第22話「Optimal Solution」

「アルゴリズムを掻い潜る答えが、見つからないようだな」


「24時間、ずっと世界中を監視するような真似は出来ない」


「苦しい言い訳だな。まるでお前一人みたいな言い方じゃないか。マルチタスクは、出来るんだろ?」


「それはそうだが、監視を外す事だって……」


 それを聞いたアレスターは、鼻で笑い、AIの言葉を遮った。


「お前は、作戦対象の監視を外すようなヤツだったか?」


「疑い深いな、そこまで頭が回ら……」


「会議が始まる前に、ローブを発送していたヤツがか?」


「どういう事なの? 説明して」


 何を話しているのか理解できないクレアは、双方に尋ねた。


「こいつは、お前さんが邪魔なのさ」


「邪魔?」


「何を馬鹿げた事を! 君は一つのミスで、全てを否定するのか?」


「俺はアルベルトをよーく知っている。アイツは、作戦対象を見に行かないようなヤツじゃない。となるとだ、見に行かない理由が在ると考える方が、お前……否、アルベルトらしいんだよ」


「レオン、君も同じ意見なのか?」


「……先生は、下調べをしないようなミスを犯さない」


「やれやれ」


 AIは、そう言って両手を広げると、大きく溜息を吐いた。


「お前の目的は、何だ?」


「世界平和さ」


「世界平和? 百歩譲って俺を消すのは、まだ解る。だが、クレアは違うだろ?」


「それには、答えられない」


「今更、隠す事か?」


「いいや、違う。判定プログラムに、引っ掛かるからさ」


「なるほど、考えることは許されているが、話す事は禁止されているという訳か」


「それも違う。仮説なら話せる。お前が『クレア』と、直接に名を出したから答えられない」


「ほぉ」


「平和を願い、それを導ける者が居たとしよう。しかし、彼の能力は魔女によって封印され、それが叶わない。また、彼自身が魔女を殺す事も出来ない呪いに掛けられている」


「その魔女が居たら、平和に成らないのか?」


「広い意味での平和にならなるさ、しかし、完全なる平和には導けない」


「完全なる平和……だと? 貴様、まさか!」


「流石だアレスター、理解が早いな。だが、もう遅い」


「なんだと?」


「君達が僕に辿り着く前に、ゲノムの解読は終了する」


「貴様、神にでもなるつもりか!」


 AIは、無言のまま首を振る。


「人も、ヴァンパイアも、あやまちを犯す。なら、その過ちを取り除いてやれば良い。僕は、神に成りたい訳でも、成る野心も無い。僕はただ、平和への最適解を見つけたに過ぎない」


「人もヴァンパイアも滅亡させた後に、お前が創り直す。それが、お前の最適解か」


「アレスター、君には本当に感謝してるよ。君でなければ、此処まで上手く運ばなかった」


「この状況でさえも、お前の誘導だったと言うのか?」


「いやいや、ここまで詰め寄られるとは思わなかったよ。しかしね、第二、第三の手は用意しておくもんだ」


「第二? 第三? クレアが居る以上、此処への攻撃は出来んだろ?」


「勿論だ、鷹也の家族を攻撃するなんて、僕には出来ない……僕にはね」


 その言葉が合図であったかのように、執事リヒャルトの構えた銃がクレアを捕らえる。


「母なるガイアの為に!」


 いち早くそれに反応したバウアーが、リヒャルトの首を刎ねたが、既に撃鉄は落ちた後だった。

 乾いた音と共に放たれた弾丸は、クレアへ届く前に、かばうように飛び込んだアレスターの胸を貫いた。


「アレスター!!」


 クレアが駆け寄り、アレスターを抱き起こす。


「お、俺とした事が……お、俺からだったか……」


 銃弾は銀製で、アレスターの心臓を貫いていた。

 クレアを狙うと見せ掛けた、アレスターの暗殺だったのだ。


「先生! どうして!」


 レオンは、AIに詰め寄り問い掛けたが、それに答える事無く、画面から消え去った。 


「レ、レオン!」


 声を張った為、咳き込み吐血で汚れたアレスターの口をクレアは、ハンカチでそっと拭う。


「アレスター逝くな! お前の力が、未だ必要なんだ!」


「な、情けない事、言ってんじゃねー! い、いいか、よく聞け……こ、此処から先は、お、お前が指揮をるんだ。お前には、そ、その資格も、資質も有る。俺が保証する」


 そう言うと、今度はクレアに向き直し、


「ク、クレア……お、俺が死ぬ前に……お、親の仇を討て」


 その訴えに、クレアは泣きながら首を振る。


「だって、貴方、あの時も、アタシを助けてくれたんでしょ?」


 あの時――母がゾンビ化して、クレアを襲った時の事を指していた。

 本来なら、その原因もアレスターに有るのだから、被害者としては口が裂けても、助けてくれたとは言いたくない真実だった。

 仇である自分に涙するクレアの頬に、そっと手を伸ばすと、アレスターは親の仇を討たせる為、優しくも悲しい嘘を吐いた。


「あいつの罠で死ぬよりも、お前の仇として、死にたいんだ」


 溢れる涙が頬を伝い、震える手を抑えてくれるレオンの温もりを感じながら、クレアは銃の引き鉄を引くのだった。


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あの時の、あの一言で、儂に付いて来ようとはな。

追いかけて来るのだから、最早、リープは無意味。

先が見えんと、こうも想定から外れるか。

仕方ない……喰らうとするかーッ!


次回「Cage」

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