第13話三人の容疑者! ⑤
「初めに前置きをしておくけど、これはあくまで一年生の間で噂になってる事だからね。」
「了解」
「では、まず、香月先輩。陰気臭くって、いつも実験動物と話してるらしいよ。時々、植物と話してるのを見た人もいるって。キモって感じかな」
うわっ、これはひどい! 絶対に本人には聞かせたくない話だな。
「で、柳田先輩は?」
「柳田先輩は評判いいわね。サッカー部のエースストライカーだし、イケメンだしね。一年女子には絶大な人気があるわね」
ふぅ〜ん。こちらも、別な意味で本人には聞かせたくないな。いや、別に俺がモテないから嫉妬して言ってる訳じゃないんだよ。本当に。
「おまえはどうなんだよ」
「ん? 何のこと?」
「何のことって、柳田先輩のことだよ! かっこいいって思ってるのか?」
「ん〜ん、どうだろう」
「どうだろうってなんだよ。その微妙な返しは!」
「おや? もしかして妬いてるの?」
「そ、そんなわけないだろ!」
何言ってんだ! この妹は! 妹が誰を好きであろうが、妬く兄なんて普通いるわけないつーの!
「おや〜っ、なんか挙動不振ですが?」
「言ってろ!」
「ふぅ〜ん。まあ、柳田先輩は私の好みじゃないんでパスかな」
「そ、そうか」
改めて言っておくけど、葵の奴が誰と付き合おうが俺は何とも思わない。だから、今言った『そうか』は文字通りの『そうか』で別に安心したとか、ホッとしたの『そうか』じゃないからな。って、俺は誰に言い訳してるんだ?
こんな会話を葵としながら、職員室で上野先生と、化学生物部室で香月先輩と、グランドで柳田先輩に話を聞いてミス研の部室に戻った。
「お帰りなさい。葵ちゃん! お兄さん!」
部室には美咲ちゃんが部活を終えて待っていてくれた。
「ただいま! 美咲ちゃん」
葵は美咲ちゃんに駆け寄って話を始める。あ、ちなみに、美咲ちゃんはテニス部に所属していて、全国大会に出場する程の腕前らしい。
「和紗君、三人の様子はどうだった?」
小早川部長がノートパソコンの前で、机に突っ伏して顔だけをこちらに向けている。廊下の利用状況調査がかなりハードな作業だったのだろう。知夏ちゃんも隣で突っ伏している。
「まずは上野先生ですが…………」
職員室
俺と葵は窓際のデスクにつき、手もとの資料を広げ、ノートにペンを走らせている35歳くらいの男性教諭のもとに向かう。
「先生、少しお話しを聞かせていただいてよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
上野先生はゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
「実はうちの部で、校内の廊下利用状況調査をしていまして」
「ああ、防犯カメラの映像を借りていったのは君たちか」
「はい。で、一つ気になった点がありまして」
「何だい?」
「二日前の早朝、先生は一年生のクラスの廊下を歩いていらっしゃるのを見たのですが、何故、あんなに早い時間にあの場所にいらしたのか気になりまして」
「二日前?」
上野先生は男性教諭としては珍しく、耳が完全に隠れるくらいの髪の長さで、目に掛かるくらいの前髪を指で弄りながら、少し考える間をおいてから答えた。
「んー、ああ、思い出した! 唯倉さんにテニスラケットのガットを持って行ったんだよ」
「テニスラケットのガット?」
「僕はテニス部の顧問をやっていて、前日に唯倉さんがテニスラケットのガットが切れそうだって、言ってたのを思い出して教室に持って行ったんだよ」
「そうなんですか」
「こんな会話で、特別あやしいそぶりは無かったですね」
「そうか」
部長は突っ伏していた顔を少し持ち上げて、話をしている葵と美咲ちゃんの方に向けた。
「唯倉さん、手紙が入っていた日に上野先生からテニスラケットのガットを貰った?」
「えっ、あ、はい。登校したときに机の上に置いてありました」
「そう。ありがとう」
部長は再びこちらに向き直り話を続ける。
「上野先生が教室に行った理由としては、何ら問題が無いという事になるな」
「そうですね」
「香月はどうだった?」
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