第8話 性格悪い男。


 ~一方、魔の国レインアールド・中央のお城~


 こっちでも、父親であるレインアールドの王アーレンの元へ向かったオリビア。


「ひ、姫様っ!!いけませんっ!!王は、今大切な会議が中でありますので」


「頭が高い」


 彼女のことを止めに入る使用人たちや、警備隊を次々に足蹴にして前に無理矢理進もうとするオリビアの腰にまとわりつく使用人と警備員を引きずりながら、アーレンの部屋の前までたどり着くが、突然そこで意識を失ってしまうオリビア。



 目が覚めると、彼女はネグリジェに着替えさせられベッドの上に横になっていた。


「え?!」


 いつも、邪魔だと言って結んでいたポニーテールも取れていた。驚いて、起き上がるとそこにはベッドの横で椅子に腰掛けて足と腕を組んでうたた寝しているリアムの姿だった。


「せ、先生っ!!?」


 思わず、大きな声を出してしまった。リアムは、ガクンッと一度なってから欠伸をして彼女の方を向く。


「あ、おはようございます」


「おはようございます。じゃないですよ!?なんでここに?!」


「いやぁ~・・・自分の力の無さに悲しさを超えて呆れてきちゃって・・・そしたら、なんかオリビアちゃんの顔が見たくなってしまいましてね」


 すみません。と、笑いながらそう呟くリアムに彼女は胸がときめかないわけもなく。


「な、なんで・・・私ここに?てか、この格好」


「ああ、なんか来た時にオリビアちゃん結構大変な状態で・・・だから、手荒な真似でしたが気絶させさせて頂きました。ちなみに、そのネグリジェはメイドさんから受け取ったモノで、僕が勝手に脱がして着せました」


「えぇえっぇええええええええええ?!」


 色々、突っ込みたいところだらけだけれど、『脱がした』と、いう言葉に尋常ではない程の熱を顔が帯びていた。恥ずかしさのあまり、顔を手で覆うオリビア。


「本当に結婚・・・してしまうんですか?」


「・・・え?」


「こんな僕が言っても、説得力の欠片もないですが・・・ギルバートは、ろくでなしですよ」


 本当に説得力の欠片もない答えが返って来て、なにも言えなくなるオリビアはただ苦笑いを浮かべた。


「ろくでなしで・・・女ったらしで・・・もう、どうしようもない奴です!!!」


「先生が、そんな大きな声で言うなんて、相当な人なんですね。・・・でも、ろくでなしはもう慣れていますから」


 彼女は、最大のろくでなしに恋をしているもう何年も・・・リアムというろくでなしに。彼を、思う時自然と優しい表情になってしまうのはもう直らない癖だ。


 そんな微笑むオリビアを前にして、リアムは彼女の手を握り締め彼女に負けないくらいに赤面していた。


「僕が・・・貴女に好意を・・・好きだと言ったらどうしますか?」


「え?そ、それって・・・?先生が・・・私のことを?でも、先生私のことは生徒にしか見えないって・・・え?え?」


 彼女の頭の中では、たくさんのクエッションマークとビックリマークが溢れかえっていた。そんな、オリビアを見て立ち上がりそのまま彼女をベッドに押し倒すリアム。


「これでも、男と思ってくれませんか?」


 リアムの顔が間近にあって、今にも触れてしまいそうな唇と、微かに残るタバコの香りがオリビアを包み込んだ。


 突然のリアムの行動に、恐れを感じたのかオリビアの瞳から流れ出す一筋の涙。そんな彼女を見て、我に返るリアム。急いで、彼女の上から退こうとするがオリビアがそれを許さない。彼の緩く締めているネクタイを引き寄せて、無理矢理彼にキスをした。


 突然の彼女の行動に、リアムは目を丸くした。触れるだけのキスなのに、何故こんなにも鼓動がうるさいのだろう。


「これでも、女と思ってくれませんか?」


 恐る恐るそう尋ねるオリビアに今度は、リアムからキスを落とした。


「先生の意地っ張り」


「オリビアちゃんには、負けます」


「ちゃん付けじゃなくて、ちゃんと・・・名前で呼んで」


 彼女がそうおねだりすると、リアムは彼女の耳元で甘美に囁く。


「オリビア」


「先生・・・」


「あの・・・この状態で先生って呼ばれると・・・イケないことをしているように感じます・・・」


「り、リアム・・・・さん」


 恥ずかしそうに、オリビアがそう呟くと彼は、彼女の頬に手を添えおでこをくっつける。


「オリビア・・・誰にも渡したくない。貴女は僕だけの大切な人です」


「リアムさん・・・夢みたい」


「夢だったら、どうします?」


 オリビアは、そっと彼の広い大きな胸板に飛び込む。


「覚めないで欲しい」


「可愛いことを言ってくれますね・・・」


 彼のオリビアを包む腕に力が入る。


「私・・・私ね、学生時代からずっと・・・リアムさんのこと好きだったの」


「知ってましたよ」


「ええ?!」


「僕は、性格が悪いんですよ」


 その微笑みで、全て許せてしまうのだからこの人は本当にズルい人だ。この日、二人は初めての夜を過ごした。

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