第28話 好きだから
寧々の母、清子さんが倒れた原因は寝不足や栄養不足が原因らしい。
病院から帰ってきた寧々は、淡々と感情のない声でそう報告してくれた。
そうなった原因は、絶縁状だ。
絶縁状が届き、酷く取り乱した清子さんは長女の長月さんや長男の
やがて救急車で運ばれるような結果になったらしい。
「それでどうするの?」
「明日、家族会議。義父とお父さんもくるって」
「そっか」
清子さんは再婚している。実夫は眼鏡をかけた温和な人で、義父のほうも同じようなタイプだ。悪い意味で両方とも清子さんのイエスマンである。
「行っても寧々が嫌な思いをするだけだと思うんだけど」
「ん。でも……」
というかなんで絶縁状まで書いたのに寧々が会いたくもない相手に会わなきゃいけないんだ。
「明日って長月さんたちは?」
「仕事でこれないって」
「はぁ?」
低い声がもれ、びくり、と寧々の肩が跳ねる。
「それってもしかして冬生さんも?」
寧々がこくりと頷いた。
……じゃあ狙ったのだろう。寧々の味方がいない日を。
どちらも多忙な人たちだ、適当に決めうっても両方揃うのは難しい。
そもそも平日だ。私も仕事がある。
どうしようもなく腹が立った。怒髪天で地球外生命体と交流をはかれるぐらいには腹が立った。
私は携帯を手に、メールを送る。宛先は私の上司。
勤勉な人だが、それ以上に優しい人だ。
『明日、有給休暇をいただいてもよろしいでしょうか』
直ぐに返信が届く。
『了解です』
淡々とした文章に『ありがとうございます』と返信し、寧々を見る。
目を伏せる寧々に私は思いっきりの明るい声で問いかけた。
「明日、遊びにいかない?」
「えっ?」
「これは私のわがままだし別に拒否してもいいよ。だけど拒否されても絶対に寧々を行かせないし会わせない。両手を縛ってでも私の傍に居させる」
「で、でも仕事は……」
「休んだ」
「休んだって……」
私は寧々が好きだ。友だちとしてもそれ以上でも。
だから好きな人が嫌な目にあうのを放ってはおけないし、むかつく。
はらわたが煮えくり返り、もつ煮になってしまうぐらいむかついているんだ。
今まで散々、寧々を泣かせておいてこれ以上。寧々を苦しめるなんて許せるはずがない。
「でも」
「でもじゃない、私は寧々を行かせないし離さない」
確固たる意志をもって告げると少しだけ表情が和らいだ。
だけどそれもつかの間、寧々の携帯が震える。
表示されているのは『母』の文字。
その文字に寧々の顔が青くなり、身体が小刻みに震える。
「着信拒否は?」
「……解除された」
「そう。出ていい?」
驚いた顔で寧々は私を見る。ワンコールの間に寧々は目尻に涙を溜めながらもしっかりと頷いてくれた。
『あんた、明日絶対来なさいよ』
怒りのこもった声が聞こえる。
「明日です」
『えっ、か、彼方ちゃん!?あらやだ。ごめんなさいね。そこに寧々居ない?』
「いません」
『……嘘よね?』
「そうかもしれませんね」
『……私ね、思うのよ。仲良いことは結構だけど彼方ちゃんも女の子なんだから早く良い人見つけて幸せを掴むべきだと思うの。親を捨てるような
「あなたは、自分に問題があるとは思わないんですね……まあ、いいです。寧々は明日行きませんし、私が行かせません」
『あのね、彼方ちゃん。これは家庭の問題なの。だからあなたが関わるべきことじゃないの』
「私の両親が亡くなったときに積極的にマスコミのインタビューに答えてたあなたがよくそんなことを言えましたね」
『ッ!それとこれとは話が違うでしょ!あの子はッ!私がお腹を痛めて産んだ子なの!だからッ」
「だから私に所有権があると?」
『そういうわけじゃ……』
「寧々にいつも苦痛を強いていたのはあなたです。そんな寧々が大人になってあなたから離れようと思うのは自然だと思います。それを無理やり撤回させたとしても何も進まないし何も生まれません。私からは以上です。これ以上、何もないのであれば切ります」
『……ねえ、彼方ちゃんはあの子の何なの?ずっとあの子と一緒にいて今まで迷惑かけられてきたでしょ?なんでそんなに庇うの?長月も冬生も、優秀なのになんであんな子を』
唇が噛み切れる。血の味が口に広がり、今すぐ怒鳴り声をあげてしまいそうな激情を手を強く握って抑える。
「友だちですよ。寧々は得意なことがたくさんあります。私はそれを知ってるし、長月さんも冬生さんもそれを知ってる。だけどあなたは知らない。それだけでしょ」
『……なんで、なんで親の私が知らなくて血も繋がってないあなたが』
「好きだからです。もう切ります」
通話を切る。ため息をついて手の力を緩める。
何度も声を荒げそうになったが我慢した私、偉い!
寧々に携帯を返そうと、そちらを向くと涙を流しながら、だけど決心したように私を見ていた。
「寧々……?」
「ありがとう」
「えと、うん。その、今まで私も鬱憤溜まってたからさ」
なんでか寧々の顔を直視できなくて視線を逸らす私の頬に寧々の小さい手が触れる。
「寧々……?」
「彼方……ごめんね、もう我慢できないや」
目が合った寧々は酷く悲しそうで、口もとが震えている。
どうしたの、と声を出す前に私の唇は塞がれた。
____誰でもない寧々の唇によって。
「……えっ」
「好きだよ。彼方」
それは長年ため込んでいたものが
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