第34話「雪白と剣の工房」(改訂版)
↓久鷹 雪白のイラストです↓
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第三十四話「
――
身寄りの不確かなわたしが八歳の時に預けられ、十三歳まで過ごした場所だ。
――わたしには良く分からないけど……
”
「……」
バシィィ!
「ぎゃっ!」
わたしの前に十歳そこそこ……同年代の少年が
「うわっほんとうに打ちやがった!」
「だから言っただろっ!こん
「…………」
――なんだか……周りが騒がしい
――相手の肩口に思いっきり打ち込んだだけなのに……
わたしはぐるりと騒がしい周りを見渡す。
「うわっ!こっち見た、目を合わすなよおまえらっ!石になるぞ!」
「ひーー!不気味な目しやがって、怪物女がっ!」
わたしの顔を見た途端、周りの男の子達が慌てて背を向けて口々に言う。
バシッ!
「ぎゃあ!」
ドカッ!
「ぐあっ!」
――斬りつけられたから斬り返しただけ……
――なのに、変なの……斬りかかっておいて、背を向けるなんて
わたしは木刀を投げ出して背を向ける不可解な男子達を後ろから次々と自身の木刀で殴り倒す。
――だって、こんな”あからさまな隙”を見逃したら先生に怒られるから……
「な、なにするんだよっ!白女!怪物女!」
「…………わたしは白女でも怪物女でもない……ゆきしろ……だよ」
「うるさいっ!皆言ってるんだよ、お前みたいな髪の毛と目玉の人種なんてバケモノだって、はるか海の向こうにそんな目の、人を石にするバケモノ女がいるって聞いたことがあるぞっ!」
――ほんとに?それは知らなかった……そんな怖い怪物がいるんだ?
「ねぇ、その怪物って強い?」
「ばっ!バカじゃねの!お前がそのバケモノだって言ってんだよ!」
「おい、いくぞ
「お、おうっ」
「あっ……」
わたしの質問に答えてくれないまま、倒れた何人かを助け起こして男の子達は去って行った。
そして、少し離れたところからこちらを睨み、口々にわたしに何かを叫んでいる。
「……わたしは……白女でも化物女でも無いし、石にもしないのに……へんなの」
その日もわたしはひとりで剣を振った。
――独りで、日が暮れるまで……
やがて先生が現れて、少し話して……それから
――また剣を振った。
次の日も次の日も……
独りで、ただ独りで……
わたしの周りに人が集まるときは何だか騒がしい時だけだった。
大人数で囲んで、大声で怒鳴って、稽古だと言って何人も襲い掛かってくる。
――へんなの……こんなのは稽古にはならないのに……
こんな程度は稽古とは言えないのに……
時が経って、それが虐めだという事をわたしは
わたしは怪物だから虐められるらしい。
それは当たり前で、それが正義だと
わたしの周りに人はいるのに、友達はいない……
どうしてだろう……それはわたしの容姿が変わっているから?
他の子供達も同じような事を言った、そして泣かないわたしは女じゃないと。
先生は言った、興味が無い、お前は剣の道のみを究めれば良い、それだけの存在だと。
……何年後か、大層な護衛を引き連れ、尋ねてきた女の人のような顔の、でも態度の悪い尊大な男は言った。
――
――
―
そして……そして、
戦うべき敵の大将であって、ちょっと前は降伏した捕虜であって、その後は仮初めの同盟相手であって……
――わたしは……いや……だったけど……
それは、欺くべき相手だった。
「……」
――鈴原
最初はそこまで興味があったわけじゃない……でも、会った時に変わってるとも思った。
”いいか、
傍目には絶対に助からないような状況でも、その男はそう言って無理にでも虚勢を張っていた。
滑稽だ。この男は世界の中で小さい存在が生きていくということを知らない……
本当はそう思ってた。
――けど……
今日、初めてわたしは……自分でも信じられないくらい運命に抵抗する……
やり方なんて解らない。
だってしたこと無いから……
わたしはいつだって明確に抗った事が無い、意思を示した事が無い。
――諦めて……
――だからこんなに”みっともない”んだ
――こんな……こんなに……
いまさら、ほんとにいまさら無駄なあがきをするわたしに……
何故か関わってくる物好きな人物。
「さ……いか?」
――どうして?……どうしてなの?……もういいでしょっ!なにも知らないくせにっ!
――
「……」
――でも……それでも……きっと”さいか”なら、
「
「っ!」
その言葉がきっかけだった。
――そうだ、わたしはわたしの世界をまだ
その当たり前の事実がわたしを震えさせた。
一瞬で頭が真っ白になった!
