第25話 ファントム・マインドをプレイしよう!
ファントム・マインドは1900年代、特殊な銃弾を駆使して『ファントム』と呼ばれる人型の怪物を倒す『幻影狩り』という者たちの荷物持ちである奴隷を主人公としたものだ。
主人公は若い幻影狩りを連れられて、最近見つかったジャングルの奥深くにある巨大な遺跡に足を踏み入れた。だがトラップが作動して皆がバラバラになってしまう。
主人公の目的は脱出し、自由の身になること。幻影狩りの荷物持ちとして持たされていた武器を使い、敵を倒していく。
また
『えと、扉があって進めないですけどこれってどうすればいいんですか?』
『ヒントが表示されてないチュンか?』
行く手を阻む巨大な扉。チャプター1の最終目的地がこの扉の奥だ。
そしてゲームの序盤はだいたいがチュートリアルのようなものである。
それはこのゲームにも言えることで、序盤というのは進めるためのヒントが逐一表示される。
『謎を解く』
そう、このように……
『ヒント……?』
「だいぶアバウトなのは慣れるしかないチュン」
『草』
『ヒント#とは』
『製作者はヒント知らないから……』
「ちなみにチュンけど、この手の謎解きは答えを教えることはしないチュンよ。まずは詰まるまで探索してみて、詰まったらヒントを出すチュン」
『わ、わかりました!』
これは持論だけど、答えを見つける喜びや達成感はその後のモチベに繋がると思う。
答えを教えてもらって、はいクリアというのは楽で簡単で、近道ではあるけどそのあとには何も繋がらない。
自分で見つけ出したという成功体験は確実にモチベーションをあげてくれる。
私の行動は、おせっかいには違いないけど、それが彼女がこのゲームを楽しむにおいて不必要おせっかいにはなってはいけない。
それだけは守らなければ、冗談抜きで炎上してしまう。
『えと、これですかね……?十字が彫られてて真ん中と十字の先に何かいれるところと絵があります。あと動物のパネルが五個……鳥と龍と虎と亀と
『イージーじゃん』
『四神で東西南北か』
『えと、東が青くて青龍で、西が白くて白虎、南が熱くて朱雀で、北が寒くて玄武!で、真ん中に変なのですね!』
「ツユキちゃん、テキスト読むのも忘れないでね」
「えっ、あっ」
これは四神で間違いない。なんで、中国の遺跡でもないのに四神が謎解きであるんだとかは聞いちゃいけないやつである。
だが、四神で間違いはないけど方角ではない、きっと大半のユーザーがwikiを参照して答えを探しただろう。
『五つの元素は影響を与え合う……ですか』
「そう、ちなみにチュンはわかんなすぎてwikiを使ったチュン」
『えと四神は中国の伝説でしたよね。じゃあ五行思想でしょうか?』
「えっ」
『ならこの絵の意味がわかります。たくさんの花が咲いているこの絵は春でしょうか。春は確か木で、青の青龍だったはずなのでここに青龍が入るはずです』
ぽんぽんぽん、と当てはめていくツユキちゃん。
唖然としているのは私だけではなく、コメント欄もだった。
『すごっ』
『もしかしてかしこV?』
『カラカサ:これ、うちの子なの。すごくない!?!?!?』
『あっ、ママいらっしゃい』
ツユキシズちゃんの生みの親であるイラストレーターさんがコメント欄に現れたことで一気にコメントが盛り上がる。
カラカサさん、私でも知ってる有名な人だ。
なるほど。深夜に観た初配信で、あんなに人を集めてたのは耐久企画だけではなく、このママの力もあるのだろう。
『開きました!』
「うん!ナイス!ツユキちゃんすごいチュンね!」
『えへへへ』
『褒められて嬉しげなツユキちゃんかわよすぎる』
『可愛さ領域展開してる』
『この可愛さにスパチャ送れないのバグでは????』
私のおかげとまでは言わないけど、だいぶコメント欄の治安もよくなってきたように感じる。いつの間にか低評価も少しだけ減っていて、高評価が上回っている。
「じゃあ、これからチャプター1最初のボスファントムと戦うことになるチュン。回復と弾薬は大丈夫チュン?といっても補充できる場所なんてないチュンけど」
