3.56995 愛を知らずに育ったまるで野犬のような人

事件あれから一週間が経った。


今日はクオーリア先輩がまた学校に登校して来ていた。

先輩はいつものような元気な笑顔で

僕やチルダに接してくれた。

「先輩。もう大丈夫なんですか?

無理はしなくても大丈夫ですからね?」


「アハハ、もう大丈夫だよ。

私の方こそ心配かけてほんとごめんね~。

ほら、このとおり。ピンピンしてるよ!」

先輩は元気な事を僕達に証明したいのか、

僕の背中をサンドバッグににて軽くジョブを何発か入れてきた。


「痛つ! 先輩、手加減して無いでしょ!」


「手加減してるよ。じゃあ一発手加減無しで当ててみるね。そ~れ」


「ちょっと先輩? やめてください!

ほんと勘弁して下さい!」


「情けないね~。冗談に決まってるじゃん」

先輩はオロオロと慌てふためく僕を笑った。


「クスクス」


「ちょっとチルダ?あなたまで笑ってるよね?」


「だって、アーレス先輩がクオーリア先輩に

いじられるの、見ていて面白いんですもんw

クスクス」


「ひどいよ、二人とも~」

先輩とチルダは笑う。

そしてそんな二人の笑う姿をみていた僕も

なんだか楽しくなり

いつの間にか一緒になって笑っていた。


この幸せな瞬間がずっと続いて欲しい。

僕は心の中で何度もそう願っていた。

しかし、僕達のこの平和な日常は長くは続かなかったんだ……。



その日の放課後、チルダは部活に来なかった。

先輩曰く、昼休みにチルダが職員室に呼ばれ、そのまま早退したらしいのだ。

先輩もチルダの担任の先生にそれだけを聞いただけらしく、

早退した詳しい理由はわからないみたいだ。


放課後の部室には僕とクオーリア先輩だけ。

僕達がとるべき行動は決まっていた。

「先輩、どうしますか?」


「もちろん今日の部活は、チルダのお見舞いよ!

さあ、アーレスもすぐに行く準備をして!」


「わかりました! 僕も先輩がそう言うって思ってましたから、準備は出来ています。

さあ、行きましょう!」

僕と先輩はチルダの家へと向かった。



・・・・・・

「誰も居ませんね?」

僕達はチルダの家に着いたが、

家には誰もおらず、玄関のドアも鍵が閉まっていた。

「ほんとよね。少し待ってみましょうよ」


「そうですね」

僕と先輩は玄関の前でチルダの帰りを待つことにした。

そうやったまま暫く待っていると、チルダのおばさんが戻ってきた。


「おばさん、こんにちは。僕達チルダに会いに来たんですが、

今どこにいるか知っていますか?」

僕はおばさんに早速聞いてみた。


「チルダ……」

おばさんは下を向いたまま、

泣いていた。


「どうしたんですか? チルダの身に何かあったんですか?」

僕と先輩は、おばさんにチルダの行方を聞いた。


「チルダが家族を助けに行ったんですか?」


「そうなんです。私が留守の間に置き手紙を残して、

あの子は一人で大切な家族を助けに行くって出て行ったんです」


僕の脳裏にはクオーリア先輩を人質に取って捕まったテラスの男が浮かんできた。


「それでおばさん。チルダの行き先にどこか心当たりはありますか?」


「家族のトラブルに関係の無いあなた達を巻き込むなんて出来ません。

それにチルダ自身もそれは望まないでしょう」


そういう理由でなかなか行き先を教えてくれなかった。


こんな停滞した流れを変えたのは

今後も先輩の一言だった。

「おばさん? あなたにとって大切な娘さんなんでしょ?

チルダを追わなくていいんですか?

それと、私とこいつは無関係じゃありません。

私とこいつはチルダに約束したんです。

友達になるって。どんな時も助け合おうって。

友達の事を心配して口を挟んじゃ駄目ですか?

例え危険を承知でも、友達を助けに行っちゃだめですか?

お願いです。チルダの行方を教えてください!」

先輩はおばさんを強い口調で説得し、

行き先を聞いた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

おばさんは下を向いたまま泣き続けていた。


「おばさんありがとうございます。

絶対に娘さんを救ってきますから」


「アーレス? 行くよー! 覚悟はいい?」


「もちろんです、先輩!」

僕と先輩は、チルダを追いかけ処刑場に向かった。


「ねえ先輩?

あそこに有刺鉄線が見えますが、

処刑場ってあそこじゃないですかね?」


僕達は処刑場の入り口の外にたどり着いた。

入り口は、銃を持った軍の警備が厳重で、

僕達一般人の学生はとれもとても通してくれそうな雰囲気では無かった。

僕達さえ簡単に入れそうに無いんだ。

チルダがすんなりと入れてるとは思えない。

もしかしたらチルダはまだ入口の外で、中に入るタイミングを伺っているかもしれないな。

僕と先輩は手分けして入口付近でチルダを探すことにした。

道端の人達にチルダの特徴を説明をしながら見かけてないか聞いて回った。

チルダらしき人がショッピングモールの方へ向かったという目撃証言をもらい、先輩とそこへ向かった。


とりあえず僕と先輩はショッピングモールのフロアマップで

どんな店があるか調べることにした。

「銃を扱っている店もあるんだ。もしかしたらチルダはそこに……」


早速、銃を扱っている店に行くと、

店員と話すチルダを見つけた。


「チルダ、 探したよ!」

先輩は早速チルダに話かけた。

「せ、先輩達じゃないですか!

