第7話 「最嘉と美しくない作戦」(改訂版)
↓京極 陽子&久鷹 雪白のカットです↓
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第七話 「
その騒動は、
「よくも恥ずかしげも無くその負け犬
大柄な中年は趣味の悪い金糸の織り込まれたマントを纏い、どこの王侯貴族かというような象牙のド派手な玉座に深く腰掛けている。
恰幅が良いといえば響きは良いが、一言で言えば肥満の極致、天井しか見えていないのでは無いかと思われるくらい、これ以上無くふんぞり返る脂肪の塊としか見えない。
「申し開きは良い、そんな面倒なことは”
如何にも面倒臭げにそう言い、
ーーこういう男だったな……たしか
主戦場が自領の
そして自身は高みの見物を決め込んで、事が圧倒的優位な
どうせ小国群連合軍が敗走した当時は、この城に引きこもって”
まるで見てきたというくらい頭に浮かぶ光景に内心呆れながら、俺は床を見ていた。
傲岸不遜の領主が座る玉座前に並び、一様に頭を下げる一団の先頭に立つのは俺、鈴原
そして、その後ろに同様に頭を下げる数人の人物達。
あの戦で命からがら逃げ延びた小国群連合軍の総指揮官、鈴原
と言う設定だ。
「申し訳ない、それでは我々は”
「行け行け、行って
己の領土の為に遠方から駆り出され戦った友軍に、物資の供与も無く、休息の場も提供しない……
「……」
俺は下げた頭で、地面を見ながら思っていた。
噂通りの人物。
我が
これなら何の呵責も無く作戦を実行できる。
ーーじゃあ、遠慮無く……
俺は後ろに並ぶ者達に密かに目配せをしてから、眼前の脂肪男にはその場を去る仕草を見せた……
「まてっ!」
「!?」
だがそこで不意に玉座から声がかかる!
俺達が密かに事に及ぼうとした時、謁見の広間に
「……ふぅーーむ」
やや、乗り出し気味になにやら俺達をジロジロと品定めする脂肪男。
「…………」
ーーなんだ?まさか感づかれた……のか?
いや、そんな事は無いだろう。
この男は卑怯で臆病だが、そんなに
「そこな女!フードを被ったお主だ!」
警戒する俺の頭越しに、
「……」
指し示されたのは……俺の後ろに居並ぶ兵士達の一人、それは……
「フードを取れ」
「女っ!聞いているのか!」
俺の後ろに控える者達は一様に地味な革製マントを羽織っている。
中でもただひとりの女性であるその人物は、マントに付属したフードを顔が見えないくらいに深く被っていた。
ーー面倒臭い事になりそうだ……
そう考えた俺は、
そもそも戦に敗れた俺達を、戦に参加もしていないこの男が何故か傲慢に見下している……
そしてその意味不明の優越感故のちょっかいだろうが……
だが、これ以上の余計なやり取りは、案外不味い方向に展開するかも知れない。
「
俺がそう考え、やり過ごそうとした時だった。
ーーはらりっ
俺の後ろに居るフードの女は、機械的な動作で自身の顔を覆うフードを背中側にずらして脱いでいた。
「おぉうっ!」
ーーおいおい……
同時に、肉に埋まった小さい目を見開いて感嘆の声を上げる脂肪男と心の中でその女にツッコむ俺。
「…………」
室内の灯りを反射して輝く
地味な革製フードから解き放たれ出現したのは、目も眩むような
恐らく下卑た考えでそう指示した脂肪男の予想を遙かに超越する、プラチナブロンドの美少女がそこに彫像のように立っていた。
「むぅ……うふぉっ!」
フードの下から現れた予想を絶する
ーーき、キモイな……
俺は
「……」
「……!」
いや!……微妙に、ほんとに僅かだが彼女の
ーー流石の無感情少女でも、生理的に駄目なものはだめなのか?
「鈴原、そこな女は置いてゆけっ!」
その反応に妙な感心をしていた俺に、脂肪男の声が響いた。
「…………何故?」
勿論俺は聞き返す。
「決まっておろう、貴様らを保護してやった見返りだ」
「…………」
ーー頭おかしいのか?このデブ……
俺は絶句する。
なにが保護だ?早々に厄介払いしようとしてやがったくせに……と。
「鈴原っ!」
ーーおっと、そんな感情は置くとして……
「それは出来ない、この者は俺の家臣で俺には部下に対する責任が……」
ーーしかし、何も成さない輩が何処まで傲慢になれるのか?
