第57話「思惑」(改訂版)
第十七話「思惑」
――戦場から離れること十キロメートル程の地にて
現地の古寺を借り受けて陣を張っていたのは”
「本当に毎度毎度……”
少し癖のある燃えるような深紅の髪、
ペリカ・ルシアノ=ニトゥが
表向きは”
「
紅蓮の
――”
容姿の違い、言語の違い、そして特殊な環境下での民族主義の結果からか、それらの者は大体の場合、差別の対象であった。
それは大国”
そう言った事情から初手で他国の後塵を拝した
それは今見るように、彼女のこの意外な勤勉さと、彼女の側近である人物の功績が大きかった。
――アルトォーヌ・サレン=ロアノフ
紅蓮の
「使者は正確には
古寺の本堂に設置された仮の作戦本部でペリカの側近である女性は、主の愚痴にそう答える。
「どういうこと?アルト」
そして紅蓮の姫は、側近の女性に言葉の真意を問いかける。
「我が
目の前の
アルトォーヌ・サレン=ロアノフは白い肌、白い髪……それは色白と言うよりは、色素を全て忘れて生まれてきたような、不自然な希薄さの華奢で存在感の薄い人物だ。
「
主であり、友である紅蓮の姫にアルトォーヌは頷いて見せた。
「我が
「ふん……そうね、
さもそちらの方が好みであると、
「だからこそ、既に各国が”大包囲網戦”に参加した後で……他国がこの戦で利を得て強化されるのを黙ってみていられない状況にして、その利益を
「……絶妙の餌を目の前に吊り下げた胸くそ悪い陰謀ね、さすが”妖怪”、絶対に好きになれそうに無い年寄りだわ」
参謀の説明に、白い指先を軽く振って嫌悪を露わにする紅蓮の姫、ペリカ・ルシアノ=ニトゥ。
「でもアルト、そこまでするモノなのかしら?あの暗黒姫は確かに手強いでしょうけど、
主人の尤もな意見に、腹心の白い女性は頷いた。
「各大国の王は、ここ最近は大きな戦は行っていないわ……小競り合いは多いけど、国家の存亡をかけたという大戦はこの間の
「それはそうね……」
アルトォーヌの指摘に当然だと頷くペリカ。
確かにここ最近は大国同士の大戦は無い。
その理由は単純で、各大国が隣国に複数の敵を抱える状況で大戦で疲弊することはその他の敵につけ込まれるからである。
「これは、実際に噂されていた事なのだけれど……
「!?」
ペリカの紅蓮の
つい最近、印象的で特別な想いを抱いた男の名に……
過剰に反応する。
「……」
アルトォーヌはそれを目聡く気づいた後、軽く咳払いをして続けた。
「貴女も知っての通り、大国同士は牽制し合って大きな戦は難しい……そこで
「…………つまり各国は、現在一番の脅威は”
アルトォーヌの説明を聞きながら、紅蓮の
「ええ……多分ね、各国の思惑、利害関係、そこを
「…………」
側近の白い女性の説明を一通り聞き終えた紅蓮の姫は、不機嫌そうに石榴色の唇を結んでいるが、それでも用意された軍の編成図に目を通しながらという相変わらずな勤勉さで手は止めていない。
「…………」
「ペリカ……貴女が気に入らないやり方だというのはわかるけど、ここは”
「…………」
「ペリカ!」
「解っているわよアルトォーヌ……それより、先行した
「ええ、正確な総兵数はわからないけれど、
「
素直に
「そうね……でも、どちらにしても私では相手にならないわね、あの天才とは」
アルトォーヌ・サレン=ロアノフは、少し口元を綻ばせながら主に答えていた。
――彼女は
ペリカ・ルシアノ=ニトゥは決して
――なら、何故に今回は少し頑なな反応なのか?
それはきっとあの人物……
六大国家会議で出会ったという、
六大国家会議から帰ったペリカは
そう、
つまり、ペリカ・ルシアノ=ニトゥはその鈴原
紅蓮の
幼少から寝食を共にするアルトォーヌ・サレン=ロアノフ以外はその事実を知らないだろうが……
だから、今回のペリカの反応をアルトォーヌは可愛いと思ったのだろう。
とはいえ、各国が欲望むき出しで、お互いを牽制し合って連携なんて皆無。
この困難な状況であくまで王を補佐して強大な敵を退け続ける
「それは……ともかく、我が
アルトォーヌ・サレン=ロアノフは
――個人に対する尊敬や感心という感情はまた別の話、アルトォーヌはやはり
「そうね、こんな所まで出張って来たのだから、勿論、
そこには、
第十七話「思惑」END
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