第14話三人の容疑者! ⑥
化学生物部室
化学生物部の部室は旧校舎一階の一番奥の方にある。ちなみに、ミス研の部室は二階の渡り廊下から二つ目の教室が部室になっている。
「すみません。香月先輩はいらっしゃいますか?」
部室の中は窓に遮光カーテンが引かれていて暗く、動物の入っている水槽の上に置いてあるライトの光で辺りが見渡せるくらいだ。
葵は怖いのだろうか、後ろに隠れて俺のシャツの背中の部分をちょこんと摘んでいる。
「すみません! ミス研の者ですが!」
「何の用ですか?」
「ひぃーーーーっ!」
暗がりからぬぼーっと現れた香月先輩に、葵は驚いて後ずさった。
「何ですか? 騒々しいですね」
色白というか青白いって言っていい程の血の気の無い顔に、銀縁の眼鏡、ひょろっとした姿は、さすがの俺も現実に存在しないあんなものや、こんなものを見たのかと錯覚してしまうほどだ。
「すみません。少しお聞きしたいことがあったので」
「なんだね?」
「2日前の朝、一年生の教室に入ってらっしゃいましたよね。何か用があったんですか?」
「2日前? 僕は毎朝、全クラスを回っているよ」
「えっ、どうしてですか?」
「君たちは知らないでしょうが、各クラスにいる生き物は全て、化学生物部が貸ししている物なのです。僕はその生き物の健康状態などを毎朝見て回っているのですよ」
「あー、そうだったんですか」
確かに、各クラスに生き物が飼われている。それを管理しているとなると、毎朝、各クラスを回っていてもなんら不思議は無い。
「もう、いいですか? 僕は忙しいもので」
「あ、すみません。ありがとうございました」
「こんな感じの会話でした」
「ふ〜ん。生き物の世話のために、毎朝、各クラスを回っているのか。それだと、あの日、唯倉さんの教室に入っても、何の問題もないことになるな」
「はい」
「しかし、私たちの教室にいる生き物が、化学生物部の借り物だったなんて初めて知ったよ」
部長は納得したような顔をしている。
俺も元々そういうことには疎いのだが、てっきり、学校側が生徒の情操教育の一環として置いているものだと思っていた。
「それで、最後の柳田はどうだった?」
「はい。これが…………」
第二グラウンド
うちの学校はグラウンドが二つあり、部活の際には第一グラウンドを野球部が、第二グラウンドをサッカー部が使用している。
「えーと、柳田先輩はどこだ?」
サッカーのフィールド縦110メートル、横70メートルの中を走り回っている部員の中から、柳田先輩を探し出すのは極めて困難かと思っていた。
しかし、それは取り越し苦労に過ぎなかった。
なぜかと言えば、これだ。
「キャーーーーッ!」
「柳田先輩ーーーーっ!」
「かっこいいーーーー!」
フィールドの一角に、女子生徒の集団が見える。その女子生徒の視線の先を追っていくと、色黒で濃い茶色の髪をしたスリムな部員が、出されたボールをゴールネットに突き刺している。
「さすが、柳田先輩! 大人気ね」
「まあまあかな」
俺もたくさんの女の子がキャーキャー言うのは、芸能界とか、プロのスポーツ界にしか無いと思っていたので驚きはしたのだが、それを認めるのもシャクに触るのでサラッと流してやった。
「んー、どうしよう? こんな状況だと話し辛いなぁ」
「じゃあ、私に任せて」
「任せてって、おい!」
葵はスタスタとフィールドに入っていき、そこらへんにいたサッカー部の部員を捕まえて声をかける。その部員は、柳田先輩の方に走り寄ってひと言ふた言、話した瞬間に凄い勢いで柳田先輩がこちらに向かってきた。
「どう? 凄いでしょ」
「おまえ、何、言ったんだ?」
「えっ、何って?」
葵は軽く笑みを浮かべながら、トボけたフリをしている。
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