第18話「第三世界」
第一世界とは資本主義国を指し、第二世界とは共産国を指し、そして、第三世界とは、発展途上国の総称を意味する。
父・母・兄・姉・弟・妹・祖父・祖母・恋人・親友……1999年7月から現在に至るまで、その呼称で表現できない者が居ないほど、犠牲者で溢れ返った。
或る者は、家族との別れに涙し、
或る者は、友の死に怒り、
或る者は、恋人の命を奪った者への復讐を誓った。
「理解も共感も同情もしなくていい、我々はヴァンパイアと共に生きていたくはない! 同じ空気さえ吸いたくもない!」
そんな想いを持つ者たちが集い、人間の人間による人間の為だけの国を築いた。
国名の由来は、建国の父クリストファーメイスフィールドの言葉から付けられた。
「我々は家族だ。まだまだ途上の、小さな家族だ。互いを支え合い、
――その国の名は、第三世界、かつてオーストラリアと呼ばれた大陸。
「イマジニアの兵器なのに、第三世界に在るの?」
当然の疑問をアルベルトのAIに、クレアは尋ねた。
「あぁ、兵器開発に必要な物資が、エアーズロックに集中しているんだ」
「だけど、あそこはイマジニアとさえも、国交を断絶していた筈よ」
「利害が一致したんだろうね。武器の性能を考えれば、第三世界にとって咽喉から手が出るほど欲しい代物だし、イマジニアとしても、実験結果を得られる」
「それって、イマジニア自体が実験することは無いって事?」
「無いだろうね。何故なら……」
そう言いながら、アレスターの方を向き、
「もし、そんな実験が行われてると知ったら? アレスター、君ならどうする?」
「攻撃するに、決まってるだろ」
「と、言う訳だ」
「え! じゃ、イマジニアは第三世界を」
「利用している」
もし、イマジニアがアルベルトのAIに『対ヴァンパイア用中性子爆弾』を依頼していたなら、実験の必要も、ヴァンパイア側に知られる事も無く、数日の内に完成する。
クレアが執拗に狙われたのは、その為だった。
しかし、アルベルトのAIに依頼が出来ないとなると、実験を行わなければならない。
その実験は核実験と同等で、行えば必ず地震が発生し、その震度によって規模が知られる。
たった1回の実験で疑われ、総攻撃を受ける可能性はゼロとは言えず、イマジニアはそのリスクを第三世界に押し付けたのだ。
アルベルトのAIが答えた『完成まで、あと3ヶ月』とは、実験なく成功した場合の最短の日数だった。
「フォルクハルトたちを解放はしていないが、流石に連絡が取れなければ、本国も疑うだろう。恐らく三日以内に、危機的状態と知って、実験に踏み切る筈だ」
「では、実験しないように警告を」
クレアの提案に、アレスターが鼻で笑う。
「甘いな、それでは後手に回る。警告すれば、必ず、実験に踏み込む筈だ」
「アレスターの言う通り。実験に失敗したとしても、その数値は成果であり、前進したと言えるからね」
だが現実は、アルベルトの予想を上回った。
アルベルトは、大きく溜息を漏らした後、今起こった現実を突きつける。
「一日も待つことが、出来なかったようだ」
その言葉に、全員の眼がアルベルトに集中する。
「今、実験が行われたよ」
「なんだと! アルベルト、一回の実験で成功する確率は?」
「17%だ。だが、2回目は53%にまで跳ね上がる」
アレスターは、傍に居る執事に指示を出す。
「リヒャルト、各王へ伝達!」
「待て、少数精鋭で行った方が良い。下手をすると、2回目の実験をその攻撃に合わせられる」
「少数で行ったところで、我々には妖気が在るんだ、レーダーで……」
「妖気を隠すローブを20着用意した。
その言葉に、アレスターは小首を傾げたが、悩んでる暇も無く、執事に指示を出す。
「私も同行させてください」
そう言ったクレアに、アレスターは睨みつけた。
「この期に及んで、話し合いとか言うんじゃないだろうな」
「いいえ、責任ある立場として、見届けたいんです」
「それなら、俺が行きます」
「レオン!」
「クレアさん、気持ちは解るが……矢張り、貴女は
レオンは、一瞬、言葉を選ぼうとしたが、ハッキリ言う事の方がクレアの為だと考える。
クレアも、レオンの優しさに気付き、それを受け入れた。
「解りました、貴方に任せるわ」
「では、10分の休憩を入れる。10分後、ローブが届くまでの間、作戦を練るので、レオンは戻って来てくれ」
こうして会議は終了し、それぞれの部屋に戻った。
「巧く部屋から出したね。この切迫した状況で、他の皆には聞かせたくない事が有るのか?」
「アルベルト……クレアは、例外なのか?」
直接、世界に介入しない筈の存在が、率先的に準備した事に疑念を抱いたのだ。
この問い掛けで出されたアルベルトの答えは、予想とは違うものだった。
「正確には違う。鷹也と鷹也の家族が、例外なんだ」
「では、もし、鷹也が人間かヴァンパイア、どちらかの滅亡を望めば……手を貸すのか?」
「当然だ。でなければ、メイヲールの剣は渡さんよ」
「メイヲールの剣?」
「12年前、メイヲール級の妖気を3つ感じたろ? その内の1つだ」
「そうか……剣だったのか、道理で一定の妖気を放つ訳だ」
ヴァンパイアが戦えば、多少なりとも妖気の上下がある。
最大値を維持したり、突然消えたりする事を不思議に感じていたのである。
「あと二つ、鷹也が戻れば全てが解決するというのは、お前が動くからか? そして、その権利は、クレアには無いのか?」
アルベルトのAIは、その二つの問い掛けに対して、一言で終わらせる。
「その通りだ」
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鷹也の瞳に映った世界は、信じ難いものだった。
次回「瞳に映った世界」
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