第145話 ファントム・マインドDLCをプレイしよう(2)
柔らかい表情をした巨大な石像。
その見た目から通常状態の屍はエビス様と呼ばれている。
そのご利益のありそうなフェイスに騙された幻影狩りたちは多く、まだこの幻島を始めたての右も左もわからない赤ちゃんたちは、だいたいがこの道祖の屍に駆け寄っていってぺちゃん。とされる。
「うおおおお!ぺちぺちぺち!ぺちぺちぺちぺち!」
杖でぺちぺちするまほろちゃん。
初めてだというのに、ローリング回避も上手くてさすがのまほろちゃんだ。
「上手いです!まほろさん!」
「ふふん!初見だけどそれっぽい動きはなんとなくわかるよ!」
エビス様の巨大な腕を振り回す攻撃に、タイミング良く盾を構えてパリィをするツユキちゃんと、おりゃおりゃショットガンで攻撃するメア博士。
私も援護射撃をする。
バンッ。と重厚な射撃音が響く。
リボルバーは筋力がないと撃つたびに大量のスタミナを削られる武器だ。
一撃で半分以上のスタミナを削られるから、正直かなりキツイけど、みんながいるから大丈夫だ。
私にヘイトが向くとすかさずにメア博士とまほろちゃんが近距離で攻撃して、ヘイトを集めてくれる。
やりやすい……!
「ま、マルチ楽しすぎる……!い、いいんですかこんな……」
「ツユキちゃんがマルチの楽しさに目覚めてしまったチュン……!ファンマイユーザーは孤独じゃないといけないのに……!」
「雀くんの思想が強い」
『ソロで鍛錬してきた雀だ。面構えが違う』
『ファンマイはソロじゃないと見れないイベントが多々あるのでね……』
『どうせ露木ちゃんは次の日にはソロでファンマイやって発狂してるから安心して』
そしてそろそろエビス様のHPが5割を切る。
「皆さん!HPが半分になります!注意してください!」
「第二形態ってやつだ!」
「ちなみに何に注意すればいいんだい!」
「後光です!」
「後光チュン!」
HPが5割を切る。
エビス様がにこりと笑い、花開くように後光が差した。
後光がくるくると回転し、その光の束一つ一つが地面を抉りとる。
「これがディスコレーザー後光チュン!」
「出ましたね!パリピシュリンプ!」
『パリピシュリンプほんと好き』
『パリピシュリンプ#とは』
『後光が回転してディスコボールみたいになってるからパリピで、エビス様→エビ。合わせてパリピシュリンプ』
『エビの揉みどころきたな』
「ちょっ、ちょっとまってこれ避けるの無理かも!!!!!」
「大縄跳びと同じ要領チュン!なんか良い感じのタイミングで回避するチュン!」
「大縄跳び苦手だー!あー!死んだごめん!」
「ごめん!チュンはスタミナの関係で蘇生無理チュン!」
「メア博士お願いします!」
「わかった!」
まほろちゃんがダウン状態になる。
ソロだと即死で、経験値落としてレベルダウンだけどマルチだから一定時間が経過するまでは蘇生することができる。
といっても蘇生にはダウンした味方への攻撃をしなきゃで、5秒ほど時間を取られるしその間のヘイトが向きやすい。
後光を避けてリボルバーを撃つ、その動作でスタミナがなくなるから私に蘇生は難しい。
メア博士がまほろちゃんに近づいていくけど、その前に後光がメア博士の体力を削り取る。
人数が減って、ヘイト管理ができなくなり、ツユキちゃんと私でなんとかHPを削りきることに集中するけど、無常にも後光は私たちを貫いたのだった。
◆◆◆
赤く表示されたDEFEATに、息を吐く。
「うぅ~!悔しい~~~~~!」
「ひょろひょろリボルバーかなりキツいチュンね……探索して近距離武器探したいチュン」
「大楯慣れませんけど、みんなを守れてる感じがして嬉しいです。ただ攻撃力が無いに等しいので私も軽い拳銃とかほしいですね」
「ショットガン好きだけど私ももう少し機動力確保したいかも」
「となると探索ですね!」
「そうチュンね!」
このゲームは戦闘も楽しいけど、探索が楽しい作品でもある。
正直な話をすると目標はチャプター1のクリアだけど、まほろちゃんとメア博士には島を練り歩いて、初見での探索を楽しんでほしい。
あと新鮮な悲鳴をたくさん聞かせてほしい。
エビス様を避けて、4人で探索だ。
目当てはとりあえず武器とレベル上げ。
小型ファントムたちぐらいなら流石に余裕で倒していける。
湿地帯に入った辺りで、まほろちゃんが何かを見つけたように声を上げた。
「わー!何あのへんな生き物!」
「アメフクラガエルっぽいね。なんだか目が多いけど。名前は……無形の
「うおおおお!突撃だー!」
まほろちゃんが杖を持って、突撃していく。
無形の毒蛙。
またの名を、自販機くん。
「わ!こいつ溶ける!」
毒蛙がぺちょんと地面に溶けるように消える。
だけど消えてるわけじゃなくて本当に溶けていて、ぬかるんだ足元に蛙だったものが広がっていく。
