第20話「最嘉と大昔の暗殺者」(改訂版)
↓京極 陽子のイラストです↓
https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892613231
第二十話「
――
それは俺にとって忘れられない名前だ。
「
腰まで届く降ろされた緑の黒髪はゆるやかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な
大国
そして、そこで俺の目に映ったひとりの少女……
同盟国の領主やそれに類する賓客を招く場所で目に留まった賓客中の賓客。
同盟国といっても我が
彼の国の
大勢の
――運命……
脳裏にそんな在り来たりな、でも最もシックリとくる言葉が浮かぶ……
「……くすっ」
「!」
その運命は、類い希なる美少女の姿で、俺に向けて軽やかに微笑みを浮かべたのだ。
「……」
――それが
――
―
「俺の……望むもの?」
俺は彼女の美貌に
「ええ、貴方、欲しいものがあるのでしょう?それは何のため?」
「……」
彼女のいきなりな言葉を受けて、俺は自身の心の中を探る。
――俺の欲しいもの……?
俺は次期
だが、俺が望んでいるのはそんなものじゃない……はず……
――そうだ、そんな程度のものじゃない!
鈴原の呪いは終わっていない。
いや、正確には鈴原では無く、この世界の……
俺はこの死を死とも思わない
――世界が……許せない
――それはつまり……世界の……へ……
「……!」
俺の思考は突然引き戻された!
目の前の美姫が思考に熱中する俺の手を取っていたのだ。
「……は、
自身の白く繊細な両手で……
俺の
「……
「?」
暗黒の美姫が俺を見上げる瞳は、どこかうっとりとした様に思えた。
「それはきっと困難なもの……誰もが越えようとするのを考え至らないような高すぎる壁……」
――!!
次の瞬間、俺は正直息が止まった。
止まりそうになったのでは無くて……キッカリ三秒は止まっただろう。
「……」
勿論それは思い当たる事があったからだ。
この時点では誰にも話していない、いや、俺自身漠然として形になっていないもの……
――この少女は何故?
――何故、俺自身より俺の事を……
「でも……貴方の瞳の光は決してそれを不可能なものと捉えていない。それを現実的な障害と認識している」
「お、俺は……」
――えっ!
それが具体的に何なのか。
俺がそれを初めて言葉に形作ろうとしたとき、彼女はそれを阻んでいた。
「はる……こ……さま?」
いつの間にか俺の唇に当てられた白い人差し指……
「やっぱり今は……いいわ……だって今の私がそれを聞いても対処出来そうにないもの」
そう言って彼女は紅い唇を無邪気に綻ばせる。
「……」
その時の俺は……
拍子抜けしたような、でもホッとしたような……
そんな感情が入り乱れた複雑な顔で彼女を見ていただろう。
「私の望みはね
「……」
なんか今、すごくアッサリととんでもない事を言った……この美少女。
大国
彼女なら確かにその可能性はある……あるけど、それは中々平坦では無い道だ。
上位の継承権保持者を退ける事は勿論、この
そう言う意味では、
そう奇跡とも言える運……といわれている。
つまり、実際ここから先の道は……
それに彼女は宮廷内に敵も多い。
出る杭は打たれるのが
何にしても……
当時の彼女は未だ、
王族ではあっても、王位継承権は所持しておらず、正式な立場はただの
そう、ただのお姫様だったのだ。
その
お嬢様のただの世迷い言、そうとしか取れない笑えない冗談だ。
「……それから?」
しかしその時の俺は気になっていた。
ただでさえ困難な
「くすっ」
俺の問いかけに彼女は麗しい唇を綻ばせる。
「
「……」
悪戯っぽく微笑む少女に、思わずゴクリと生唾を飲み込む俺。
「それから……私は統べるわ」
「統べる?」
「ええ、
「……」
またとんでもない事を……
王、領主といえども自分の領地だけで手一杯の輩が大多数の世の中で、とんでもない規模の野望を語る、この時……僅か十五歳の
「……」
俺は言葉にならない、ならなかった。
それは彼女の見ている
「ふふ、驚くことはないでしょう?
「!?」
しかしそれはその彼女の、
「解るのよ、貴方を初めて見たときから……感じる、それが何かは解らないけど……
――そうか、そうだな……
確かに俺の真に望むものは……
世界の統一よりも……大きいのかも知れない。
「……」
「ふふ、素敵よ……
俺の前で突如、クルリと廻る少女。
ドレスの裾がフワリと空気を抱き、僅かに持ち上がったかと思うと静かにもとにもどる。
「ふふっ」
愉しそうに無邪気にはしゃぐその姿は、その
「私ね……
「え……」
「貴方みたいなひと、初めて会ったもの……好ましく思ってる……だから……」
「……だ、だから?」
突然の告白?に、俺はドギマギとしていた。
「だから、あなたは私の
「……」
けど、これってどういうことだ?
――”私の
それは……臣下?下僕?
それとも本当に言葉通り所有物……ただの物。
どっちにしても、友達とか、ましてや恋人なんて洒落た代物では無いだろう。
「ねぇ、良いでしょ?
――また意味不明の理屈を……
「俺は物じゃない」
「物よ、
「光栄じゃない!」
「くすっ、光栄なのよ……
――なんなんだ、この
ちょっと
それとも、お嬢様特有の我が儘っぷりなのか?