ど、どうしてここへ?」

チルダは僕達がここへ来たことにに驚きを隠せないようだった。


「チルダが早退したって聞いたからさ。

おばさんにも聞いたよ。

私達本当に心配したんだよ」


「知られちゃったんですね。

先輩達を危険に巻き込みたくないから秘密にしたの」


「危険だからって、一人で悩みを抱えちゃだめ!!

私達はどんな悩みだって話せる友達なのよ!」


「ごめんなさい」


「まあまあ、チルダが無事で良かったですよねw」

僕は先輩とチルダの間に入って、二人に落ち着いて貰うようになだめた。


「ところで、どうして銃が売っている店に来たの?」

先輩がチルダに聞く。


「あたしは処刑場に入りたいんですが、警備が厳重で入れて貰え無かったんです。

だから……。

銃はハッタリで使う予定で、誰かを実際に打つつもりは無いんです。

ごめん……なさい」


「銃を持つという武力で解決しようとしているチルダの行動、

私、大~~っ嫌い!!」


「 ・・・」


「でもね……」

先輩は続けた。

「チルダがそれだけ必死なんだってことはわかる!

だから、チルダがそこまで必死になる理由、教えて?」


チルダは僕達に理由を話してくれた。

「チルダが助けに来たのは駅のテラスで

クオーリア先輩を人質に取った人だろ?」


「そう。もう処刑まで時間が無い。

早く助けに行かないと……」


僕達は作戦を考えた。

チルダのお兄さん救出作戦開始だ!

まず僕達はショッピングモールでエプロンや薬、スタンガンとコーヒーとドーナツを買って準備を整えた。


「買うものは買ったし、じゃあ二人ともお願いします」



一処刑場入口一

『おい、入り口の方から怪しい格好をした母と娘の親子が入って来たぞ』


『え?あいつらのことか?

ちっこい方は隣の女と顔似てないし、

あれはどう考えてもただの幼女だろ。

アハハ! ハハハ!』


◇小声◇

「ムカ~!!

聞こえてるっつーの!

ねえ、チルダ?

私ちょっとあのデリカシーのかけらもない警備のおやじ達が、二度と口をきけないように

きゅうえてこようと思うんだけど、いいかしら?」


◇小声◇

「だ、駄目ですよ先輩!

それに、ここで先輩が本気を出しちゃったら、

この後の展開が……、あ!何でもないです」



『よく見るとあいつら出前の店員みたいだぞ。

お前出前取ったか?』


『え?俺知らないぞ。お前じゃないの?』


「すみませ~ん!

私達、コーヒーとドーナツをお届けに来ました~♪」


『ちょっと待て! 俺達は出前なんて頼んでいないぞ!

本部からの支給かな?怪しいな!

本部に電話して聞いてみるから、ちょっと待て!』

二人にそう言うと、警備員の一人が電話をかけはじめた。


『ドキ!』

先輩にチルダに、それに遠目から様子を伺っている俺は、

目をつむりバレてしまったんだと覚悟を決めた。


『…………、繋がらないな。

まあいいか。コーヒーとドーナツか。それを貰おう。

本部からの支給なら支払いは今しなくてだいたいだよな?』


「も、もちろんです」

うっしゃー! やったね!

僕達は無事、作戦の第一フェーズを達成することができた。


『ふぅぁあ~!

あれ? 何か今凄く眠たくないかぁ~?』


『俺も何だか急に眠気がきたぁ~!

……バサッ』

コーヒーに大量に混ぜた眠り薬が効いたらしい。

コーヒーを口にした警備員二人は眠って床に倒れ込んだ。


さっそく僕達は眠っている警備員から服や装備一式を奪った。

「アハハw

クオーリア先輩、服のサイズ全然合って無いですねw」

「アーレス?

あんたまだ常日頃のあたしにたいする反省が足りないようね?」

『フン!』

「ちょっと先輩、腕痛い痛い痛い痛い!」

「例えばココをこうやっても、

あんた先輩のあたしに向かって

そんな生意気なこと言えるかしら~?」

『フ、フンガァァァ~!!!』

「ぐー!!!!!!

ぐ、ぐ、ぐるじー×$@△!!」


「クオーリア先輩?

アーレス先輩白眼で泡を吹きはじめましたよ?」


「え、ホント?

手加減間違ったかな?

私としたことがイッケネェ~♪」

『てへ ぺろ🖤』


『すぅ~~~~!

は~~~~!

すぅ~~~!』

あわや意識がブラックアウトしそうになった

僕は、不足していた分の空気を慌てて取り込んだ。

「アーレス許して、ゴメンってば~w」

「ったく先輩わかってます!?

可愛く てへ ぺろ なんで読者サービスやってる場合じゃないですよ~!

首は死にますんでわりとマジで!!」


「ところでアーレス先輩?

そろそろ先……、急ぎませんか?」


「そうだね、ごめんねチルダ。

それと……、

先輩にはハイ、これを!」


「何?

このスタンガンは私が持っておけと?」


「はい。唯一の武器スタンガンは先輩に預けておきます。

先輩は私服のままで、僕とチルダの後からついてきて下さい」


「わ、わかったわ。

じゃあ、この警備服は私には不要ね?」

先輩はそう答えると、元は自分が着るはずだった警備服をチルダに渡した。


その後、

僕とチルダは後ろからついて来ている先輩が見つからないようにごまかしつつ、行き当たりバッタリに通路を進みながら最終的に

処刑台のところまで無事たどり着く事が出来た。


一処刑場一

・・・・・・

処刑台には警備員が一人しかいなかった。

警備員をスタンガンで眠らせた後は、

辺りはしんと静まりかえっていた。

そして……、

処刑台に目をやった僕達の瞳には、

決して巻き戻せない残酷な現実だけが映っていた。




















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