『大丈夫です!行きましょう!』
腕をあげるモーションをして、元気よく扉へ向かうツユキちゃん。
さて最初のボス戦だ。コントローラーにしてから目に見えて動きはよくなったし、あんまり死なずに突破できるだろう。
扉を開けると、イベントムービーが流れる。
主人公が扉を開け、奥に囚われた幻影狩りの主人がいる。
主人公は、自らの主人である幻影狩りを殺そうと、向かおうとするが、巨大な影が自らを覆っているのに気づき、咄嗟に右へ避ける。
BGMの重低音と共に地響きを鳴らし、砂煙の中から現れるのは醜悪な怪物。
巨大な人の身体に顔を覆いつくすほどの呪詛のような刺青の入った顔、そして自らの身体以上に肥大化し脈打つ右腕。
チャプター1のボス『悪しき従者 ディーヴ』が大地を揺らす叫び声をあげた。
頭上に表示されるHPバー。これを削りきることが勝利条件である。
『どどどど、どうすれば!?』
「落ち着いて、こいつは大振りだから避けるのは簡単チュン。問題はこの後チュンから」
『出たわね』
『SAN値直葬筋肉』
『周りが面倒すぎる』
ディーヴの大振りの攻撃をいっせーのーせで前転で避ける。
「ツユキちゃん!ショットガンを上に向けといてほしいチュン!今のでビックリした子が落ちてくるチュンから!」
『えっ、えっ、と、とりあえず向けときます』
「簡単に説明すると今の衝撃で壁に張り付いてるノンアクティブのヒトガタたちが一斉に襲ってくるチュン!」
通称、ヒトガタ。見た目は完全に全裸の人間、いつも壁に張り付き、ゆっくりと移動しているだけの気持ち悪いけど無害な生物だが、それはただノンアクティブな幻影というだけであり、危害を加えると集団となって襲ってくる。
床や壁に張り付き、突進してくるのが主な攻撃だ。歩きの速度と同じ程度の速さだから脅威は薄い。
また硬直した屍肉を餌としているため、爪や口も発達しており、それで攻撃されると裂傷状態になり、一定時間HPが減少する。
「最初は必ず一匹がプレイヤーの頭の上に落ちてくるからそれをショットガンで倒してほしいチュン」
「わかりました!他に指示はありますか?」
「突進を受けたら、吹き飛ばしとスタンがあるけど今の体力だとどうせ一撃だから気にしないでいいチュン。あとディーヴにも攻撃してくれるからスタンしたらダメージ判定のある腕だけを攻撃するチュン!」
「とりあえず避けて腕に攻撃すればいいんですね!」
「そうチュン」
「了解です!」
『先輩雀』
『この先輩後輩感良すぎるな』
『しずちゃん、雀ちゃんがきて目に見えて生き生きしだしてぼかぁ嬉しいよ』
まあ、でもここからは作業だ。
攻撃を避けつつ、ヒトガタたちに頑張ってもらう。
「やばそうだったらチュンの周りにくるチュン!」
『わ、わかりました!』
弾薬に少しだけ余裕があったとしてもヒトガタたちに使うのはもったいない。
襲い掛かってくるヒトガタをナイフで切りつけてダウンしている間に、少し下がりというのを繰り返し、時間を稼ぐ。
その間にもヒトガタはディーヴを攻撃してくれているし、ディーヴの攻撃も大振りなため、避けることは難しくない。
『あっ、今スタンしてます!』
「おっけーチュン!」
スタミナを使うが、走ってヒトガタを振り切り、追いついてくるその間で腕に攻撃する。ツユキちゃんもまた私と同じように攻撃を行っている。
「飲み込み早いチュンね!」
『完全に動きマネしてるだけです!』
「十分すごいチュン!」
『成長しちゃって』
『激アツ』
同じように攻撃を繰り返すこと十数回。最初、緑色だったディーヴの体力バーは残り10%まで減り、赤く点滅しだす。
『勝てそうですね!』
「一級フラグ建築士チュンね!」
もちろん、このままで終わりじゃない。
「最後の足掻きがくるチュンよ!」
ディーヴはうなり声をあげる。
するとすべてのヒトガタたちがディーヴに向かって襲い掛かった。
巨大な人間に、ヒトガタが群がる姿は流石に凄惨たる光景でツユキちゃんが『うわぁ』と声を漏らした。
やがて中から現れたのは、ところどころ骨が見えているディーヴの姿。
10%あったHPが残り5%まで減っている。
