第68話 事件
「おつかれさまにゃ~~~」
配信を切り、スタジオを出ると猫神様と栗花落さんがお水を持って迎えてくれた。
「疲れた……」
「そうだね」
寧々は本当にしんどそうに椅子に座って背中を壁に預けている。
「演技するってこんなに疲れるんだ……」
お疲れ雀になっている寧々に、猫神様がとんでいく。
「雀ちゃん、最高にかわいかったにゃ!」
「そう?嬉しい」
寧々が小さく笑みを浮かべ、猫神様が心臓に手を当てて、私に視線を向けてきた。
「雀ちゃんかわいすぎるにゃ……」
「わかります」
後方分かり手面で、うんうんと頷く。
寧々はそんな私たちを呆れた目で見ながら、お水を飲んでいた。
◆◆◆
時刻は18時前。
猫神様たちと話が弾んで、ずいぶんとこのスタジオに長居をしてしまった。
「雀、そろそろ」
「……わ、もう18時だ」
「えぇ~?もう帰っちゃうの~!」
猫神様が寧々に頬ずりをして寧々はやや鬱陶しそうにしながらツイートンを見ている。
できれば私もこの特等席で後方親友面をしながら、二人の会話を聞いていたいが時間も時間だ。
タブレットを開いてMetubeの配信を見ている栗花落さんは、VG@プラスのVTuberさんの配信を聞きながら、コメント欄を時折タップしてタイムアウトにしている。
これも仕事の一環で最近はこれをしていないと落ち着かないらしい。
体調だけは崩さないでほしいな。
にしても18時か……
普通なら外食になるんだけど、家の長月さんがうるさそうだし冷蔵庫にはそろそろ消費しないとまずそうなものがちらほらとある。
なんか家に帰って全てがめんどくさくなって、デリバリー頼む私を想像できる気がするが、確固たる意志で欲望を跳ねのけていきたい。
だが一応、デリバリーピザのメニュー表を確認しとこうとスマホを見ると、すやすやモードで通知を休んでいたスマホから一件のメッセージが送られてきた。
差出人は長月さん。
その文章は、酷く簡潔で、それでいて不穏なものだ。
『今日、帰ってくんな』
寧々に近づき、肩を叩く。
「どうしたの?」
「これ見て」
寧々がスマホを覗き込み、首を傾げる。
いくら長月さんでも理由なしにこういうことを言うタイプじゃないし、私たちに気を利かせてってのは絶対に、100%、天地がひっくり返ってもない。
「すみません。ちょっと電話かけてきます」
「了解です」
栗花落さんの返答を待たずに、離れた位置で電話を掛ける。
長月さんはワンコールで出てくれた。
「もしもし、長月さんですか?」
「彼方か。ちょっとまずいことになった」
「何があったんですか?」
「ちょっと面倒なのがいる。話をつけとくからお前らは今日は帰ってこないほうがいい」
面倒なの、そう言葉で過るのはゴシップ記者だ。
長月さんがいると特定されたのか?
「記者とかですか?」
「違う。お前も知っているやつだ」
「えっと、誰ですか?」
「……言ってもわかんねえよ。また連絡するから待ってろ」
「いや、ちょっ……」
通話が切られる。
なんなんだいったい……
寧々のもとに戻ると心配そうに走ってきた。
「どうだった?」
「わかんない。なんかめんどうなのがいるから帰ってくるなって」
「なにそれ?」
寧々がスマホを取り出してチャットを打つ。
『説明して』
既読がつく。
『
送られてきたのは覚えのない名前。
二人で顔を見合わせて、首を振る。
『知らない』
『それが分からないんだったら大丈夫だ。彼方がいると余計拗れるからいったん話をつけるまで待ってろ。家には絶対上げないから気にしないでいい』
流川 文乃。
スマホを片手に検索をする。
だがヒットはしない。
私の知り合い……?
知り合いなら忘れるはずがない。
「……帰ったほうがいいかな?」
寧々に問いかけると、寧々は少し考えて首を振った。
「お姉ちゃんを信じてもいいと思う。こう、理由は言えないけどこういうときのお姉ちゃんは嘘はつかないから」
ちゃらんぽらんなダメ人間。
それが雪村 長月という女だ。
だけど、残念なことに彼女が真っすぐで、それでいて情に厚い人間だということは長い付き合いである私は知ってしまっている。
息を吐く。
しょうがない。よくわからないけど任せてみよう。
不安な気持ちを紛らわせるように、私は寧々の手を取った。
◆◆◆
それから少し経ち。
何故か私たちはレジャーホテルの一室にいた。
どうして?
______________________________________
どうして?(宇宙猫神様顔)
次話、長月さん大活躍回?
更新早め。
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