私は。

____でも、それってさ、私のため?それとも自分のため?


ここ数日、沙雪ちゃんの問いが頭の中で巡っている。

なぞなぞじゃないことぐらいは私でも分かる。


どういうことか、と問いかけても紗雪ちゃんは既読すら付けてくれない。


私は紗雪ちゃんのためにやってあげてる・・・・のに。


スマホが充電器に繋がってないのをぼーっと眺めながら枕を押し除け、ベッドに頬をつけて、眠気に身を任せる。


きっと明日になれば紗雪ちゃんだって既読をつけてくれる。そして答えを教えてくれる。


そんな分かりきったありもしないことを明日に託して眠りに落ちた。


______________________________________



『¥500 猫神様、なんか疲れてる?』


「えっ!?そんなことないにゃよ?」


いつもの配信。だけどコメントはいつもと違う。私を心配するものばかりで、否定するものの、リスナーさんからしたらいつもとは違うように見えるらしい。


いつもは雑談でも2時間はやるけど今日は1時間と少しで切り上げてしまった。


パソコンの前から離れ、奮発して買ったベッドに倒れこむ。


スマホでエゴサすると、みんな私を心配してくれるようなツイートばかりだ。

そんなツイートに口もとを緩めたのも束の間、直ぐにため息が漏れる。


「自分のためってなにさ……」


行き場のない気持ちに唸りながら、どうしようかと考える。


時刻は23時。寝るには早すぎる時間だ。

まだ起きてるかな?


私は部屋の扉を開けて隣にある木と磨りガラスの扉から光を漏れ出ているのを確認する。


起きてた……

きっと今日も夜遅くまで勉強しているんだろう。

少しだけ申し訳ないような気持ちを抱きながらも隣の部屋をノックする。


「なに?」と小さく返事が返ってきて、私が「ちょっといい?」と言うと扉の鍵が開く音がする。


扉を開くといつも表情の変わらない、いつものがペンを片手に立っていた。


「勉強してるんだけど」

「ごめん」


優秀な妹は有名な女子高に主席として合格したらしい。

昔は色々あったが今は多少は仲良くなったと自負している。


「何かあったの?」

「……うん」

「はぁ。わかった。何があったの?」


ペンを離して、ベッドに腰掛ける妹。私も隣に座り、ぽつりぽつり、と話し始めた。



________なるほどね。


妹が頭を抱えている。そして盛大に息を吐いた。


「何かわかったの?」


「分かったっていうかなんというか、いや、普通の人だったらわかんないかもしれないけど……なんというかまあ……姉さん、ほんっっと性格悪いよね」


「喧嘩する?」


「なに?やってあげてた、とか結局それって相手のこと下に見てるだけじゃない?」


「そんなこと……」


「ないの?他者を下げて、自分を上げてくれる意見って気持ち良いもんね。少なくとも私はそんな意見に流されて、相手を下に見ているように感じたけど。だから相手は感じたんじゃないの?私を引き留めるのは、自分のためだって。辞めちゃったら気持ちよくなれないもんね。優秀な後輩がたくさんできたわけだし」


声が出ない。

否定もできない。


かちっ、とピースのはまっていくような音がする。

吐き出そうにも吐き出せないもやもやがやっとその形を変えて、私の前に現れてしまった。そのドロリとしたものに喉が痙攣し、頭がふらつく。


嫌悪感に吐きそうになる。

自分の醜いところをプロジェクターで映し出されたように、鮮明なそれが私という人間の醜さを表していた。


私は……紗雪ちゃんと対等だと思っていたし友だちとして対等に接しているつもりでいた。

もし、妹が言う通りで、紗雪ちゃんもそう感じていたら。

紗雪ちゃんにとって私は……


____嗚咽が漏れた。


「分かった?自己中心的で、傲慢。自分のことが大好きで、ナチュラルに他人を見下してる姉さん」


そんな私に嘲笑の入り混じった笑みを浮かべて、その小さな両手が私の顔を包む。


でも直ぐに笑みを消して、大きなため息をついた。


「意趣返しもあんまり気持ち良いもんじゃないね。しんどいだけだ。で、姉さんはどうしたいの?」


「あ、謝らないと……でも」


このことを私に気づけって、言った時点でそれはもう拒絶じゃないの。沙雪ちゃんは許さない気で、だから既読もつかなくて……


妹の手が頬から外され、目の前でパチン、と叩かれた。

ビックリして後ずさってしまう。

それを見て妹はけらけらと笑みを浮かべつつ、言葉を紡ぐ。


「私はさ、その人は姉さんのこと好きだと思うよ」


「なんでそんなことわかるの」

「嫌いな人は部屋にも入れさせないし、一緒に過ごしたくないってのは一般論じゃないの?同期だから仲良くしてるようには話を聞いている限りは思わなかったけど」

「でも……」


でも、と小さく呟いた私の目の前でまた妹の手が叩かれる。


「なにするの!」

「現実のねこだましは二回出しても無効化されないんだね。あのさ、姉さんは馬鹿なんだよ」

「本気で怒るよ?」

「馬鹿なら馬鹿なりに謝りたいなら謝るで、直情的に行ったほうがいいと思うけどね。後悔したくないなら特に。そもそもうじうじ悩んでも何か解決することってある?」


ない。あるわけない。

顔を上げた私に、「単純」と悪態をつきながら笑みを浮かべてくれる。


「ありがとう!私、行ってくる!」

「はあ!?もう0時まわるぞ!?」

「大丈夫!タクシー使うから!」


部屋に準備をするために戻ろうと、扉を開け、もう一度、と後ろを振り向いた。


「ありがと!よう


「……雫を受け止めるのは葉っぱの役目だからね」


妹は『葉』という名前が嫌いだと、小学生の時に言っていたらしい。

この名前しずくが好きで、VTuberになった時もそのままこの名前を付けてしまった私とは正反対だ。

だがその理由を聞いたら幼い頃の私は納得してしまった。


ノンデリな両親はお転婆な雫を受け止めることのできる妹に育ってほしいから葉とつけたらしい。


「……嫌いじゃなかったの?」

だから思わずそう聞いた私を、葉は鼻で笑う。


「今は結構好きだよ。だって葉っぱのほうがただの水滴より上位存在だろ?」


葉らしい返答に苦笑しながら「おやすみ」と部屋を出ていく。


部屋に戻り、携帯を手に取ると未だについていない既読を見ながら「今から行く」とメッセージを送った。


______________________________________

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

更新、遅くなって申し訳ありません。スランプでした。


次回更新は今週金曜日を予定しています。


『一緒にVTuberになった親友がVTuberを辞めた話』はあと数話で終わる予定です。

その話を経たうえでまた彼方寧々サイドで話を進めていく予定になっています。


葉ちゃんが書いてて楽しすぎるのでもっと出したい欲。

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