第7話「鷹也」

 短剣ほどに伸びた爪、噴き出している妖気の大きさが、ウォレフを一回り大きく見せた。


「覚悟は、出来たか?」


 その問いに、エクリプスは攻撃する事で答える。


 大きく振られた剣を左爪で弾き返した後、残った右爪で、下からすくい上げた。

 エクリプスは、反射的に後ろへ飛んだものの、僅かだがローブを切り裂かれた。


 続けてウォレフは止まることなく、両手の爪をまるで槍のように突いたり、鞭のようにしならせてみせた。

 爪ばかりに注意が行っていたエクリプスは、ウォレフの蹴りで薙払われ、地面に倒される。

 そこへ容赦なく、豪雨のような爪の攻撃が、激しく降り注いだ。

 エクリプスは、ゴロゴロと地面を転がりながらも、剣でウォレフの足を刈りに行く。

 飛ばれて避けられはしたが、再び間合いは開かれ、立ち上がることが出来た。


「カイルから、この国を守って来たのは、伊達ではないのでな。そろそろ、終わりにしようか?」



 不審な妖気が気になっていたグリンウェルは、陽が沈むのを待って、ラズウェルドの城へ出向いていた。


「やはり、殺されていたか……」


 ラズウェルドの亡骸なきがらは、左肩から股下に斬り裂かれており、恐怖のままに固まった顔が、如何に恐ろしかったかを想像させた。


「ん? まただ!」


 再び、現れた大きな妖気に、神経を集中させる。


「あの方向……ウォレフが、全開で飛ばしているだと!?」


 一体、何が居る!


 ぶつかり合う二つの大きな妖気を目指し、グリンウェルはラズウェルドの城を後にした。



 追い詰められたエクリプスは、妖気を限界まで上昇させる。


 まだ、完成しちゃいないが、試してみるか……


 覚悟を決めたエクリプスとは相反して、ウォレフは闘っている相手よりも、別の方角を気にしていた。


 こちらに、来るか?


 突然、ウォレフは咆哮ほうこうし、それと呼応するように、重量感ある音を出して正門が開かれる。


「鷹也! 中に入れ!」


「何故、俺の名を知っている!」


「説明は後だ! 急げ!」


 言われるがままに鷹也は、開かれた門へ飛び込んだ。

 入ったと同時に、再び、門は閉ざされた。


「思ったより、早かったな……」


 風を切り裂いて、一羽のコウモリが舞い降りた。


「久しぶりだなウォレフ、アルベルトの葬儀以来か?」


「何しに来た?」


「闘っていた相手は、誰だ?」


「カイルだ」


「笑わせるな、あの程度がカイルなものか! 忘れたのか? 私もカイルの力を知っている一人だと言うことを!」


「そうだったな」


「質問を変えよう、国の中へ入れたのか?」


 アルベルトが人間との和平を持ち出す際に、少しでも信頼を得ようと、人間へ妖気を計測できるレーダーを渡していた。

 だが、そのレーダーを見る事によって、留守中に人間からの侵略が懸念された為、アルベルトは、国を持つヴァンパイア王たちにも、妖気を遮断する装置を渡していたのである。

 だが中には、ラズウェルドのように、力を誇示することに喜びを感じ、あえて装置を設置しない者も少なくはなかった。

 他の国々では、城を覆うのがやっとだったが、イマジニアでは国全体を覆うほどの装置が存在していたのである。


「そうであろうとなかろうと、貴様の質問に答える義理はなかった筈だが? それとも、力尽ちからずくで聞くか?」


「相変わらず、嘘が下手だな。カイルと言っておきながら、隠す必要があるのか? まぁ、いいだろう、見当は付いている」


 グリンウェルは、再び翼を広げ自分の治める国へと飛び去っていた。


「おそらく、あの時の……カイルを狩ったヴァンパイアに間違いないだろう。ウォレフにガーランド、それにエクリプスも居たな……面倒なことになった」

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