俺は苛立ちよりも寧ろ呆れが先に来つつ、適度に無難に対応し、今度こそ慎重に作戦を再開しようと……
「貴様の事情など関係無いわっ!この
ーーぐっ……このっ!
流石の俺も、少しばかりカチンときた時だった。
シャラーーンッ!
「おい!待てっ!ゆきし……」
背後で金属の擦れる音……戦場で聞き慣れたその音に……
俺がそれに気づいて叫んだ……時は……
ザシュッ!
「ぐっうぅぅ!」
ドサリッ
既に遅かった……
「…………」
俺の前方には、無礼千万な脂肪男の前で倒れている男が一人。
剣の柄に手をやったまま、その兵士は鮮血の噴水をまき散らした直後、床に崩れた。
「あ……がが……ひ、ひぃぃ!」
そして、似つかわしくない豪奢な象牙の王座に張りついたまま呆然とする
ーー
ーーなかなか優秀な衛兵だな……
俺は護衛の兵士が咄嗟に取った中々の忠臣ぶりに敬意を表しながらも、俺の後ろ……
いや、今は前か?兎に角……玉座で震える脂肪男の前に立つ
「あっ?……さいか……えっと、コレ不快、斬って良い?」
「……」
輝く
彼女は
「いや、もう斬ってるだろ、お前……事後承諾上等かよ……」
「……?」
俺の呆れ気味な返答に、整った顔を前方へ戻して状況を再確認した彼女は、不思議そうな表情で再びこちらに振り向いた。
「違うよ、斬ったのはコレを庇ったこのひとで……わたしが不快なのはこの
白い指先で固まる
血みどろの玉座前で、妙にコミカルな動きを見せる天然純白美少女……
「……」
ーーしかし……
見た目は
ーー既に鞘の中か……
気づいた時は彼女の背中を見ていた。
つまり、やや死角になっていたとはいえ、彼女の抜き身は捉える事が出来なかった。
ーーとんでもない居合いだ
いや、それを言うなら、気づいた時は背中……
あの距離を一気に詰めた尋常ならざる踏み込みの方が先か?
俺はいつものクセから他者の特徴を思考しながら攻略法を考えていた。
何故?……いや、敵だろうと味方だろうと関係無い、それは俺の生来のクセだからだ。
そして、それ以上に気に掛かった事と言えば……
彼女の微塵の躊躇もない動作。
実戦では決断したなら欠片の迷いでも命取りなのは常識だが、あれは……
なるほど、
「…………」
ーーほんと……若干、
俺は初めて目にした噂以上である
何故だろう?共闘相手であるだけの彼女に。
という疑問は……実際、俺の中では既に疑問では無くなって来ていた。
「だから……勝手に動くなよ、段取りってものがあるだろ」
そしてそれを誤魔化すように俺は彼女にそう不満をぶつける。
「…………わかった……じゃあ、この後どうすれば良い?」
ーーザザザザッ!
ーーガシャガシャッ!
彼女とそう言った場にそぐわないやり取りをしている間にも、謁見の間は
「だ、
「き、貴様らはっ!」
「くせ者だーー!出あえ!出あえ!!」
直ぐに
「ひぃぃぃぃーー」
そして
ーー
ー
「あーあ……台無しだよ……ほんと……美しくない」
「さいか?」
興ざめだと言わんばかりに首を横に振る俺を不思議そうな瞳で見る
立案した策を可能な限り理想通りに戦場で組み立て実行する。
これはある意味策士の理想だ。
だが、戦場を卓越した独自の感覚で自在に駆ける
「まぁいいか……その脂肪を引っ捕らえろ……あ、殺すなよ」
ある程度諦めた俺は、臨機応変に対応する方向へ修正し、更にそう付け足していた。
「……兵士は?」
彼女の質問に俺は少しだけ思案する。
「……適当にあしらえ、
そしてそんな感じに指示を出す。
俺の背後の数人……
これも
ガチャ!ガチャ!
「もう逃げ場は無いぞ、賊めっ!神妙に縄に着け!」
ジャキ!シャキンッ!
槍の先の、刀身の……幾つもの閃く銀光が俺達
ーーひぃ、ふぅ、みぃ……結構な数だが……
最初から比べ、倍するほどの
ーーコクリ
俺の指示に頷いた
ババッ!!
同時に、俺の従者に偽装していた”
ーー
ー
ーー今まさに、
「……」
にもかかわらず、戦場の中心にあって
「あーぁ、美しくないなぁ……」
第七話 「
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