最終話「神化」

 アルベルトを生かせたのは、コイツを産むため。

 カイルを始末させなかったのは、ヴァンパイアとして、コイツを成長させるため。

 クライの封印を許したのは、アルベルトと人間の女を出逢わせるため。

 自分の意志で動いていたと思っていた俺は、親父の掌で踊らされた、ただの道化師ピエロだった。


 カイル、アルベルト、グリンウェル、クライ、俺やフェリオスに至るまで。

 コイツを神化しんかさせる為の過程に過ぎなかったのか!


 グレイスは、最期の力を振り絞って叫んだ。


「フェリオス、逃げろーーーッ! これは親父の罠だーーーッ!」


「親父?」


 突然、にわかには信じがたい話を聞かされた方にしてみれば、この状況が何故、父の所為せいなのか理解できず、戸惑った。

 しかし、リザレクション(復活)が起こらないことで、グレイスが危機的状況なのことだけは理解出来た。


「まさか、アンチフィールドか?」


 対法術禁止領域。

 それは神の中でも、父にしか使えない特別な術だった。


「親父が、このエリア一帯に?」


 それを確認する為、フェリオスは詠唱し、自分の身が炎に包まれたことで、その術を行っているのが父ではなく、ドラキュラの方であると確信する。


「覚醒し、神化しんかしたという訳か……」


 この時のフェリオスは、グレイスがリザレクションが起こらないことで、父の仕業であると勘違いしたのだと考えていた。


 ヤツをグレイスから離せば、リザレクションが掛る筈!

 まだ、間に合う!


 フェリオスは、鷹也からグレイスを引き離す為、一気に近づこうとしたのだが、


「こう振るんだったか?」


 その言葉と共に、剣から放たれた真空波がフェリオスを襲う。

 フェリオスは、危険を察知しけたが、行き場を失った真空波は地面に当たり、大地が大きく裂ける。


 おいおい、チートにも程があんだろ!

 当たれば、即死だな……


「こんなことなら、クライの言うこと聞いて、回復術を覚えておくんだったな」


 口ではそう言いながらも、自分よりも強い者が父の他に居たことに、喜びを感じていた。

 心の奥底で、父と戦ってみたいという衝動がフェリオスにはあったからだ。

 そして、その絶好の相手が、目の前に現れた。


「こいつなら、全力で戦っても文句はねーだろ、親父!」


 その答えが返って来ない事で、了承を得られたと思ったフェリオスは神気を上昇させる。

 次々と飛んでくる衝撃波を交わし、鷹也へ近づき拳を放った。


「どうだ? 神になった気分は!」


 鷹也はそれに答えず、拳を剣の腹で受け止めると、剣を振ってフェリオスを弾き返した。 


 ヤツの方が、未だ速いのか?

 もっと速く!

 ヤツが捉えられない程に速く!


 目にも留まらない剣撃けんげきを繰り出す鷹也、最初は難なくかわしていたフェリオスだったが、段々とその身ががれて行く。


 何だコイツ、まだ速くなるのか!

 一旦、距離を……


 だが、その離れたフェリオスへ、数え切れない程の衝撃波が襲い掛かる。


「舐めるな!」


 フェリオスは、己が身にブレイズを放ち、その熱がバリアとなって、衝撃波を打ち消した。


「インフェルノ!」


 幾つもの火柱が地より噴出し、鷹也を包む。


 お前には熱耐性があるだろうが、目眩ましにはなる!

 神気を覚えたてお前が俺に気付くのが先か、俺がお前を殴る方が先か、勝負だ!


 火柱の一つから飛び出したフェリオスの拳が、鷹也をとらえた。

 手応えを感じたフェリオスは、畳み掛けるように二撃目を――。


 な、なん……だと?


 目の前に居た筈の鷹也は、すでに後ろに在り、フェリオスの体は真っ二つに切り裂かれていた。


 あれか? あのメイヲールを仕留めた技か?

 あれを、あれを、俺は喰らったのか?


「ぐ、グレイス……俺にリザレク……」


 だが、居ると思われた者は其処そこらず、遥か遠くで見つけた姿に、フェリオスは絶句する。


 何故だ、もうコイツのテリトリーから外れている筈なのに……。


 その姿とは、復活すること無く地面に叩きつけられ、砕け散ったグレイスのむくろだった。


 親父か?

 親父なのか!


 グレイスの最期の言葉が、フェリオスの脳に響く。


「オヤジィィィィィィィーーーーーッ!」


 だが、その叫びが父に届くことは無かった。


おわり


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あと残すは、エピローグとあとがきです。

よろしければ、そちらも、どうぞ。

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