さらに裂傷状態も付与されているため、徐々にHPも減っている。
『これ、放置すれば勝ちですか?』
「攻撃避け続ければ勝ちチュン。流石にこれでやられるわけにはいかないチュンからチュンの合図で右に転がりながら避けるチュン」
『えと、はい!』
ボス戦で鳴り響いているBGMのドラムのソロが合図だ。
「今チュン!」
『ぴえっ!?』
比べ物にならない破壊音が響く。それは高速で移動したディーヴが大地に拳を叩きつけた音だ。
最悪の初見殺しベスト10に入るだろう。自らの肉体を食わせてからのスピードアップ。初見時はその凄惨さに驚いているから余計に避けることは難しい。
因みに私も即死してまた最初から同じ行動を繰り返した民だ。
「溜めに時間が掛かるからあと五回避ければ勝ちチュン!最初以外は拳を振り上げるのが合図になるチュン!溜めの間でヒトガタと同じ場所にいって、拳を振り上げたら直ぐに避けるチュン!狙った場所のすぐ近くの獲物に攻撃するチュンから!」
『ヒトガタが犠牲になるってことですね!』
「そうチュン!」
『わかりました!』
ツユキちゃんと別れて、ヒトガタの近くに行く。
拳を振り上げたのを確認して、直ぐに避ける。
だけどこっちにはこなかったみたいだ。
視点を移動させると、無事にヒトガタがひしゃげ、ツユキちゃんが起き上がるのが見えた。
避けれたなら大丈夫だろう。
やがてHPが尽きたディーヴはゆっくりと黒い塵になって消えていった。
そしてイベントムービーが始まる。
『助けにきてくれたのか!』
黒い牢に囚われた幻影狩りの男が主人公に話しかける。
だけど主人公は何も答えず、拳銃を向けた。
___鳴り響く銃声。
これでチャプター1が終わりである。
「とりあえず1、終わった~!」
『ありがとうございます!』
『888888888』
『雀ちゃんまじ心強すぎる』
『……まじで残りのチャプターもやるんですか?』
『もちろんです!1がこんなに長くて難しかったんですから、あと2つぐらいですよね?』
「チャプターっていくつだっけ?DLC含めて18なのは覚えてるチュンけど」
『……え?』
『13だったはず』
『無謀にやっと気づいた説?』
『死なない程度で無理して』
正直、全部やろうとしたら死ぬ。まあ、やれって言われたら2徹ぐらいは全然するかもだけど……
『あの、私やばいやつでした……?』
「うん」
『ひえぇ……あの後日謝罪配信するんで、チャプタークリアするまで寝ない枠に変更してパート分けしちゃ……だめ、ですか?』
『草』
『おもろかったから許す』
『わりと心配だったからそのほうが嬉しいかも』
「チュンも事前に誘ってくれたら全然付き合うチュンよ」
『ぴえぇ、すみません!あの、本当にありがとうございます!』
「いえいえ、ファンマイを愛すもの同士、これから仲良くしてほしいチュン!」
『こちらこそです!えと、本当にすみません。今日の配信はここまでにします。絶対にクリアまではするのでお付き合いください!』
『おけ!』
『面白かった!乙!』
『チャンネル登録しました!』
ツユキちゃんの配信が閉じられる。
『あの、雀さん今日は本当にありがとうございました!あのままだとどうなってたか……』
「大丈夫チュンよ!でもゲームする前にちょっとぐらい事前情報入れといても罰は当たらないと思うチュン!」
『はい……!心に銘じておきます!あの……もしよければまたお付き合いしていただけないでしょうか……!』
「全然大丈夫チュン!ファンマイは大好きなゲームだから一緒にやれる友だちができて嬉しいチュン!」
『友だち……はい!』
「じゃあ、チュンは朝ごはん食べるチュンからバイバイチュン!」
『私は寝ます!』
「ふふっ、おやすみチュン」
通話を切る。
お茶を飲み、ほっと息をつく。
……やばい。人とやるファンマイめっちゃ楽しかった。
なんなら最後まで頑張ればできたかもしれない。
次はいつだろう。わくわくを胸にいつの間にかフォローしてくれてたツユキちゃんにフォローを返した。
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