第16話動き出した犯人 ①
「ほら、あんたのせいで信号に引っかかたじゃない」
ちょうど、俺たちが横断歩道を渡ろうとしたところで、信号機が赤へと変わった。
「葵ちゃん、それはお兄さんのせいじゃないわよ」
美咲ちゃんの言う通り、信号機が赤になったのは俺のせいではない。とんだ言いがかりだ。
「そうだよ。赤になったのは俺のせいじゃ…………」
そう言いかけた時に、突然、俺の体が車道側にぐらりと傾いていく。
えっ!?
今、たしかに背中を強い力で押されたよな。
横を見ると、大型トラックが俺に向かって走って来ているのが視界に入る。
「キャーッ!」
「あぶない!」
キィィィィーーーーーーィィィィーー!
葵と美咲ちゃんの叫び声と、トラックのブレーキ音がシンクロする。
ブレーキの金属の焼け付く匂いと、路面をタイヤが滑っているのだろうか、ゴムの擦れた匂いが鼻につく。トラックは必死に止まろうとしているのだろうが、どう見ても止まりそうにない。
こんな場面なのに、妙に覚醒している頭でこのピンチを何とかしなきゃと、考えてはいるのだが、何か妙案が浮かぶ訳でもなく、俺の体は地球の重力に引かれて倒れていく。
「ダメか…………」
そう諦めた瞬間、葵が大きな声を発する。
「諦めるなんてあんたらしくないつーの!」
葵の声とともに、葵が俺の制服の背中を掴み、勢いよく歩道に引き戻した。
間髪を置かず、俺の鼻先を大型トラックの車体がスローモーションのように通り過ぎる。
ギリセーフだ。
横断歩道の手前で二人が尻もちをついた状態になり、まわりの通行人が集まってくる。
「なんだなんだ」
「どうしたの?」
ざわめきの中、厳つい格好をした年配の男が近づいてきた。
「おい! 兄ちゃん、大丈夫か!」
「は、はい」
どうやら、俺の鼻先を通り過ぎたトラックの運転手らしい。
「急に倒れて来たから、本当にびっくりしたぜ。そこの姉ちゃんがいなかったら、大変な事になるところだったな」
「そ、そうですね」
この人の言う通り、葵がとっさに手を伸ばしてくれなかったら、今頃、俺は救急車に横たわっていたかも知れない。
「しかし、急に倒れて来るなんて、お前さんは体の具合でも悪いのかい?」
「いえ、すみません。少し足を滑らせたみたいで……」
「そうか。まあ、とりあえず大事に至らなくて良かったな」
結果的には無傷で良かったって話になるんだろうが、実際にはそういう簡単な事ではない。
間違いなく、俺を押した犯人が何処かにいるはずだ。
俺は周りに意識を集中させる。元々、下校時で人が多かった上に、この騒ぎで一段とギャラリーが増えている。この中から犯人を探し出すのは到底不可能だ。
ぱこ〜〜〜〜ん!
えっ!?
俺の後頭部に衝撃が走る。葵の奴が俺の後頭部を叩いたようだ。
「ったく。何やってんのよ。あんたは! 本当にどうもすみませんでした」
葵は深々とトラックの運転手に頭を下げ、俺にも頭を下げさせる。
トラックの運転手は、葵の様子を見て苦笑いしながら車に乗り込み去っていった。
「ほら、私たちも帰るわよ。こんなにいっぱいの人に囲まれて、ほんっとに恥ずかしいんだから!」
葵は俺を引きずるようにその場から離れさせる。その間も美咲ちゃんは俺のことを心配して「大丈夫ですか?」「怪我はないですか?」って言ってくれてる。
美咲ちゃん、マジ天使だ! それに引き替え、我が妹は…………。
「足を滑らせるなんて、マジ、だっさ! 早く美咲ちゃんを送って帰るわよ!」
「へいへい」
相変わらず不機嫌そうにしている葵の言う通り、美咲ちゃんを家まで送り帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます