第9話「忘れ形見」

 クレアとレオン以外のホークアイメンバーは、散開したその日の内に、ヴァンパイア領へ入ることに成功していた。

 散開から2日後には、目的地であるアレスターの住む城で合流し、クレアとレオンの居ないまま、王への謁見えっけんを果たしていた。


「そのクレアというのが、イマジニアの要求している女性だと?」


「おそらく」


「進入ルートさえ判れば、コチラから迎えに行くことも出来たんだがね」


 そう言われて、バウアーはレオンの言葉を思い出す。


 ――念の為、亡命ルートは教えないように。


「まさか! レオンの奴がスパイだったって事は……」


 バウアーの口をついて出た言葉に、交渉相手である筈のアレスターが、即座に否定する。


「彼がスパイ? 有り得ないな」


「何故、アンタがそう言い切れる?」


 自分よりも、付き合いの浅い筈の相手に、古くからの友人関係を否定されたように感じて、ついタメ口になる。

 アレスターは、その無礼を気にすることもなく「知らないのか?」と言って、悪戯っぽく笑う。


「知らない? 何を?」


「彼は……レオンは、ウォレフの忘れ形見だからさ」


「はぁ?」


 バウアーは、暫くの間、口を閉じられないほどに驚いた。



 キリストの呪縛から解放された、西暦1999年7の月。

 その恐怖からか、種を残さなければならないと本能的に感じていたヴァンパイア界ではベビーブームが起こり、ガーランド兄弟や、レオンが生まれたのである。

 本来ならば、レオンはイマジニアの王位継承者となるべきなのだが、それを世間に公表されることは無かった。

 何故なら、ウォレフの相手、つまり、レオンの母ユリアーナには、既に別の伴侶はんりょが居たのである。

 ユリアーナの死後、手紙でウォレフもその事実を知るのだが、ウォレフがレオンを特別視することは無かった。

 ウォレフの考えは、そもそもイマジニアはアルベルトの国であり、アルベルト亡き今、王を継ぐのは血ではなく、王としての力やカリスマ性などを兼ね備えた者だと考えていたからであった。

 そう言う意味で鷹也は、血も合わさった申し分ない存在だった。


「俺は、お前を子としてでは無く、男として認めている。だがそれでも、王としての器までには至らない」


「解っております」


「だが、この国を支える柱の一つには成って欲しい。厳しい職だが、諜報部員として活動してくれるか?」


「喜んで承ります」


 こうしてレオンは、摂政バルバドの息子アレスターに接触して、その配下に入り、後に意気投合にまで至ったのである。



 その頃、そのスパイ容疑にかけられていたレオンは、泣きそうになっていた。


「久しぶりだね、クレア、そして、レオン」


 噂には聞いていたものの、実物を見たことがなかったレオンは、目の前に立つアルベルトのホログラムが、本物にしか見えなかった。


「先生、お久しぶりです」


「先生?」


「王に即位される前まで、俺の先生だったんですよ」


「私語は、そのくらいにしてもらおうか?」


 気の短いトータルエクリプスの幹部フォルクハルトは、目的を切り出した。


「さて、機内でも話したが、このコンピュータに対ヴァンパイア用ミサイルの了承をしてもらおうか」


「彼等の言うミサイルとは、人で言うところの中性子爆弾のような物で、ヴァンパイアだけに影響を与える大量破壊兵器だ」


「そんな注釈ちゅうしゃくらん! さっさと了承しろ、さもないと……」


 そう言って、銃をレオンへと向ける。


「どうする? クレア作るか?」


「ダメだ、そんな物を了承しては! 俺は死んでも……」


「黙れ!」


 フォルクハルトは、レオンを銃のグリップで殴り倒すと、銃口をその後頭部に突きつけた。


「さぁ、許可を出せ!」


「そんな許可は出せないわ!」


「なんだと?」


 今度は、クレアにその銃口を向ける。

 レオンは、フォルクハルトに体当たりしようと立ち上がったのだが、他の兵士に抑えられ、再び地を舐めた。


「私は、誰が殺されようとも、そんな兵器は認めない!」


「良い覚悟だ」


 そう言うと、アルベルトのホログラムは、クレアに拍手を贈る。


「いちいち勘に触るコンピュータだな!」


「僕はコンピュータではない、アルベルトのAIだ」


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ところで、教えて戴けませんか?

どうして、正確な場所が判ったんでしょうか?


次回「Solver」

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