第18話「Resurrection 前篇」
「カイルの討伐を命ずる」
突然下された使命に、グレイスは自分の耳を疑い、思わず聞き返した。
「か、カイルをですか?」
「そうだ、討伐して来い」
「お任せください」
深々と頭を下げたグレイスの表情は、厭らしい笑みを浮かべていた。
長きに渡ったカイルを主人公とする舞台が今、
最早、グレイスにとって『仇討ち劇』は、観るに値しない三文芝居となった。
しかし、討伐に向かったグレイスがカイルの城に着いた時、既に、その茶番劇が始まっていたのである。
まぁ、良かろう、どうせすぐに終わる前座だ。
カイルには、丁度良いウォーミングアップになるだろうよ。
カイルとの決勝戦を楽しみに、それを眺めていたのだが、思わぬ番狂わせが起こってしまう。
「なに!」
堕ちて行く敗者、カイル。
それを呆然と目で追う、グレイス。
まるで自身が死ぬ間際であるかのように、カイルとの闘いが走馬灯のように流れた。
「こんな……こんな茶番で、終わらせてたまるかーッ!」
何よりも、カイルとの闘いを望んでいたグレイスは、父に懇願する。
「親父様! お願いが御座います! 神界でカイルとの決着を!」
それは願いと言うより、叫びに等しかった。
この時のグレイスは、闘いたいという異常な熱に浮かされ、今の状況や自分が放った言葉の意味さえ、考えられずにいた。
「許可する」
父の言葉と同時に、グレイス、そして、カイルは神界へと転送される。
落下する感覚が無くなり、まだ意識が残ってることを不思議に思ったカイルは、目を開いた。
目に映った光景は、自分が住んでいた城の周辺ではなく、果てしないほど草原が広がっていた。
「此処は……何処だ?」
「此処は、神の領域だ」
声のする方を見上げれば、見覚えのある青い髪の男が、ゆっくりと舞い降りて来た。
「き、貴様!」
「俺の名はグレイス。お前を狩りに来た、神の使徒だ」
「狩り? 私は
神の使徒という言葉よりも、生きていることに疑念を抱いた。
「その通り。神の恩恵により、お前は未だ生かされている……今はな」
「
「この傷を覚えているか?」
そう言って、自分の左頬を指した。
「あの時のか?」
「そうだ! あの時の屈辱を忘れぬよう、敢えて残した! そして、これで漸く、この傷が消せる日を迎えられたという訳だ」
「それは恩恵と言わん、
揚げ足を取られ気分を悪くしたが、私怨という言葉でカイルを苦しめそうな出来事を思い出す。
「死ぬ前に、聞きたいことが有るんじゃないのか? 答え合わせをしてやるぞ」
「私は人間に変えられた、どう
「ほぉ~まるで、ヴァンパイアのままであれば、勝てるみたいな言い草だな。いいだろう」
そう言うと、グレイスはカイルに手をかざし、詠唱を始める。
すると、カイルの身体から傷が消え、妖気が再び、その身へと注がれた。
「これで聞く気になったか?」
そう言って厭らしく笑い、話を戻す。
「お前がガキの頃に居た、執事の死は……」
「貴様が関わっていたのだろ?」
「ほぉ、気付いていたか……ならば弟の死は、どうだ?」
その言葉に、カイルの顔色が変わる。
「どういうことだ、あれは私が……」
「お前は、自分で行動を起こしたと思っているんだろうが……」
「グリンウェルか! グリンウェルが貴様の……あの時、アルベルトを暗殺しようとしていたのは、グリンウェルか?」
「勘が良いな、その通りだ」
「アルベルトを成り損ないと呼んでいたな、どういう意味だ?」
漸く質問してきたカイルに、グレイスは
「神の成り損ないだ。アルベルトは、エミリアと俺の父、神との間に出来た子なのさ。つまり、お前とアルベルトは、一滴の血も繋がってはいないんだ。今まで、弟だと思って大事に守って来た存在が、実は赤の他人で、その赤の他人を手に掛け、今の今まで、悔やんできた無駄な日々。どうだ、今の心境は?」
それを聞いて、カイルは笑い出した。
絶望の余り、笑うことしか出来なくなったのだとグレイスは考えたのだが、カイルの心情は真逆だった。
「貴様が考えているより、精神的ショックは少ない。
そうだ、そうだとも。
今頃になって、漸く思い出した。
アルベルトに初めて会った時、血の繋がりなど関係無いほどの衝撃を受けたではないか!
なぜ私は、血や、強さなんて、
すまない、アルベルト、私が愚かだった……。
カイルは、青い空を見上げ、そこに居ない者に話し掛けた。
アルベルト。
私とお前は、兄弟ではないそうだ。
お前は既に、私を兄とは思っていないのだろうな。
今更、許してくれとは言わん。
だが、お前から、どう思われようとも。
今も、変わらず。
お前は、私の弟だ。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
元々、この話は作らない予定でした。
『実は、生きていた』っていうのが、私の好みではないからです。
ただ、物語を考えていてですね、ここまでグレイスを執着する感じに作っておいて、
「カイル死んだね、はいサヨウナラ」
で、良いんだろうか?って思ってしまいましてね。(^^;)
ついつい
『もしも、カイルとグレイスが闘ったら』
な~んて、妄想が膨らんじゃって、折角考えたから……入れる?
みたいな、ことになってしまった訳ですよ。
そしたら、また、複線仕込んじゃってぇ~ ヾ(≧▽≦)oひゃっはっはっ!
どうしよう?( ̄o ̄;)
次回「Resurrection 後篇」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます