第54話「悪魔の罠」後編(改訂版)
第十四話「悪魔の罠」後編
「…………宮、老婆心ながら申し上げますが、この状況は余り宜しくないのでは」
王の寝所を退室したばかりの少女の傍に……
「……」
腰まで届く降ろされた緑の黒髪と対峙する者を
それは冷酷非情と噂される”
比類無き美貌の少女は、白く透き通った肌と対照的な
「これは完全な罠でしょう……
「……」
老家臣は主からの返答が無くても構わずに進言を続ける。
諸々の現状報告と今後の方針決定のため王の部屋を訪れた
現在の状況を危惧した彼は、主である
「……」
暗黒の美姫は尚、沈黙したまま。
――何故ならそれは、側近の老家臣に言われるまでもないこと
暗黒の美姫、”
「……陛下が、今暫し待ちたいと仰せなのだから、私たちはここで待機する他はないでしょう」
そして胸に秘めた杞憂とは逆の言葉で答える。
「ですが……宮はこの
「その
「そ、それこそがっ!」
「…………」
主である少女、
恐ろしいまでに
聡明なる少女の瞳が、そんな危険性は
老いたといえども、
そして、これは”
立ち会いには宗教国家”
対外的にも大国が国家の威信をかけた協議を反故にすることなど、大国の誇りとして有り得ないことなのだろう。
当然それは相手国である
「……待ちましょう、それが陛下のご意思よ」
それでも
いるのだが……
――
絵を描いたのは”
表面的に上手く
国の……個人の信望を著しく損なうかもしれない賭けを、この規模で行っては取り返しが付かなくなるかも知れない。
下手を打てば、末代まで”痴れ者”と罵られるばかりか、たとえ”
”策”というものは……
戦場ではどのような奇策も謀略も存在を許される。
しかし、国政に限って建前は重要だ。
謀略はあくまでも水面下で……信義無くしては国家は成り立たない。
なればこそ、今後の”
実行すれば実益が極めて高いとしても、常識では選べない選択肢だろう。
”常識”では……
だが、”
ある意味では”英雄”ともいえる人物だ。
「……」
そして――
これほどの大国を巻き込むような壮大な構想を基にした謀略を成せるほどの才気と人脈を持った人物など”
――
しかいないだろう。
謀略の首謀者は必ずその結果の利益の先に居る。
なら、
しかし現実には……
ほぼ確実に蠢いているのは
確実と言えるまでは結論に至れていなかった。
その僅かな迷いが……
王佐の責務が……
そして
「宮、幸い明後日は世界が”
「…………」
老家臣の言葉を少女は沈黙で否定する。
それもそうだろう。
”
「では……連絡の取りやすい”
「…………」
それではと、次案を提案する老家臣にも
これが仮に
「で、では……六大国家会議に初参加される
再三の献策を否定された
「
「そうです!鈴原殿なら……なにかと宮にお心をかけられている、
「…………」
しかし、明らかに先ほどまでとは違い、見た目にも彼女の心が波立っているのが解る。
「宮……ぜひ鈴原殿に!」
それは僅かな雰囲気と表情の変化ではあったが、
「いえ……やはりこれは私の決断することでは無いわ、真実がどうあろうと、大同盟という
僅かな沈黙の後、少しだけ自虐的な笑みを浮かべた口元で彼女はそう呟いていた。
「宮……」
その表情の、魅惑の瞳が奥に潜んだ穏やかな光りを確認して、老家臣、
実際、これまでに
しかし、
それは彼女自身自覚しているし、当の
彼女は密かに期待してもいる。
それを、自分でも確証の持てない”陰謀”という都合で邪魔するわけにはいかない。
今回のように唯々危険で、確たる証拠も見返りも無く……
更にはそれが例え現実のものになったとしても、”
あの
――冷静さを失うかもしれない
――自国の判断を誤るかもしれない
彼女は自身の生命よりそれを危惧していたのだった。
そういう愚かな判断を
しかし……
「…………」
――”
「っ!……と
彼女は一瞬で”相反する感情”を心の内に抑え込み、
――
言葉の後、黒髪の希に見る美少女はその場を後に歩き始めた。
そして、老家臣も黙ってそれに従う。
「……」
いや、
未だ
――”だからこそ世界は……人が統べるに値する世界に再編成されなければならない”
「……」
――確かに杞憂かもしれん、しれんが……
――もしそうなら、なんたる恥知らずか!なんたる卑劣か!
堂々たる”外交”でも”戦”でもなく、卑劣窮まる”謀略”のみで……
それを解っていても、そうするしか出来ない状況に……
人としての矜恃に付け入る……
予見しても避けることの出来ない悪意の謀略……
――それは最早、駆け引きなどという代物では無く、運命を弄ぶ悪魔の所業ではないか?
もう知る者の方が少ない昔に、大国
――我が主を害する者は何者であろうと、この我が廃する!!
と……
第十四話「悪魔の罠」後編 END
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