第10話「真琴と言っては駄目なこと」 後編(改訂版)
↓最嘉と壱と真琴、スリーショットです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892613288
第十話「
びゅうぅ!
「っ!」
少女の黒髪が少し強めの風に乱れ、頬を冷たい感触が触る。
――私立
日が高く昇る時間帯でも、屋上で待ち合わせするには少し厳しい季節になりつつある。
「……」
一度、腕時計の針をチラリと確認した後で、風に游いだ髪を整えつつ、私は目的のお方を待ち続ける。
「まだ、少し……」
仕えるべき
――そう、懐かしくて……悲しい……でも、私にとっては一番大切な想い出……
ーー
ー
「
数日前から私の興味を引くようになった人物の前には、年端もいかない少女がひとり。
長い黒髪と白い肌、そしてか細い腕……
一見して、およそ武術とは無縁そうな華奢な少女。
「……」
でも……私は知っている。
彼女もまた……この華奢な少女もまた、鈴原本家の人間……彼の妹だと。
「
少年、鈴原
「
そう言いながらも、華奢な少女の視線は目前の
「あ?……あぁ、気にするなよ、殺したくなかったんだろ?
コクリと頷いた
「ご、ごめんなさい……私の我が儘で……
「いや、気にするなって……兄弟同士で殺し合いなんて嫌なんだろ?優しいな
突然情緒不安定になった妹を慌てながらも優しい表情と言葉で包む
「……」
――ほんと、お優しい事だわ……妹君には……
で……気にするなと言った当の本人は、
「……ありがとう
「解ってる、もう誰一人として死なせない……
彼の言葉に、華奢で心優しい少女は再び涙に濡れた瞳で頷いたのだった。
ーー
ー
「随分と余裕なんですね……」
「?」
妹君との会話を終えた彼を、少し歩いた小道で捕まえる私。
彼は背後からの私の言葉に驚くこと無く立ち止まった。
「別に……それより盗み聞きとは趣味があまり良くないんじゃないか?えっと……」
「
私は”盗み聞き”の部分は平然と聞き流し、その場に片膝をついてわざとらしく丁寧に挨拶した。
「
多少皮肉を織り交ぜたつもりだった私の行動に、
「お見知りおき頂き光栄で……」
「で、何の用だ?僕は別に用はないけど」
「……」
――あ、なんかイラッときた
分家の……将来、ただの捨て駒になるだけの相手には興味が無いってこと?
――ふぅーん!妹君相手とは随分と態度が違うことでっ!
「甘いんじゃ無いですか?
今日は様子見だけだったつもりが……
ついつい絡んでしまう私……
――私はなんでこんなに
「……関係無いだろ、お前には」
「っ!?」
――かんけい……ないぃっ!?
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「関係あるわっ!!私の命が掛かっているのだから!いい
「…………」
「………………ぁっ?」
――し、しまった!……やってしまった……わたし……つい……
なんて短絡的な……
長年、私自身とは付き合ってきたけど、その鈴原
――はぁぁ……私の人生の不条理を
「ぅぅ…………あの……
「それは……結局、どっちにしても死にたくないと?」
テンパった頭で言い訳しようと焦る私を前に、当の
「…………」
――家臣の……分家の娘如きにこんな口を叩かれて何?その反応……
――もしかして、怒りを通り越して呆れてる?
それは、そうね……
初対面の従僕予定者が意味不明に急に突っかかってきたのだから……
「……わかったよ、以後は出来るだけ気をつける」
「…………は?」
――な、なんで?……そうなる……の?
「……えっと……駄目……か?」
予期できるはずも無い
――え、えーーーと……
「……か、考えとく……わ……」
ーー
ー
「あーーーーーーーー!恥ずかしい!!」
私は屋上で叫んでいた。
今思い出しても恥ずかしい……なに?その意味不明の返事は?
”考えとくわ”って何を?……てか何様?
「ほんと、恥ずかしい……」
「恥ずかしいってなにが?」
「っ!?」
屋上のフェンス際、いつの間にか私の前には……
私の最もよく知る方が……いた。
「え、えっと……その」
ーー鈴原
ーー私が生涯を捧げる唯一のお方……
「い、いえ!……忘れて下さいっ!」
「?」
「…………」
不思議そうな顔の
そう……今日、
優しい
――なら、私から切り出すのが一番だ!
一瞬だけ
「大まかな経緯は把握しています……ご心配には及びません我が君、この鈴原
こちらの世界での情報交換で、再び世界が切り替わる月曜日には
表向きは
こちらの世界で、
だったら、世界が切り替わる月曜日以降、早々に討伐隊が出される可能性もある。
そう言った考察から、私は主君が本日、この鈴原
「
「
呟いた私の言葉に
「奴が
今度は私がコクリと頷いた。
「あれは尊大な男だ!慎重で思慮深く、常に何十手も先を読む
「……攻めてくると言うことでしょうか?」
「解らない、
そう
「ご心配なさらないで下さい、我が君……どうなろうと必ず
「……悪いな、いつも
こういう時、本当に……申し訳なさそうな顔をするの……
勿論、心中もその通りなのだけど、でも、決して
厳しい方なのか、優しい方なのか……
――ふふっ……そんな事は決まってる
いい加減に見えるけど実は凄く信念のひとで、でも凄く他者への責任感もあって……それで……それで……すごく優しい方……
「……ふふ、大丈夫です、援軍は必要ありません。
本当に申し訳なさそうな主君に、不敬では在るのだけど、私はつい、頬を緩めていた。
「いや、しかし……っ!?」
それでも私を気遣って下さろうとする
初めてお会いしたときとは見違えた、広い男性の背中に自分のおでこをあてた。
「……思ってません……辛いとも、嫌なんてことも……今の今まで一度も……私の幸せは
――それは、鈴原
「
「
「……いや、しかし、ならせめて
それでも
ご自分の方も大変だというのに……
「だったら……」
「だったら?」
それが嬉しくて……
思わず私の口をついて出ようとする言葉。
途端に
「いえ……出過ぎたことでした」
――危ない、危ない……
「いいから言えよ」
「…………」
――だめ……でも……
「……
「おれに?」
――言ってしまった……私……
「そ、その……この戦が終わったら、その時はぜひ受け取って下さい」
「……」
「?」
勇気を振りしぼった私の言葉に、なんだか変な表情を返す
「
「……あっ!?」
本当だ!!
どんな猛者でも
私って……
私って……
「…………ふっ……ふふ……」
結構な状況の話なのに……何故だか私は可笑しくなり、口元が綻んでしまう。
「笑ってる場合かよ、”言ったら駄目なこと”だろ?」
「そうですね、”言っては駄目なこと”でした……ふふっ」
そうして
もう過ごすのには適さない時期になりつつある屋上の寒空の下、なんだか可笑しくて、暫く笑い合ったのだった。
第十話「
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