双子の妄想話と未来ノート

よだか

第1話 不服だらけの双子。

 学生会室の中央、長机を3つくっつけた周囲にパイプ椅子が大体10個くらい無秩序に並んでいる。壁には行事のポスターに混ざってダーツやら、モデルガンがかかっていたり、誰が投げたのかナイフが刺さっていたりする。見つかったらまずい系のものはあからさまに見えて死角になる角度にしてあるあたりここに住まうメンバーが抜け目ないことを物語っているようだ。

うっすら残っている喫煙の痕跡を誤魔化すように窓を開け、窓を背にした上座に荷物を置いて改めて部屋を一瞥する。冠城 一条かぶらぎ いちじょうはこの春入学したばかりの倉木短期大学の1年生、学生会会長である。なり手がいなく立候補したら入った程度の敷居の低さなれど冠城には大事な計画の1歩である。


 「おはよー、ございます。……一条、早いね」

 「お前達もな。1限からか?」

 「ううん、3限」

 「姉ちゃん、兄ちゃんが荒れていてさー」


 入ってきたのは黒髪を肩近くまで伸ばしている同じ1年生、沢辺 結城さわべ ゆうき・勇樹、合わせ鏡のようにそっくりな男女の双子。ややこしくも名前が同じ読みという。基本的にユニゾンで話すことが多い。おそらく入れ替わっても見抜くのは難しい。結城は声も低めで……スレンダーだ。一見して女性らしさを見せていないのか、ないのか。まぁ、そこは突っ込まないでおくとして。



 この2人は冠城が直々にスカウトしてきた。目立っていたということもあるが気になったのは目だった。つまらなそうで、不服そうな冷めた目。数週間観察をしていて余計に興味は深まった。言動は優等生、人群れから離れた途端に冷たい拒絶したような目になるのだ。まるで、ここに居場所はないとでも言うように。


 『自分を変えてみないか。面白いことをしたくはないか。少しでも気になったなら俺が場所をくれてやる。……来いよ、俺の場所に』

 双子は微笑った。きょとんと目を丸くして、ぱちぱちと全く同じタイミングで瞬きをして笑い声を奏でた。興味深いものを見つけたと彼らの視界に映ったことを確信する。

 『いいよ、特技も何もないけれど行ってあげる。……学生会長さん』




 役職名を持たない双子の学生会員は眠たそうに背負っていたリュックを机に投げ出して枕代わりにして突っ伏した。講義がない時は大抵メンバーはこの部屋に集い、思い思いに過ごしている。双子は、よく寝る。水を向ければよくしゃべる。

 冠城は肩を竦め、自分も椅子に腰を下ろした。さり気なく薄いノート2冊とボールペンを出す。3か月の間に確信した。自分に足りない欲しいものを語る者達。それは妄想であり、大人の見る夢であり、願いだった。


 「姉さん達、なんで荒れてんだ?」

 「滅びろ、ハッピーマンデーだって」

 「?」

 「事務職は連休があると仕事が鬼のように増えるらしい。休日出勤も制度的にできなくなって激務になるだけじゃなくトラブルも勃発するし、個人的には情緒もないのが嫌いみたいで。兄ちゃんは休みが平日な人だから連休も仕事で、人間が押し寄せるのと休めなくて可哀そうという人がいて、ついでに興味があるイベントがあったみたいで苛々してる」

 「社会人は大変だな。……やつ当たりされるお前達も」

 「本当にね……世の中一律土日祝休みじゃないんだからさ。平日にイベントやってもいいのにねー」

 「……ふむ、就業形態によってイベントの参加層を分けるということか……」

 「それにー、仕事内容によって休み方選べたらいいのにね。もしくはフォロー体制? 各種目基本ひとりが担当って負担半端ないじゃん」

 「外国では仕事と残業時間とかの規定に合わせて自分でスケジュール立てて休みも取れるって聞いたことがある」

 「姉ちゃん言ってたね。土日祝休みだと他の用事は平日に休みをとらないといけなくて面倒って。せめて退勤後に窓口対応があればかなりマシなのにって口癖だよな」

 「で、休みを取った間に机が山になってキレる、と」

 「他の人やればいいのにと思うけど、皆余裕がないからできないって……社会に出たくないな……」

 「うん。特に姉ちゃん見てるとさ……旅行から帰ってくると一気に憂鬱になってること多いから。仕事の山は兎も角、トラブルが待っていて対応できる人がいなかったからこじれまくってた、とか。安心して楽しめないって泣いてた時はこっちも凹んだもな……」

 「休みやすく、フォローが自然に入るというのは理想だな。窓口はニーズに合わせてシフト制を取り入れれば退勤後に手続きができる……いや、窓口に関わらず一般人が退勤した後じゃないと接触できない例もある。職務によって勤務時間を調整するのは必要だ」

 「不便なら変えればいいのに、まどろっこしいよね。世の中は」

 「やってみてダメなら元に戻すなり別のに変えればいいだけなのに。意見を言えば前例が、無理だ、机上の空論だ、デメリットが、金がないから。あー面倒」


 双子に相槌を打ちながら、こうなればいいのにを箇条書きにして、計画が浮かんだものはそれも書いていく。吐き出して落ち着いたのか双子の雰囲気が少し寛いだものになった。冠城はパンッと大きな手を打ち合わせた。


 「さて、不服だらけのお前達。教授陣が困っているらしいんだが中途退学者食い止めの案はあるか?」

 「…………噂集めたら?」

 「その心は」

 「経済的とか家とかの問題じゃないのなら、ボヤキの中に問題は埋まってるよ」

 「よし、集めろ」

 「はーい」


 双子の目が面白そうに輝いて示し合わせたようにリュックを片手に立ちあがって出ていく。感覚的な独自な思考と意見。表立った特技がない代わりに人間観察は秀でている。冠城はそれを活かす。使える手を全て使って計画を実現する。

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