「さい……か?でも……わた、わたしは……」
――でも、わたしは同時に戸惑ってもいた……だって……でも、だって……
「デモもストも無い!いいか良く聞けお嬢ちゃん……」
「ぁ……」
わたしからつい出てきてしまう往生際の悪い言い訳を遮る彼の剣幕に、こんな時でも”どうしようも無い人形”のわたしはゴクリと息を呑み込んで彼を見上げ……
「”そこ”は楽をするなっ!!」
「っ!!」
――そ、そうだよ……楽してた……ずっと逃げてた……だって、さいか……わたしは……わたしの生きていた世界でわたしにはどうすることも……
「さいか……さいか……わたし……」
「苦しい時は、正解が解らなくなった時は……他人に植え付けられた価値観に丸投げするのか?自身の過去を、あまり良いとは言えない人生を逃げ道にするのか?」
「……さいか」
――図星だ……けど……わたしにはどうしていいかわからない
「教えてやったろ?
「……うん……うん……だから、だから……さいかぁ……」
どこかで聞いた台詞……
――その男はそう言って無理にでも虚勢を張っていた?
――滑稽だ。この男は世界の中で小さい存在が生きていくということを知らない?
全然違うっ!
今ならわかるよ、出会ったときの言葉、さいかは本気だった。
滑稽なのはわたしの方だったって……
抗えない世界、ちっぽけな自分……
でも、ほんとうはそう決めつけている自分が一番滑稽だって!
…………本当はずっと、
「お前はどうだ?どうにもならないなら、未来が自分の想いに応えないなら、さっき俺に斬り殺されていた方が良かったのか?」
「っ!?」
わたしの唇は震えて……そしてキュッと締まった。
――そ、そうだよ!だって疲れたんだもん……
思い出す価値も無い
――なら、いっそ
「俺は終わらせてやらんぞ、
「さ……っ!!」
その時初めて……わたしは呼ぼうとした彼の名を……辛うじて呑み込んでいた。
――そうだ……うん、わたしは知った!
――
――どうすることも出来ず諦めた世界……
でもそれはわたしの世界じゃないっ!
「自分の命ならなぁ……他人に預けるなっ!!」
一見、
でもそうじゃ無い、それを断罪したうえで、理解してくれたうえで……
わたしを、わたしが創れる未来を信じて期待してくれる言葉。
――厳しい否定から生まれる肯定……厳しいけど、優しい、
コクリ
「…………うん」
そして、ゆっくりと、でもしっかりと……
――彼の名を呑み込んだのは
――もう自分の運命を、
多分、普通じゃない、普通じゃあり得ない人生を歩んできたわたしは……
――いま、ここで、他の誰もがそうであるように、普通に自分自身のために生きる選択肢を得たんだ!
「…………ははっ」
――そして、そんなわたしを見て、わたしの目の前で、
頭の中が真っ白に洗われて、やがて静かに満たされていくような不思議な感覚。
――ほんとにホントにこの
――さいかは……
そして、さいかは、わたしに微笑みかけたあと、あの男に向き直る。
「な……なんぜ?」
たじろぐ男、
――あ、悪い顔だ……
いまさっき、わたしに微笑みかけた時とは全然種類の違う笑い顔……
それは、悪巧みをしている時の子供のような顔。
「き、気味が悪……
「……」
そして、そんな”さいか”をジッと腕を組んだままで見詰める、真っ黒で凄く綺麗な
「……
「ぁ……」
――そうだった、”はるちか”だ、
「
「……」
わたしの主君の
「つまりだ!」
「……な、なんぜ……よ?」
――なんだろ?どきどきする……さいかのする事はいつもわたしをどきどきさせる……
それは彼に対する期待……
彼がわたしの為になにかをしてくれるという期待、わたしが彼の為になにかを出来るという期待……
こうしてわたしは実感する。
――わたしは生きてるってっ!
すぅ……
静かに息を整える?さいか。
さいかは急に真剣な顔になって何かを決意した顔になった。
「……」
「……」
静まりかえるその場所。
「…………ごくり」
わたしもその真剣な彼に無意識に息を呑んでいた。
そして”さいか”は大きな声で宣言する。
「僕たち結婚しました!!」
「……」
「……」
変わらず、静かなままの室内……
「だから……俺達……」
「は?はぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!?」
拍子抜けした彼がもう一度言い直そうとした時、少し遅れてみんなが驚きの声を上げていた。
でも……
でも、わたしだけは……
少しの間だけ、言葉を出せなかったけど……わたしだけは……
「さ……かは……喰わせ者だ……ね」
誰に聞こえるわけでもない声で、”さいか”と出会ったばかりの時と同じ言葉を呟いていた。
――今度はどうしてか分かるよ……この気持ち……
わたしの瞳からは、初めてだからかな?
「……ぅ……ん……」
止め方の解らない大粒の涙が溢れて……
「…………」
ほんとうに困った事なのに、
わたしは”
第三十四話「
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