第43話「虎穴」(改訂版)
第三話「虎穴」
ひとつ、領民、城内の兵士の安全を保証すること。
ひとつ、城主である自分とその一族に寛大な処遇を約束すること。
ひとつ、入城の際には捕虜となった
「……」
俺は降伏した
――前の二つの条件は極めて普通だ
――そして最後の一つは……捕虜の二名を旧知である
最前線で戦う
「一応、筋は通っているな……」
俺はここまでで感じたいくつかの
「…………………………」
――なるほどねぇ、中々に……練られている
――やはりな、面白い、受けて立とうじゃないか
――そういう戦いもまた俺の望むところだ!
俺が馬上にて、そんな結論に達した時だった。
「鈴原さまぁー!こちらです!鈴原
――!?
俺はその叫び声で思考中の意識を進行方向前方に戻していた。
「……」
前方の道脇で、ボサボサ頭髪の頭上で手を大きく左右させる人物。
質素な袈裟に質素な草履履き、そして使い古したボロボロの刀を腰に差した、極々有り触れた男……
「”あれ”は……見た顔だな」
「はい、
馬上から前方に向け眼を細める俺の呟きに、そっと馬を寄せてきた
――ああそうだ、そうだった。あの生臭坊主が連れていた男……
そんな確認をしている間にも距離は縮まり、行軍の中心付近に居る俺がそこを通る時には、その人物は道端で
「出迎えご苦労だったな
「お任せ下さい!
顔を上げ、もう一度ボサボサ頭でお辞儀した男は上機嫌に口を開く。
「そうか、よくやった……で?」
「…………で?」
話が終わっていないと続ける俺に、キョトンとする
「城の様子はどうだ?ざっと見て兵数はどんなものだ?配置は?あと……」
暫し軍を止め、不思議そうな顔の男に次々と質問する俺。
「は、はぁ……それは……先ずは……で……」
俺の質問に戸惑いながらも、ボサボサ頭で袈裟姿の有り触れた男、
――
―
そして暫し……
やはり一つの結論に達する。
「そうか……大体解った、大義だったな」
「はぁ、ありがとうございます……」
「では、行くか」
だが、そんなボサボサ頭男の疑問に一々説明する義理も意味も俺には無い。
俺は隣で控えていた
「あっ!あのーー」
再び馬を出す俺に、小走りで
――っ!
すかさず
「
俺は大丈夫だと
「なんだ?お前は休んでいて良いぞ、後からゆっくり来れば」
「い、いえ、ご一緒します、しますとも!
「そうか?」
はぁはぁと息を切らせ
「ち、因みに……はぁはぁ……鈴原様……はぁ……入城するのはこれだけで?」
「ああそうだ」
「はぁ、こ……これだけ?……はぁ、はぁ……ざっと見て百も無いと思いますが……はぁはぁ!」
「…………
「はい、我が君」
「この鬱陶しい男に馬を」
隣でこんな鬱陶しい感じで着いて来られたら落ち着かない。
「あ、ありがたき幸せ……で、あの……」
男は礼を言いつつも、相変わらず汗まみれの鬱陶しい顔でしつこく疑問を投げかけてくる。
「……大方の兵は陣に置いてきた」
面倒臭いが……この男の健闘賞ってところだ、俺は答えてやる。
「な、なんと!
用意された馬に跨がりながらも驚きの声を上げる男。
「問題ない」
「ですか?……確かに
「
俺は、今は馬上にあって併走する男の名を呼んだ。
「はっ!」
ようやく息が整ったのか、良い返事を返すボサボサ頭。
「一応言っておくが、これは罠だ」
「はっ!……はぁぁぁ!?」
そして、返事のため開いた口をそのままに間抜け顔で俺を見る。
「
「はっ!」
「はい、我が君っ!」
思わず馬の足を止めたボサボサ頭の男を残し、我が
――変わって
ここはその
主座に座した白髪頭の髪を後ろで束ねた初老の男は……
前で膝をつき報告をする兵士に頷いていた。
「そうか、
その言葉に、並んだ武将の一人が首をかしげる。
「
部下の言に
「現在、眼下の
前の武将の言葉を受け、口を紡ぐ主に代わって、別の武将が自分なりの見解を述べた。
「……むぅ」
「…………」
謁見の間に会した武将達はそれぞれ頭を捻るが……
敵将、鈴原
「この際……」
――っ!?
暫しの沈黙の後、初老の城主、
「この際……だ、
「た、確かに……」
「殿のおっしゃるとおりですな」
「
元々、仏徒である自分が
だが、そんな
鈴原
そう言う意味では、
つまり若さとは、恐れを知らぬだけで無く、己の測りも知らん。
――裏切りを裏切る卑怯者である
鈴原
「そうだ!小物が一度のマグレで分不相応の評価を得ることは戦場ではよくあること、それに
白髪頭の
「先ずは捕虜になっている
伝令兵は頷くとその場を後にした。
「これで袋の鼠ですな……
「ふふん、そうだな、しかしここまで来て
勝利を確信したニヤけ面の武将達を
「既に
――っ!?
城主、
「
「
「
二人の武将がいきり立って叫ぶのを合図に場は爆発し、
――おぉぉぉっ!!
――わぁぁぁっ!!
「…………」
自身が準備した”沸き立つ場内”で、白髪の男は複雑な笑みを張り付かせたまま……そっと視線を落とす。
「…………信仰を裏切り、約定を裏切る……卑怯に卑怯を重ねる
――おぉぉぉっ!!
――わぁぁぁっ!!
だが――
第三話「虎穴」END
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