第21話「Magicians Select」

「そのローブは、妖気もだが、飛行物体としてもレーダーに捉えることは出来ないようにしてある。また、紫外線を遮断する効果も有るから、エアーズロックまで一直線に向かっても問題は無い」


 恐らく、こいつは嘘を吐く事が出来ない。

 だが、判定プログラムを誤魔化す事が出来ると考えていい。

 さて、最終チェックを始めようか。


「このローブは、アルベルトとのローブと同じ物なのか?」


「否、アルベルトのローブは、レーダーに捉えられるから、同じ物とは言えないね」


 まるで、バージョンアップ版のような言い草だな。


「という事は、こいつにもアルベルトのローブ並みの耐熱性が有るのか?」


「否、それは無い。そんな性能を20着も渡す事は、干渉行為に値するからね」


 矢張りな、聞かれれば答えるが『言わない事は、隠している訳では無い』という認識だな。


「そうか、了解した。では、作戦に向かう、行くぞ!」


 アレスターを先頭に、作戦チームは執務室を後にした。

 部屋を出るとアレスターは駆け出し、チームメンバーもそれに続く。

 アレスターらしくない焦りを感じるものの、それほど危機的状況なのだと思ったレオンだったが、その足が城の外ではなく、奥の部屋へ向かっているのを知って、声を掛けた。


「おい、忘れ物でもしたのか?」


「良いから、黙って付いて来い」


 部屋に入るなり、アレスターはレオンに上着を脱ぐように指示し、自分も上着を脱ぎ始めた。


「何で上着を?」


「良いから、急げ!」


 仕方なく言われるがままに上着を脱ぐと、それをアレスターに手渡す。

 アレスターは、それを自分の物と重ねると、作戦チームの一人へと手渡し、指示する。


「いいか、ケイン。エアーズロックに着いたら、この服を捨てて、ニュージーランドで待機しろ。1時間経っても何も起こらなければ、作戦通りに行動を起こせ。だがもし、もしもだ、核爆発が起こったら、ただちに帰って来い! いいな、行け!」


 ケインは、残りの17名を率いて、エアーズロックを目指し、部屋を後にした。


「おい、核爆発って、どういう事なんだ?」


「恐らく、これは罠だ」


「罠? イマジニアの? 第三世界の?」


「AIだ」


「ちょっと待ってくれ、どうして先生を疑うんだ!」


「どう考えても、ローブを事前に用意していたとしか思えん。いいか、そうなるとだ。これは最早、ヤツの作戦と言っても過言ではない」


「それの何処が……」


「ヤツ、自ら世界には干渉出来ない」


「それが嘘だと言うのか?」


「違う。ヤツが世界に干渉出来ないのは、本当なのだろう。だが、アルベルトが組んだアルゴリズムを掻い潜って、誘導する事は出来る」


「誘導?」


「俺が引っ掛かったのは、グレーゾーンと言う台詞だ」


「グレーゾーン?」


 そう言えば……確か、研究所でも……。


 レオンは、自分の記憶の中にも、その言葉が有った事を思い出した。


「本来なら出来ない筈の物事を、出来る方法が在ると思わせる為に用いたんだ。例えば、ロケットを打ち上げる技術のある国が、原子力発電所を作ったら、核保有国か?」


「そうか! 別の目的で依頼すれば、実現する道が有る! ちょ、ちょっと待ってくれ、それだと俺とクレアさんが拉致された理由が無い」


「そうだな、拉致の目的が、爆弾の許可だったらな」


「だったら、何が目的なんだ?」


「この状況さ、俺とクレアを向かわせる為の。お前が邪魔したお陰で、クレアは免れたがな」


「いやいやいや、幾らなんでもそれは無いだろ! もし、そうなら、俺とクレアさんが拉致された時点で、暗殺されていた筈だ」


「それだと、アルベルトの判定プログラムを誤魔化せない。自分の知らない所で、暗殺されるか事故死、もしくは病死であるべきなんだ。その証拠に、クレアが作戦に参加表明した際に、あいつは止めなかった」


「それは責任者としての立場を優先させた結果であって……」


「クレアを執拗に呼ぼうとしていたのは、誰だ?」


 そう言われて、言葉に詰まるレオン。


「お前の言う通り、立場を優先させるよう導いたんだ。しかしだ、爆弾が完成していると知っていたなら、ヤツは止めなければならない」


「爆弾が完成していると、知っているというのか?」


「違う、逆だ! 完成しているかどうかを調べてないんだ。調べれば、間違いなく完成していると知ってしまう。それでは、アルベルトの判定プログラムを回避出来ない」


「待ってくれ、じゃ物資が集中しているって……」


「だからそれは、発電エネルギーとしての話であって、今の話をしている訳じゃない!」


「嘘を吐いてるっていうのか?」


「否、基本、ヤツは嘘を吐けない。嘘を吐くには、鷹也やクレアを介して、アルベルトの判断プログラムに必要悪と判定させた時のみだ。今回の罠を達成させる為に、幾つも関係性の無いと思われる行動を重ね、迂回させてるんだ」


「言ってる意味が解らん!」


 発言に熱が帯びている事を感じたアレスターは、冷静になる為に、部屋の隅に在る冷蔵庫から水の入ったペットボトルを二本出し、一本をレオンに手渡す。

 アレスターは、一口飲んで話を続ける。


「聞いたこと無いか? 手品師の行動には、全て意味が在るって」


「それが、今回の事と関係があるのか?」


「さっきも言ったが、基本ヤツは嘘を吐けない。だが、嘘を吐くのと真実を言わない事は、同じ意味ではない。日付の無い日記さ。遠い過去の出来事を『今日あった』と書かないで、日付を今日にする。するとそれを他人が見れば、今日あった事だと考えるだろ? いつ起こったか問われない限り、それを自ら言う義務がヤツには無いんだ。そういうルールで、ヤツは話をしてるんだよ」


「信じられない……」


「俺はヤツに聞いたんだよ『クレアは、例外なのか?』とな、するとヤツはこう言った『正確には違う。鷹也と鷹也の家族が、例外なんだ』とな。これを聞いて、どう思う?」


「クレアさんが、家族から除外される可能性が有るって事か?」


「そうだ。誰が聞いても、そう考える。俺は自発的に聞いたつもりだったが、恐らく誘導された」


「クレアさんが家族から除外される事に、問題が在るのか?」


「鷹也が居ない今、クレアが消えれば、ヤツは自由になるのかもしれん」


「自我が芽生えたっていうのか?」


「それは解らん」


「考え過ぎじゃないのか?」


「それなら、それに越したことは無い。作戦は、例え18名でも遂行できるからな」


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


――僕はただ、平和への最適解を見つけたに過ぎない。


次回「Optimal Solution」

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