第10話 大切なツインテール


彼は、幼い頃から良くからかわれていた。


『なんで、お前そんな髪型してるんだよー』


『変な奴!!』


『気持ち悪いんだよ』


その度に、彼は決まって同じ公園の木の下で泣いていた。その時だった・・・彼女がシェリルと出逢ったのは。


「大丈夫?」


そっとハンカチを渡して、木にもたれながらどうしたのか彼に尋ねていた。


「なんで、泣いてるの?」


「僕の髪の毛、おかしいんだって・・・みんなが笑うんだ。」


シェリルは、『んー』と考えてから何かを思い付いたのかドレスのポケットから、ヘアゴム二つを取り出して、彼の髪に付けてやる。


「ほら!凄い可愛い!!」


その時の彼女の笑顔が頭から離れない。その日から、僕は決めた。彼女を誰でもない僕が守ると。だから、負けてはいけない。いじめから、魔の住人から、あの男から。


部屋の鏡に映る自分を見る度に、あの時の彼女の笑顔が脳裏に通るのだ。


「あんな、化け猫なんかにリルは渡さない」


「あのぉ・・・兄さん?そろそろ行きますよぉ?」


「ああ、今行く」


これは、ルイの話しだ。


「兄さんのその髪型・・・女の子みたいですよねー」


「うるさい」


「この前も、お前の姉ちゃん紹介しろよって友人に言われましてー。一瞬自分、あれ?自分にお姉ちゃんいたっけってなってましたよ。いい加減その頭の、ツインテール辞めてくれませんかぁ?ぶっちゃけ迷惑なんですよねぇー』


広い広い廊下を歩きながら、軍の基地に向かうルイと弟のレイ。レイは、天然でいつも眠そうな声を出しながら、ルイの後ろを歩いていた。

ルイがまとめている軍『アレキサンドリア』には、副リーダーが二人存在していた。一人目は、ルイの弟であるレイとレイより二つ年上の男、ノア=サンブリカであった。ノアは、前髪で目を隠していてほとんど鼻と口元しか見えない。


「リーダー遅くね。俺たち待ちくたびれちゃったんだけど」


ククッ。と、怪しく口元が笑っているノア。


もう、周りにはパトロール用の軍のメンバーが何十人と集まっていた。


「ごめんね。ちょっと考え事していたんだ」


「あーあ。こんなリーダーで大丈夫かよ・・・この先思いやられるぜ」


「しょうがないじゃないですかぁ〜ノア先輩」


「あん?レイ、なにがしょうがないんだ?」


「兄s・・・リーダーは、きっとツインテールが決まらなかったんです。それか、お腹の調子が良くなかったんだ「もういい、黙れレイ」


我が弟ながら、呆れてしまい途中で言葉を遮ったルイであった。


「ったく。理由とかマジでどーでもいいから、パトロール行かないとでしょ・・・リーダー」


「ああ、行くよ」


今日もクラウディアの平和を守る為に、彼らはパトロールに向かった。


アレキサンドリアは、神の国の中の優秀な軍、五本の指に入るほどの実績を持っていた。このクラウディアでは、ほとんどの悪人が魔の国の住人ということが多い。魔の国

は、戦争に負けてしまってからというもの治安が悪くクラウディアにも、その影響が出ていた。


街をパトロールしていると、そこには魔の国の次期女王になる一人娘のオリビア率いる『ジェットブラック』だった。


「あ、魔の国の女王様じゃなですかぁー」


思わず、声をかけてしまったレイ。彼の存在にいち早く気が付いたのは、チェイスだ。


「げっ・・・マジかよ」


『最悪』と、声を出したのはノアだった。ルイは、彼女の前で足を止めた。


「オリビアって言ったっけ?アンタ」


「お前は・・・シェリルに無理矢理キスした奴」


「ルイ=マキアっ!!ちゃんと、名前で覚えてよね」


「リーダー・・・リルちゃんに無理矢理キスしたんですか?それって、犯罪ですよ・・・」


隣でレイが、心底驚いた風に口で手を覆う。


「ククッ。リーダーわいせつ行為で逮捕♪次のリーダーは、このノア様だな♪」


「冗談は、その変な前髪だけにしてくださいよ。次のリーダーは、弟の自分ですよぉー」


「女顔は、黙ってな。次のリーダーはこのノア様だ」


「誰が女顔ですかぁ?この顔面わいせつ罪」


「がっ!!!レイ、てんめえ良い度胸してるじゃねえか。表出ろ」


「もう、表出てますよ?これだからI.Q低い人とは話したくないんですぅー」


今にも、ノアとレイの取っ組み合いの喧嘩が始まりそうになった。


「話しにならない。失礼する」


オリビアがそう告げると、通りすがり様にレイが呟く。


「リルと僕との結婚式には、お呼びしてあげますよ・・・特別に、ね?」


その言葉に一番に反応したのは、チェイスだった。


「この野郎っ!!あんまり調子乗ってんじゃねえぞ!!!」


チェイスは、レイの胸倉を掴み上げた。


「チェイス!!」


「おっと、可愛くないネコちゃんだね・・・この薄汚い手、離してくれないかな」


その時だった。

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