そして体力ゲージの上につく毒のマーク。
「まほろさん!毒でHP削られるのでこの子相手に持久戦はダメです!攻撃の瞬間、水面が盛り上がるのでそこを狙ってください!」
「わかった!」
私もリボルバーを構える。
背後で、水が盛り上がる。
「こっちだね!」
まほろちゃんは直ぐに杖を振りかぶって、盛り上がった水を叩く。
それだけで毒蛙は倒れた。
「思ったより弱いね!」
「まほろちゃん、何かドロップしなかったチュンか?」
「ドロップ?えーっとあ、毒の粘液?飲むと毒状態になるって」
「おお!当たりですよ!」
「当たり?」
「はい!この子はドロップ品から自販機くんって呼ばれてるんです」
「イジメ?」
「イジメではないです」
毒蛙のドロップ品は三種ある。
一つ目は蛙の粘液。二つ目は毒の粘液。三つ目は毒蛙の胃液。
この三つのなかでもっとも狙われるのが毒の粘液だ。
この島にいる敵対的ではないファントムに、毒の粘液を好むのがいてその子にこの毒の粘液を渡すことで交易する。
一つあればあれが買えるはずだ。
ウキウキ気分のまほろちゃんが、ツユキちゃんの案内で歩いていく。
やがて見えてきたのは木のように大きい真っ白いキノコ。見た目はえのきに似ている。
「わっ!きのこだ~!」
無邪気にまほろちゃんが近づいていく。
だけど走る速度がどんどんと遅くなり、「え?」と声をもらした。
キノコの傘に見えていた部分はよく見れば白い帽子で、その下には綺麗でどこか不気味に見える女性の顔。
10メートルは余裕で超えそうな体躯の女性は、ゆっくりとしゃがみ、私たちに視線を向けてくれる。
___胞子の女王___
『我が女王』
『自分、デイリー奉納いけます!』
コメント欄がにわかに活気づく。
この胞子の女王は、ファンマイ界隈では大人気のキャラだ。
別の作品で大人気なキャラみたいにプレイヤーを強化してくれたりはしないが、こうやって会うたびに視線を低くしてくれたり、毒の粘液を与えると嬉しそうな笑い声が聞こえる。
昔、後ろで私のプレイを見ていた彼方が、好きだと大興奮していたのを思い出す。
何やら大興奮しているメア博士の姿も見えるけど、わりといつものことなのでスルーする。
「交易するんでいいんだよね?」
「はい」
「えっと、一つだから帝害の鈴を交換できるよ!」
「まほろさんには必要なものだと思うのでもらってください!」
「うん!」
まほろちゃんが鈴を交換して、装備をする。
帝害の鈴。
自分の攻撃すべてに毒属性を追加する鈴だ。
最強じゃない!?と最初は思うけど、この鈴、武器スロットを一つ使ってしまう。
それが致命的な欠点であんまり使われないけど、序盤において殴り魔をしているまほろちゃんにはきっと合うはずだ。
「よーし!これを持ってどんどん倒していくよ~!」
張り切ってるまほろちゃんと共に私たちは、次の目的地へ向かった。
◆◆◆
____ミュ。
小さく声をもらす。
時刻は深夜25時をまわっている。
開始時刻は21時だ。
開始して約4時間、私たちはまだチャプター1のボスにたどり着けないでいた。
「耐久のこの感じ、初配信以来なので懐かしいです」
「あとちょっと歯車がかみ合えば行けそうチュンけど」
「うぅ~!ごめん、僕がちょっと火力ぜんぜん出せてないかも!」
「いやいや、私もショットガン貰えたのにあんまり火力出せてないからまほろくんだけのせいってわけじゃないよ」
歯噛みする。
私がマルチでの立ち回りに慣れていないことを痛感したからだ。
スタミナ管理で脳のリソースを使ってしまって、あまりにも周りが見えていない。
装備欄のリボルバーを見る。
レベルも上がったけどそれでもスタミナ消費は激しい。
「雀さん」
「どうしたチュン?」
「テイム試してみませんか?」
「テイム?」
テイム。
動物系のファントムを手懐けて、テイムすることによって一緒に戦ってくれる。
だけど成功率が低いし、失敗したら死が確定する。
「テイムは成功率が低いですけど雀さんの性格補正とまほろさんの運があればなんとかなると思うんです」
「運!?それなら宝くじ10連ガチャで毎回300円当ててる僕に任せてよ!」
『それは当たり前なんよ』
『わんちゃんバラかもしれない』
良い案だ。
そしてツユキちゃんは勝つ方法を考えていてくれていたのに、私は自分の反省ばかりだったと猛省する。
マイクをミュートにして頬を軽く叩くと、気合を入れなおした。
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遅れました。
更新できなかった期間、近況ノートに閑話を2つほど置いています。
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