いや、この際どっちでもいい……
ちょっと心に残って、ちょっと可愛いなとかドキドキして……
ちょっとばかりお近づきになれたらなぁとか考えて……
身分も弁えず声をかけてしまったけど……
もういい……
俺は
「……」
――俺は上を目指すんだ……
「ねぇ、
「ちがっ……」
俺は
「だって私は
「なっ!?」
完全に不意打ちの
今までの雰囲気とは一転、透き通る様な白い頬を朱に染め、恥じらう可憐な美少女。
――っ!?
そして次の瞬間、不意に俺の懐に潜り込んで来る、黒い装いの少女……
俺は……
特に武術を
「……」
そして至近距離から俺の顔を見上げる奈落の
「……っ」
――彼女が敵で、彼女に殺意があって、これが実戦なら殺されていた……
俺の四肢が油ぎれの古機械のようにギシギシと軋んで固まっている。
それはまるで関節が上手く噛み合っていないようだった。
「ふふっ」
緊張で
「それで……何の用だったの?
混乱する俺の頭に追い打ちをかけるように情報を錯綜させる彼女。
急に最初の……
俺が彼女に声をかけた時点に戻る
「……ぅ」
「……」
そして答えを待つ彼女は、類い希なる美貌に微笑みは常備しているものの……
明らかに雰囲気が変わっていた。
――これは……まるで戦場……
命を賭した戦いの緊張感。
「……そ……れは……」
――息が……苦しい
「…………その……あ……」
「…………」
「……ふふっ」
俺の懐に収まった美少女は、そっと両手の白い指を俺の胸に沿わせた。
「っ!?」
「声をかけてきたのは貴方の方でしょう?私……興味あるわ」
腰まで届く降ろされた緑の黒髪はゆるやかにウェーブがかかって輝き、白く透き通った肌と対照的な
――類い希なる美少女
その
対峙する物を尽く虜にするのでは無いかと思わせる美しい眼差しでありながら、それは一言で言うなら”純粋なる闇”。
恐ろしいまでに
「……で、出来れば友達になりたいと……」
俺はとびきり可愛くて、少し意地悪な美少女に魅入られながらも、なんとか言葉を返す。
「お友達?」
「い、いや……お近づきにっていうか……」
「そう……解ったわ」
「……」
――なんて馬鹿正直に答えてんだ?俺……
彼女に
この……漆黒の
「無理ね、身分が違うわ」
「……」
――え……と?…………てか、おい!なんなんだ、これは……
いや、”
本当のところは解ってはいたけど……
――じゃあ、さっきの
「……私の
「ええ、言ったわ」
納得いかない俺の問いに、この
「でも、それと恋仲みたいな関係はちょっと違うと思うの、どう?」
「どう?と言われても……」
俺にはサッパリだ。
「それに貴方は
「…………」
それは確かにそうだ。
それを言われればその通りだ。
しかし……この話の流れから、本当にそうなのか?
「まぁね、良いのよそれは……
「
俺はただ単にからかわれただけなのか?
お嬢様の暇つぶしに……
「
――っ!
「ふふ、変な顔……そうね、陳腐な表現をすれば運命かしら?」
あまりに勝手な……傍若無人な振る舞いの少女にどう反応したら良いのか、彼女の言うところの“変な顔”で固まってしまった俺は……
――”運命”だと?
驚いていた……
それは最初に、あの論功行賞の場で
なんとも言えぬ高揚感。
不可思議な意識をこの少女と共有できたなんとも表現しきれぬ嬉しさ……
「俺には理解できない……」
だが、変な意地を張った俺の口からは別の言葉が発せられていた。
「良いのよ、私が理解できていれば……ね、
しかし敵は、既に俺の手に負える相手ではない事は明白。
全く動じない顔の少女は、両方の白い手、繊細な一級工芸品の様な指を俺の胸に沿わせたままの体勢でそのまま俺に身を寄せる。
「……は、
「……」
彼女は特に応えずに俺の胸に埋もれたままだ。
「……うっ」
そして俺はと言うと……
頭が”ぼぅっ”とするような甘い香りと、じんわり暖かくて柔らかい
――
―
「
通話用のスピーカーから聞こえる
「俺のものにする」
そう簡潔に答えていた。
「それは
「…………」
「……そうね、
応えを返さない俺に彼女はそう言う。
「
「……そう、そうね
「……
俺はそれを受けて続きを
「ふふっ……どうとって貰っても結構よ」
無論、
「……解った」
――プッ
――ツーツー
それを承知している俺に、通話の向こうで悪戯っぽく微笑む姿がハッキリ脳裏に浮かぶ暗黒の美姫は、そのまま未練無く通話を切った。
「……」
俺はスマートフォンをポケットに仕舞い、そして、いつの間にか俺の傍らまで近づいて来ていた二人の少女を続けて見る。
「
「そうし?決別?さいか……」
もう必要も無いだろうに、スカートの裾をしっかり押さえながら、まだ少し頬を赤らめた
「
「それは……」
「けいか?」
俺の答えに二人が同時に
「大昔のな、暗殺者だよ」
――びゅうぅぅぅぅ
既に過ごしやすい季節が終えている事を告げていたのだった。
第二十話「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます