第26話 くえすちょんを読もう

日曜恒例の定例会議。今回はくえすちょんを読む枠だ。

というのも、くえすちょんを読むのをサボりすぎていて未読のくえすちょんが溜まりに溜まりまくっている。


流石にこれ以上、放置はマズいと一時間ぐらい掛けて整理し、今回の定例会議は雀とくえすちょんを読む枠を取ることにした。


『はじまったチュン!』

ソファに座り、ガラステーブルにノートパソコンを二台置いて配信を始める。


『きちゃあ!』

『この日のために生きてる』

『これ見ながら夜ご飯食べます』


「今日はタイトル通り、くえすちょんを読んでいくチュン!読み上げは二人で交互にやっていくから読まれたいほうに読まれなくてもすねないでほしいチュン!……っと飼い主さん準備できてるチュン?」

「おけ!溜まってるからどんどん行くよ!まずはこれ!」


『飼い主さんはFPSやらないんですか?』


「君たちは下手くそに何を求めているんだい?」

「飼い主さんは練習すれば上手くなるチュン!ただ忙しいから練習できる環境にないチュンね。仕事辞めるチュン」

「……まぁ辞めても生活できるんだけどねぇ」


両親の遺産はまだ0の数が間違っているんじゃないかというぐらいはある。

だけどきっと両親は私に遺産にかまけて働かずに一生を過ごすことなんて望んでいないだろう。手に職をつけなさいは母から口酸っぱく言われてたことだった。

だから自分の技術で、会社に貢献できる今の環境は意外と気に入ってる。それこそ忙しくても辞めようという感情がわかないぐらいには。


『飼い主さんお金持ち?』

『それは命削りすぎではw』

『でもVに専念するために辞職したVは結構いる事実』


「Vをするために辞める判断ができる人はだいたいが数字持ってる人チュンからそれを引き換えに専念できるならするのも全然ありだと思うチュンね」

「まあ、メリットデメリット両方あることだから取捨選択が大事になってくるよね」


「そうチュンね。次行くチュン!


『雀ちゃんと飼い主さんの愛してるゲームが見たいです』だそうチュンよ」


「敢えて調べなかったんだけど、愛してるゲームって何?」

「飼い主さんは日向の文化には疎いチュンね。チュンが説明するチュン!愛してるゲームとは、片方がもう一方に「愛してる」と言って照れたほうが負けのゲームチュン!愛してるのバリエーションは自由自在だから好きなように照れさせるチュン!」


ああ、照れさせたほうが勝ちなゲームか。横目でコメントを見ると、異常にコメントが流れている。


『うおおおおおお!!!』

『有能リスナーに感謝』

『可愛い空間見れると聞いて』

『雀ちゃんの敗北に100ペリカン賭けよう』


「まあ、私は負けないけどね」

「ほざくチュン!飼い主さんを照れさせるなんて朝飯前チュン!」

「言うねぇ、どうする?勝ったほうに賞品として何か奢る?」

「あり!久々にピザが食べたいチュン!」

「了解」


『明日の夜ごはん決まりましたね』

『生活感いいぞ~』

『そういうのもっとちょうだい』


「じゃ、飼い主さんのお金でピザ食べるためにさっそくやるチュン!」

「先攻後攻決めようか」


何年ぶりかも分からないじゃんけんをする。


私はパーで、寧々はグーを出した。


「よし。勝ったから私からやるね」

「どんとこいチュン!」


……ちょっと待って。

『あ』の形に口を開くと同時に、急激に顔が熱くなるのを感じる。

隣で首を傾げる寧々の顔をまともに見れない。


少しフリーズして、やっととれた行動はできるだけ顔を見られないように耳元に口を近づけることだけ。


「……愛してるよ」

「はぅわ」


私と同じぐらい、いやそれ以上に耳を赤くして寧々がパタパタと両手を動かす。

若干、目尻に涙を浮かべながら、すすすと私から距離をとっていった。


「レ、レギュレーション違反ッ!ズル!チーター!」

「えぇ……」


『なになになに?』

『どうしたwどうしたw』

『雀ちゃんが負けたことしかわかんなかった』


「飼い主さん、耳元でボソッと言ったチュン!そんなのズルチュン!」


『即堕ちすーずめ』

『草』

『まあ最初から勝ち目なんてなかったから……』


「何をー!飼い主さん言ってやるチュン!」

「確かに雀って昔から直ぐ照れるイメージはあるかも」


私以外にはそうでもないけど、私相手だと直ぐに顔を真っ赤にして照れるところがある。

まるで好きな人を相手にしているみたいに。


はは、妄想乙というやつだ。


「うぅ〜、つ、次行くチュン!ピザは明日頼んでおくチュン!」

「証拠は明日、ツイートンにあげるね。じゃあ次読み上げるよ〜


『飼い主さんはツイートンしないんですか?』という質問だね」


「飼い主でアカウント作っても結局することは雀の宣伝やRTだろうし作る意味をあまり感じないかも」


『日常ツイートでも全然いいのよ?』


「や。Vオタクだからその手のアカウントは三年前に作ってるというかなんというか……流石にその垢での交流もあるから難しいかな」


『それはそう』

『確蟹』


「それは難しいチュンね」

「まあ、需要があるようだったら時々後ろに『飼い主』ってつけて雀のツイートンで何か呟くよ」


『助かります』


「じゃあ次行くチュンよ」


『雀ちゃんは絵が上手いですがどこかに投稿してたこととかあるんですか?』


「率直に言って全くないチュン」

「というよりV始める前、SNS触ったこともなかったからね」

「うん。絵は独学で好きなゲームのキャラを描いてたら勝手に上手くなったチュン」


『見てて思うけど雀ちゃんわりと努力型の天才っぽいよね』


「確かに努力家だよね。私は努力苦手なタイプだから尊敬する」

「飼い主さんは面倒って思ったらすぐに距離取るチュンからね……大学のサークルも人間関係面倒って直ぐに抜けてた気がするチュン」

「あれは……まあ本当にめんどうだったから……」


私が入ったのは合気道部だったけど色々人間関係が面倒で辞めてからは寧々と一緒にカフェ巡りしたりバイトしたりと大学生活を謳歌していた。


『飼い主さんってわりと面倒でも続けるイメージだったから意外かも』


「飼い主さんは多少我慢するけど、我慢できなくなったら直ぐに離れていくタイプチュンね」

「そうかな?」

「そうチュン」


寧々がそう言うんだったらそうなのかもしれない。あんまり自覚はないけど。


「次行こうか。えっと」


『露木ちゃんとのコラボ(?)見ました。次回の予定など決まっているなら聞きたいです』


これは次の日に知ってビックリした記憶がある。

寧々が積極的に誰かを助けようと行動を起こしたことは私が覚えている限りはない。


成長した、なんてやな言い方だろうけど正直感動せずにはいられなかった。


「あー、今のところ未定チュンね。露木ちゃんが忙しいらしいチュンからまた連絡があったら予定のすり合わせしてツイートするチュン」


『了解です!』

『先輩雀楽しみ!』


「私のあのコラボ、後で知って見たけどめちゃくちゃ良かったよ。特にすずめ(せんぱいのすがた)が新鮮で面白かった」

「普通に恥ずかしいから見ないでほしかったチュン」

「あはは、あんだけ話題になってたら見るよ」


『切り抜きいっぱい上がってた』

『露木ちゃんツイートンで謝り倒してたの草だった』


「見た見た。露木ちゃん視点で雀の動きがスタイリッシュすぎて笑っちゃった」


『それなw』

『左でビュイン動いてて草生えた』


「まあ、切り抜きを見てファンマイに興味を持った人もいたチュンから配信者冥利に尽きるチュンね」


_________________________________________


約2時間。雑談をしながらくえすちょんを読んでいき、最後のくえすちょんを読み上げる。


『二人でホラーゲームやってください!』


「嫌」

「分かったチュン!」


お互いに即答して顔を見合わせる。


ホラゲーというとあれだ。

突然音でビックリさせたり、気持ちの悪いモンスターに追いかけられるやつだ。

ああいうのは無理だ。だって見てるだけでもビックリして肩が跳ねるタイプのヒューマンの私にプレイなんて出来るはずがない。


「ホラゲーは無理。見てる分にはいいけど無理」

「飼い主さん、ホラー系好きだけど苦手チュンからねぇ。でもリスナーさんが求めてるのに断るチュンか〜?????」


『雀ちゃんが初めて優位に立ってて草』

『イキリ雀』


「いや、でもあれじゃん。リスナーさんの総本意ってわけじゃないじゃん?」


『見たいです!』

『雀ちゃん側に立ちます』

『諦めてください』


「うぅ〜」

「もう逃げられないチュンね!」

「いやいやいや、でもでもでも」

「でも、何チュンか?」

「……やります」


圧がすごい。隣でニコニコ笑ってる寧々がいる。ドSだ。


「みんな言質取ったチュンよ!ということで来週の定例会議はホラゲーに決定チュン!」


『8888888』

『感謝』

『新鮮な悲鳴が聞けると聞いて』


「じゃあ来週楽しみにしてるチュン!それじゃあみんなお疲れ様チュン〜!』

「……お疲れ様です」


『元気ない飼い主さんで草』

『来週クソ楽しみ』


配信が切られる。

隣には満足気な笑顔の寧々。

まあいいか……?一人ならごめんだけど二人だし……いや、でもホラゲーかー……


「来週楽しみだね」

「あい……頑張ります」


寧々の様子からしてもう止めることはできないだろう。

私はがっくりと肩を落としながら、出来るだけ怖くないやつをしようと決意した。

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