第33話「最嘉と好まざる奥の手」後編(改訂版)
↓久鷹 雪白のイラストです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892613273
第三十三話「
「……なんのつもりじゃ、鈴原……
ガッ!
邪魔な俺を押し
スチャ!
直ぐに
「だ・か・らぁ、関係あるんだよっ!
俺はそんな状況にも怯まず言葉を……
「ふん!客将から家臣にでもしたというがか?……そんなことがっ
――そうだ、通らない!
後、可能性があるとすれば……”
寝返り工作により優秀な人材が仕えるべき主君と国から鞍替えする事は確かにあるが、それは裏切り行為としてあまり世間体が良いとは言えない。
それに戦時下ならいざ知らず、このような真っ当な戦時協定中の行為として、常識的にそんな不誠実が国家間で赦されるはずも無い。
なにより……”
――これは俺の私見だが……
今までの
――幼い頃からの洗脳教育……
国家に対する忠誠、国家元首に対する尊敬と服従、武人としての誇りと道理……
教育の対象は多々あるが……
間違いなく
逆を言えば、国家や主君への忠誠心は結構おざなりっぽい。
戦場で最初に出会った時、俺は
――気の毒だが
それは、
当時捕虜であった俺が、
俺達、
その時の俺は……
結果的にそれを受け入れた彼女の感情の乏しい表情からは、結局、彼女の心情を読み取ることは出来なかった。
ただ一つ……俺はそれが”ひどく空虚な顔”であったのを憶えている。
結局、俺の策を採用して生き残った後も隠れて
敵国内での潜入工作、スパイという命がけの任務であるにも拘わらず、淡々と命令を
決して愛国心とか、そういう使命感のようなものは皆無だった様に思う。
以上の材料から、今の段階で俺が推測する
母国である
だが、”武人として主君の命令には従うのが本道”という理想への土台が確かに彼女の中に確立している。
それは根本的な価値観、俺のよく言うところの”立ち位置”と言えるものかも知れない。
だが問題は……それが本当に
――いや、論点がずれたな
つまり何が言いたいかというと、自身の感情と相反しても武人の誇りと道理を全うしようとするこの変なところで石頭な女は……
”寝返る”ことなど決して無いと言うことだ。
――たく……ほんと厄介なお嬢様だよ
「ふん、人形が寝返るわけ無いじゃろう?……どうぜ、
当然それを見透かしているだろう
「……」
――あぁ、こういうところ……性格悪いな、
「……」
だが、どうせいつも通り無表情なんだろう……
――いつも通り、感情の無いフリをする
「ふん、人形が!手間掛けさせおって」
「…………」
――ほんと、いつも通り……
――ああ、なんかムカついてきた!
「…………」
――厄介なことは……
――自分の手に余る、手の届かないと決めつけた事は……
ガタンッ!
俺は”
「っ!」
そして、無力を肯定する忌忌しい”
――っ!?
俺の突然の行動、ただならぬ雰囲気にざわめくその場。
「さ……いか?」
白い銀河を驚きの空模様に変え、少女は俺を見上げた。
「……」
――やはり……
肘を乱暴に掴まれ、強引に引き上げられた躍動感の欠片も無い四肢の少女は……
”やはり”持ち上げられただけの魂の通わぬ人形のようだった。
――プツンッ!
俺の中で何かが切れた。
「
「っ!」
大きく見開かれる
――そうだ、そんな女は一人で充分だっ!二度と俺の前ではその存在を許さないっ!
「さい……か?でも……わた、わたしは……」
戸惑う
自分の想いと乖離していても植え付けられた倫理に従おうとする石頭……
――それは自分の幸福に繋がるのか!?
「デモもストも無い!いいか良く聞けお嬢ちゃん……」
「ぁ……」
少女の拙い言い訳を遮る俺の剣幕に、どうしようも無い”お人形姫”はゴクリと息を呑み込んで俺を見上げていた。
「”そこ”は楽をするなっ!!」
「っ!!」
語気の強い俺の言葉に、腕を掴まれたままの
「さいか……さいか……わたし……」
――知っている……
「苦しい時は、正解が解らなくなった時は……他人に植え付けられた価値観に丸投げするのか?自身の過去を、あまり良いとは言えない人生を逃げ道にするのか?」
「……さいか」
――お見通しだって……
「教えてやったろ?
「……うん……うん……だから、だから……さいかぁ……」
美しいという表現さえ陳腐に感じる壮麗なる星の双眸を滲ませて……
――さぁ……
「お前はどうだ?どうにもならないなら、未来が自分の想いに応えないなら、さっき俺に斬り殺されていた方が良かったのか?」
「っ!?」
見開かれた
先程までの戦闘状態で、
剣が抜けなかったとは言えあの諦めの良さは……
今から思えば、
――
――さぁ!さぁ!後は……アクセルを踏むだけだ!
「俺は終わらせてやらんぞ、
「さ……っ!!」
その時初めて……
彼女の瞳は”輝く銀河を再現したような
それは”幾万の星の大河の
星に、銀河に、その大海原を渡る
――そうだ、目一杯に踏み込めっ!
「自分の命ならなぁ……他人に預けるなっ!!」
普通じゃない、修練のみの幼少期を過ごしたであろう無愛想な美少女剣士は……
普通じゃあり得ない熾烈な戦場、死地を生き抜いてきた不器用な”
「…………うん」
コクリと……
ゆっくりと、けれど、しっかりと……俺の目を見て頷いた。
――普通じゃない、普通じゃあり得ない人生を歩んできた
――ここで、普通に自分自身のために生きる選択肢を得る
「……」
決意の籠もった美しい銀河。
寸前で俺の名を呑み込み、ただ”うん”とだけ応えたのは、彼女なりの決意だろう。
俺には縋らないと……自分の人生は自分で決めると……
――俺はそう信じる!
「……ははっ」
――俺が今言った事だ。他人に預けるな……と
「ははは……」
けど、残念……
「…………」
俺の直ぐ傍で力強い
「な……なんぜ?」
全てが想定外、たじろぐ
――せっかくの決意だが悪いな、
困ってる友人が、仲間が、大切なひとが……
自分自身で困難に立ち向かうというのなら!いくらでも手助けしてやる!
「き、気味が悪……
「……」
そんな俺をジッと腕を組んだままで見詰める、我が麗しの想い
「……
その性分は”策士”としては資質に問題があるのかもしれない。
一国の主としては軽率の謗りを受ける性質なのかも知れない。
だが俺はそれでも、たとえ向こう見ずであろうと……
――”ハムレット”より”ドンキホーテ”が好きだっ!
「
「……」
「つまりだ!」
「……な、なんぜ……よ?」
すぅぅーー
静かに息を吸い込む俺。
――よし、覚悟は決めた!
「僕たち結婚しました!!」
「……」
「……」
静まりかえる室内……
「だから……俺達……」
「は?はぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!?」
”
壁際で腕を組んだ暗黒の美姫は終始余裕だった微笑みを貼り付かせ……
誰もが予期できぬピント外れの展開に……
一呼吸遅れてから、面々は間抜けな声を上げたのだった。
第三十三話「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます