第27話 彼女たちの日常。非日常の訪れ。

__________同窓会しない?


リビングでご飯を食べ終わり、暫しのぼーっとタイムを過ごしていると三年振りに『3年C組』と書かれたグループに通知が届く。

高校三年の時のクラスで寧々以外は皆入ってるグループだ。寧々は卒業式の日にしれっと抜けていた。

……まあなんというか日向の力が強めのクラスで寧々が苦手なタイプが勢揃いしていたから仕方がないのかもしれない。


にしても同窓会……同窓会ねぇ……

キーボード入力で文字を打って、すぐに消す。さてなんて返信したものか。


「どしたの?そんな断り文句を考えているみたいな顔して」

「エスパー?」

「携帯見ながら文字を打とうとして消してたからカマかけてみただけ……誰?友だち……じゃないよね?」


何故か不安そうに見上げてくる寧々に、「違う違う」と首を振る。


携帯の画面を見せると、んー、と目を細めて納得したような声を出した。


「なるほど……行かないの?」

「や、絶対飲ませてくるし」

「ああ」


私は酒があんまり得意じゃない。甘いお酒は好きだし下戸というわけではないけど直ぐに酔っ払ってしまう。だから会社の飲み会ではあんまり酒の飲めない人のゾーンに身をおいてそこそこ楽しんでいるんだけど、同窓会だと話が別だ。


かつての友人や思い出話がついついお酒を進めてしまうかもしれない。

そうなった後のことは想像したくない。寧々が一緒に来てくれると一番手っ取り早いんだけど寧々はこないだろう。


「寧々はどう思う?」

「何が?」

「いや、行くべきかどうか」

「一般論で言うと行くことで新たな繋がりが生まれたり、話を聞いて得るものがあるかもしれない」

「寧々的には?」

「……個人的には酔っ払った彼方は無防備だから行ってほしくない」


「そっか」


わいわい、と楽しそうに話してるグループを非表示設定にする。

そのうち予定だけ確認して断っとけばいいだろう。


「よかったの?」

「寧々を不安にさせてまで行く理由なんてないよ」

「……彼方はほんとアレだね。もうちょっと色々抑えたほうがいいと思う」

「……?」

「その反応にはもう何も言わないよ」


呆れ顔で苦笑いを浮かべる寧々が私の隣に腰掛ける。ソファが軽く沈み、暫しの間、沈黙が部屋を支配した。


口をパクパクとさせて寧々が何かを言いたげに上目遣いで私を見る。

さっきちょっとだけ飲んでたからか少し顔が赤い。


こういう時にどうしたの?って聞くのは野暮のように感じる。

だって聞いてしまえば、相手は必ず言わなければならないから。


だから私は待って、ただ寧々の顔を横目にテレビの画面を見る。

やがて決心したように口を開き、そしてけたたましい音が鳴り響いた。


寧々のふわふわパジャマのポケットに入った携帯の着信音だ。何も設定していないデフォルトのままの着信音に寧々の肩が跳ねる。


「電話……」


取り出した携帯の画面に映っていたのは『お姉ちゃん』の文字。


……なんだ長月さんか。


「もしもし?……うん。大丈夫だけどなに?」「……えっ?」


他人の電話を聞くつもりもないし、少し離れて携帯を見ていると寧々の驚く声が聞こえて、そちらを向く。


寧々は携帯を少し離して、私の方を向き、震えた声が呟いた。


「お母さんが倒れたって……どうしよう……!」


先の件で、もうこれ以上、家族の件で寧々は苦しまないと思っていた。だけど現実ってものはそうもいかないようで。


様々な感情が入り乱れ、目尻に涙を浮かべる寧々に私は口を噤むことしかできなかった。


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