第24話「魔剣」

 メイヲール戦のシミュレーションをすべく、アルベルトは陽が落ちる少し前に、カイルの城へ入った。


「時間より、少し早いな」


「練習の前にね、ちょっと兄さんに見てもらいたい技があってね。意見を聞かせて欲しいんだ」


 いつもなら悪戯いたずらっぽく笑って、新しい技を見せてくるような弟が、いつに無く真剣な面持ちで言い出してきた。

 恐らく答えは出ていて、自分に試すのは検算けんざんなのだろうと思いながら、カイルは身構え、それに応える。


「いいだろう、来い」


 アルベルトは、一直線にカイルへと走り出すと、跳躍し翼を広げ、一気に加速した。

 そして、その身がカイルの射程に入る寸前で、その技は発動する。


「なに?!」


 まずは受けてみようと考えていたカイルの目前で、アルベルトが2人に分裂した。

 驚きはしたものの冷静を保ち、まず1人に的を絞り追う。

 そして、追いついた相手へ、鋭い蹴りを放った。

 当たったかに見えた攻撃に、その感触は無く、その蹴りは空を切る。

 攻撃された筈のアルベルトは、更に分裂を起こし、3人へと増えた。

 カイルは、アルベルトに合わせて動くのを止め、敢えて構えを解いた。

 カイルの周りを交差しながら、その数は5人まで増え、徐々に間合いを詰め、同時に攻撃を放ってきた。

 カイルは、その5人から実体のアルベルトを見事につかみ、その技は終了した。


「見切られたか……」


「答えは、やる前から判っていたんじゃないのか?」


「まぁね。でも、タネを知っている自分の考え過ぎかとも思ったんだ……」


「アルベルト、今止めたのは勘だ。しかし、落ち着いて考えれば、どういう技か想像は付く。こんな感じだろ?」


 そう言うと、アルベルトよりも多い、8人に分身してみせた。


「僕が1ヶ月も掛かった技を初見で……しかも超えるなんて……」


「これをメイヲール戦で、と考えた訳か?」


「どう思う?」


「駄目だな。忘れたのか? メイヲールは、500人のドラキュラと戦ったんだぞ。ヤツなら全てを相手に出来る。仮に撹乱かくらん出来たとしても、再生能力の高いヤツにしてみれば、受けて相手を特定させてから攻撃すればいい。何より、下手にヤツのかんさわって、本気になられたら方が厄介だ」


「面白い技なんだけどなぁ」


「恐らくウォレフやグリンウェルクラスでも、初見ならだませるかもしれんが、二度目は無いだろうな。となるとだ、こいつを使えるのは格下だけになる。だが、消耗の激しさを考えれば、効率が悪い過ぎて、格下相手に使う意味が無い。それと、やってみて判ったんだが……この技には、大きな欠点がある」


「分身が消えてしまわないように、残像に態々わざわざ戻っている。そんな手間の掛る技が成立しているのは、動きをあらかじめ決めているからだ。だが裏を返せば、幾ら数が増えようとも、動きを見切れば本体を追えるということだ」


 それを答えたのはカイルではなく、部屋の扉を開いた者の口から出された。


「その通りだ」


「ということで、もう私には通用しませんからね」


 そう言って、グリンウェルは笑う。


  ・

  ・

  ・


 お前は、出来るのだろ?

 アルベルトの分身が……

 さぁ、早く見せてみろ!


「グリンのヤツ、いつの間にカイルの技を……しかも両腕とは」


 片腕に妖気を集中させ、相手の胸を貫き、心臓をもぎ取る、それがカイルの技だ。

 カイルは、必殺技として攻撃のみに用いていたが、グリンウェルは防御にも使うことで、鷹也の銀製の長剣を防いでいた。

 妖気によるコーティングが、刃を肌まで近づけさせない。


 さっきの腕を斬り落とすようなことは、簡単にさせてくれそうにないか……やるか!


 その決意と共に、鷹也の分身が始まる。

 それを見て、グリンウェルは不気味に笑う。


 やはりな、アルベルトと同じステップだ。

 たとえ、カイルより多くとも、見極められる!


 8人の鷹也が交差する中、グリンウェルは静かに、それを待った。

 鷹也が止めを刺しに来る、その瞬間を。


 徐々に間合いが詰まり、グリンウェルの右後方から、本体(鷹也)が剣を振り下ろそうとしたその時、レイリアが叫んだ。


「エクリプス、違う! 後ろ!」


 その叫び声で、咄嗟とっさに振り被った剣をそのまま背に残し、背後から心臓を狙ったグリンウェルの右手刀を受け止めた。

 だが、その衝撃は凄まじく、壁面まで飛ばされ、受け止めた剣には、ひびが入る。

 羽根を広げて反転し、壁を蹴ることで、衝突しょうとつまぬがれた。


「その程度の技なら、私にも出来るのだよ。私は見切っているが、果たして君はどうかな?」


 私の分身は、君達より数は少ない。

 だが、君達とは違うステップだ!


 まだ、鷹也の体勢が整っていない内に、グリンウェルの分身が始まり、三方向から、同時に攻撃が放たれる。

 

 落ち着け、背後は壁、来るのは前方の三方向のみだ。

 見極めろ!


 鷹也は剣を構え、三つの内、致命傷になりそうな正面の攻撃一本に絞って防御した。


「いつまで、そんななまくらを握り締めているつもりだ! 剣ともども、果てるがいい!」


 鷹也は剣で、グリンウェルの拳を受け止めた。

 しかし、ひびの入った刀身は、更に大きな亀裂が入り、ボロボロと崩れ落ちていく。


「な、なんだ……その剣は!」


 グリンウェルが驚くのも、無理はなかった。

 中から現れた新たな刀身は、まるで生きたヴァンパイアのような妖気を帯び、その大きさは此処に居る……いや、全てのヴァンパイアを凌駕りょうがしていた。


「これが、この剣の本来の姿だ」


 鷹也が、この剣をアルベルトの研究所で発見した時、溢れんばかりの妖気を噴出していた。

 このまま使えば、ヴァンパイアにも、軍のレーダーにも引っ掛かってしまうと考え、銀でコーティングすることによって、その妖気を封じたのである。

 その余りにも巨大な妖気で、ウォレフは過去に闘った相手だと気付く。

 

「あ、あの時の……メイヲールの角か!」

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