第23話「最嘉と南阿の風雲児」 後編 (改訂版)

↓久鷹 雪白のイラストです↓

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 第二十三話「最嘉さいか南阿なんあの風雲児」 後編


 ”男女それは二度と口にするな……命の保証は出来んき”


 ”なら金輪際、雪白ゆきしろを人形と呼ぶな”男女おとこおんな”の南阿なんあ領主よ



 ――俺も大人げない……いや、命知らずだな


 春親こいつの言う、南阿なんあの領主、雪白ゆきしろの主君という立場を良いことに”ちょっかい”を出したという過去の事実が、たとえ実際は何も無かったとはいえ……


 ――これ程頭にくるなんてな……俺自身全くの予想外だ


 「……」


 「……」


 本日何度目になるのか?俺と春親はるちかは睨み合う。


 「あぁ……わかったわかった、ほんに、たいしたタマじゃ臨海りんかいりょ……鈴原よ」


 「……」


 殺気の籠もった視線を向けていたかと思うと、一転、投げやりに手を払って面倒臭そうに吐き捨てる男。


 だがしかし、その表情は意外にも不機嫌というだけでは無さそうだ。


 「じゃち、俺らは帰るとするか、有馬ありま織浦おりうら


 そしてこれもまた、意外なほどアッサリと、交渉の終わりを宣言する。


 「……帰りも漁船か?」


 確かに交渉は成った。


 南阿なんあかつて自国が誇る虎の子の要塞であった”蟹甲楼かいこうろう”を占拠する”天都原あまつはら”を攻め、我が臨海りんかいは南方の日乃ひのから天都原あまつはらの補給経路を断つ。


 そして俺達が求める見返りは金品だ。

 それなりの額を前払いで請求する。


 契約さえ守られるのなら、他のことはさほど気に掛かるわけでは無いが、俺は一応確認してみた。


 「心配いらん、鈴原よ、南阿なんあは海の国で小舟は馴れちゅうきに」


 「……そうか」


 誰が心配なんぞするかっ!と内心考えながらも……


 ――しかし民家ここは包囲されているはずだが……抜け道でもあるのか?


 そう言った疑問も感じながら、足下の愛剣を拾い上げる。


 「あぁそうだ、一応言っとくがな……伊馬狩いまそかり 春親はるちか、俺はあの状況でもどうにか出来るつもりで啖呵を切ったんだよ」


 そして、一応そういう自身の体裁も整えておく。


 二人の部下と供に、なにやら民家の裏側に去ろうとする春親はるちかの背中、人騒がせな一行いっこうを見送っていた。


 「ふん……口の減らんガキぜ」


 そして去り際、一度だけ振り向いた女の様な男の……


 南阿なんあの英雄、伊馬狩いまそかり 春親はるちかの顔は……


 どこかたのしそうでもあったのだった。


 ――

 ―



 危なくも騒がしい輩が去った後……


 「……」


 ガランとした民家の中で、所在なさげに佇む美少女が独り。


 「……う……む」


 ――色々と面倒事を置いて行きやがって……


 俺はその美少女と二人きりで、居心地の悪い空気の中、暫し佇む。


 春親はるちかは恐らく俺の監視のために雪白ゆきしろを置いていったのだろうが……


 奴が実践して見せたように、そもそも数人程なら海を越えてこの日乃ひのへ潜入も可能だろうが、それが数十人、いや、白閃隊びゃくせんたいの様な軍隊だと当然不可能だ。


 だから南阿なんあは前回の戦で取り残された自軍を見捨てたわけで……


 「……」


 しかし、今回も雪白ゆきしろ白閃隊びゃくせんたいは敵地に置き去りか。


 この状況で?


 臨海りんかい日乃ひのの領主たる俺に、間者であった事が発覚した状況で?


 「……」


 雪白ゆきしろは言葉無く下を向いて佇んだままだ。


 「……はぁ」


 多分……俺は試されているのだろう。


 約定を守るか……雪白ゆきしろ白閃隊びゃくせんたいを処分してそれを反故にするのか……


 「ああっ!面白くないなっ!!」


 「っ!?」


 俺は叫んでいた。


 そしてその途端、柄に無く沈んだ表情で佇んでいた白金プラチナ姫はビクリと顔を上げる。


 ――人を試すのは好きだが試されるのは面白くない!


 いや、我が儘と言われようが、皆そんなものだろう?


 「…………」


 俺が急に大声を出したからだろう、雪白ゆきしろはビクリと肩を揺らしてから顔を上げ、輝く白金プラチナの銀河を少し大きめに見開き、此方こちらを見ていた。


 「……」


 「っ!?」


 そして俺と目が合うと、慌てて視線をらす雪白かのじょ


 「……はぁ」


 そりゃ居辛いか……


 というか、俺と二人の時は結構……感情豊かな時があるよなぁ


 それは、先ほどの伊馬狩いまそかり 春親はるちかの前での久鷹くたか 雪白ゆきしろと比べてみれば一目瞭然だ。


 一目瞭然だが……


 いや、それは自意識過剰……なのか?


 とはいっても、こういう風に罪悪感を感じると言うことは決して人形じゃ無い。


 感情が薄いわけでも、ましてや人として欠落なんてしているはずが無い。


 短い期間だが、彼女を見てきた俺にはそれが断言できる!


 「明日は……近代国家世界あっち側だな……」


 「……」


 意を決して俺は声をかけてみたが、白金プラチナ姫は相変わらずうつむいたままだ。


 「……そういえば雪白おまえ、前にクレープ食べたこと無いって言っていたな?」


 食物もので釣ってみる。


 「?」


 雪白しょうじょ白金プラチナの髪を揺らして顔を上げた。


 「クレープだよクレープ、甘くてふわふわの……女子に超人気!!」


 「…………さい……か?」


 少しばかりおどけてみせる俺に、美少女は恐る恐るだが瞳を交える。


 ――よしよし、上出来だ!


 「なんだ?行きたくないのか?奢ってやるぞ、ゆきちゃん」


 更に誘惑を続ける俺。


 「さい……か……わたし……だって……わたしは……」


 こっちを見るには見たが……

 戸惑い度限界マックス雪白しょうじょ


 俺は真顔になって彼女を見た。


 「……さ……さい……」


 自信がある。


 そう、視線さえ交わせば……


 正面から向き合えさえすれば……


 俺と雪白ゆきしろはきっと共鳴し合える部分があるはずだ。


 根拠の無いと言えばそうだが、それでも俺は、初対面の時のように……


 何故か雪白かのじょに対しては、そう言った確信があった。


 「まぁな、色々あるさ……お互いにな……だが、取りあえず俺は雪白おまえは大切だし、前に言ったことも全然変わっていない」


 「!?」


 ――彼女は思いだしただろうか?


 ”今後、雪白ゆきしろが困ったときも、その”きもちわるい”事をするつもりだぞ、俺は……”


 そう言ったあの時の俺の言葉を……


 「…………」


 雪白ゆきしろの美しい双眸は、煌めいたまま俺を見つめている。


 「自分の意思と反するとしても、嫌なことでも……な、取りあえずはお互いの立場でしなきゃいけない事があるだろう?今のところはそれをこなせばいい。……で、その後どうすれば良いか考えれば良いんだ、時間はあるしな」


 「…………」


 俺は続ける……


 説得とか、懐柔なんて交渉術や話術では無い。


 それはただの本心。


 計略や奇策、謀略に塗れた鈴原 最嘉さいかが……


 いつの間にかそれを必要としなくなってしまった……久鷹くたか 雪白ゆきしろという相手への本心。


 「あぁ、勘違いするなよ、明日のクレープは俺の意思と反するとか嫌なことじゃないからな」


 少し堅い表情であった彼女に、俺は冗談めいて付け足して笑う。


 「……うん……うん、わかってる……よ」


 そこで初めて、俺はちゃんとした雪白ゆきしろの声を聞くことが出来た。


 「じゃ、行くだろ?」


 ――心が跳ねる……なんでだ?


 俺は俺の雪白ゆきしろに戻りつつある、目の前の少女に手を差し伸べるが……


 「……わたしは……でも、やっぱり……さいかに謝罪を……わたしはさいかに……」


 「いらないな」


 期待していない答えに俺は首を振った。


 「で、でも!」


 ――ほんと困ったちゃんだ……


 普段は自己中に行動するクセに、こういう時に限って変な真面目さを発揮しやがって……


 「じゃあな、その代わりに……そうだな……」


 俺は譲歩する。


 雪白が贖罪を求めるなら、俺は本来望まぬ”それ”に応じよう……


 ただし……


 「明日はとびきり可愛い恰好で来てくれ!」


 「ぇ?」


 俺は少しばかり企んだ。


 「めちゃ可愛い格好だぞ、お前が持ってる服の中で一番……無いのなら俺が買ってやるぞ!ただし俺の趣味を侮ると後悔するだろうがなぁ!」


 「あ……あぅ……その……さいか?」


 ――驚いた表情


 ――うむ、非常に愛らしい


 人形なんて言わせるかよ!


 俺はそんな少女を前に、満足げに頷く。


 「そうだな、ヒラヒラのフリフリで、キラキラしたのってのはどうだ?」


 「な、なにを……」


 照れて白い肌を真っ赤に染める雪白ゆきしろ


 ――ほら、全然人形なんかじゃないだろ……やっぱ、見る目が無いな春親あのおとこ


 「純白の連なる刃ホーリーブレイドがそんな恰好ってある意味、罰ゲームだろ?どうだ?それとも前の勝負の続きで一枚脱ぐっていう選択肢も……」


 気分の良い俺は、更に調子に乗る。


 というか、俺的には後者の条件がおすすめだ!


 「……うん……さいかがそれで……いい……なら」


 少しはにかんで、小さく答える少女。


 「じゃ、早速一枚服をっ!?」


 「可愛い服の方だよ」


 「…………」


 俺は落ち込んだ。


 ――即答かよ……


 「?」


 残念顔な俺を不思議そうに見上げて来る、輝く銀河を再現したような白金プラチナの瞳……

 それは幾万の星の大河の双瞳ひとみ

 

 目の前のプラチナブロンドの美少女は、未だ遠慮がちながらも今は、俺から視線をらすことは無くなっていた。


 ――そうだな……これでいい、今はこれで上出来だ


 「よし、じゃあ約束だ!」


 俺は笑うと右手の小指を差し出し、雪白ゆきしろも微笑んでそっと小指を出したのだった。


 第二十三話「最嘉さいか南阿なんあの風雲児」 後編 END

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