撃破してくれない事には・・・>


リーンは砂煙をあげて迫ってくる敵重戦車に、焦りを感じてしまう。


「車長!砲撃が開始されました」


キャミーが無線で連絡を受けて、報告する。

約4000メートルまで迫って来ていた敵重戦車に、重砲弾が降り注ぐ。


「やったぞっ!」


ラミルが爆煙の中に、炎が舞い上がるのを見て喜んだ。


だが・・・


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