第14話 突然のオフコラボ(3)

『開始したチュン!』


生放送リンク付きで呟かれたツイートを、まほろちゃんがRTする。

今日の生放送は雀の枠での雑談だけど、RTしなくてもいいぐらいには始まる前から待機中のリスナーたちが数字として目視できるぐらいには今日の出来事をみな、気になっているようだった。


私はまだ寝たくない委員会に所属しているから生活音が入らないように細心の注意を払いながら、最近ハマってる漫画を読みながらイヤホンで二人の生放送を聞いている。

直ぐ近くで生放送してるんだからわざわざタブレットで開かないでいい、という意見は知らない。私は飼い主である以前に一人のリスナーなのだ。


『雀ちゃんいっせーのーでやろ』

『わかったチュン』


『いっせーのー』


『まほろチュンの生放送が始まる!』


『かわいい』

今の私は脳とコメントが直結しているため、コメントを打つのも最速だ。


私のコメントを見つけてしまったのか、雀の目がちょっぴり見開いた気がするけどきっと気のせいだろう。


『突然なのにこんな夜遅くに集まってくれてありがとね!星座占いはきっと12位だった僕が雀ちゃんたちに救われるまでのお話をしていこうと思うよ!』

『大袈裟チュンよ』


[ツイート見てて心配だったからその辺りの話聞きたかった!]


突然のオフコラボといっても、話す内容は決まってる。

まほろちゃんの波乱万丈な一日のことだ。


実際、私もまほろちゃん本人の口からどんなことがあったか聞いたわけじゃないから気になっている。


『んー、じゃあ何から話そうか。今日はスタジオで収録があって、こっちに来てたんだ』


大手企業Vtuberな彼女。スタジオという言葉をすんなり受け入れてしまえる私がいるがよくよく考えたらすごいことだ。


『収録が長引いて終わったのが22時前ぐらいだったかな。そこからタクシーでだいたい23時ぐらいにチェックインの予定だったからそれぐらいに行ったんだ。そしたら予約がないって言われて、ぴぇぴぇってなっちゃった』

『予約ミスって言ってたチュンけど、どういう風にミスったチュンか?』

『えっとね。ネットの予約だったんだけど送信ができてなかったのかな?よくわからないんだけど実際予約できてないって言われた感じかな。で、ホテルを出てどこでも泊まれる場所は探せばあるだろーってとりあえずご飯食べに行ったんだよね。


そこからファミレスでのんびり携帯見てたら1時ぐらいで、そこから支払いしてネカフェ行こうと思ったらまさかの財布消失したって感じ』

『うわぁ、災難だったチュンね』


[財布なくすのはつらすぎる]

[財布戻ってくればいいね]


『あっ、財布はさっき連絡したら落とし物として届いてたから大丈夫だよ。ありがとう』


[それなら良かった]

[雀ちゃんが迎えにきてくれたときのお話聞きたい!]


『残念ながらチュンは迎えには行ってないチュンよ』

『そうそう、飼い主さんが迎えにきてくれたんだ!』


[飼い主さんってだれ?]

[雀ちゃんと同居してる幼馴染の女の子]


『君たちは知っているかい?心細い中に、バイクで颯爽と迎えにきてくれる喜びを』

『チュンの幼馴染はかっこいいチュンからね』

『もう本当にメンタルクラックしてたから飼い主さんがきてくれた瞬間、号泣だったからね』


[草]

[それは草]


確かに号泣だった。見事な泣きっぷりで、服に顔の形をしたシミができるかと思ったぐらいだ。


『飼い主さんのモッズコートを涙と鼻水でびちゃびちゃにしたから』

『帰ったときの服の謎のシミ、それだったチュンか!?』


[飼いまほてぇてぇ]


『あっ、飼いまほは地雷なのでやめてくれチュン。飼い雀しか認めないチュン』

『これは戦争。飼いまほ推奨委員会の者だから受けて立つよ』


あっ、雀と私のカップリングタグって飼い雀だったんだ……

雀がいいねしてるkiszmタグの小説やらイラストやらなんて読むのかわからなかったけどやっと理解できた。


それはそうと、せっかく検索避けしてたのに補足されてる雀の餌の皆さんが可哀想だった。


『そっからお風呂いただいたりして、今に至るね』


[雀ちゃんがまほろちゃんに会った感想とか逆にまほろちゃんがお二人と会った感想とかはありますか?]


『感想!どこまで言っていいのかわかんないけど、飼い主さんは凄いかっこよかった!』

『わかりみ』

『余裕のある大人な女性って感じで、全てがスマートでかっこよかった!』

『わかりみ』


[いや、雀ちゃんw]

[雀ちゃんは飼い主さん全肯定BOTだから……]


照れる。というか画面の奥で、彼女たちが私の話をしている事実に違和感がすごい。

なんか全身がムズムズする感じだ。


『あと雀ちゃんは可愛い!飼い主さんとの身長差がすごく萌えたし、めちゃんこ緊張してる感じで愛おしかった』

『それはわからないチュン』

『飼い主さんと話してるときとか幸せそうで』

『それはそうチュンね』


[身長差詳しく]


『ふふっ、頭一つ分』


[やば。それはハレンチ]

[えっちなのはいけないと思います]

[終わりだ……世界が飼い雀に覆いつくされる日も近い]


『この人たち、何を言ってるチュンか……』

『うん。僕にもわかんない』


[明日はどうする予定なんですか?]


『明日か~、考えてなかったなぁ。とりあえず財布を取りに行くのは確定なんだけ

ど、そこから家に帰って配信するかどうか。その前に明日起きてこの騒動を知ったマネさんに雷落とされそうで嫌だなぁって感じ』

『チュンは無限に暇してるから飼い主さんの暖かい部屋でぬくぬく過ごすチュンね』

『えっ、ずるい。僕も一緒にぬくぬくしたい!』

『飼い主さんがいいよっていえばいいチュンよ』

『まじで?』


寧々からラインが届く。

たった一言『いい?』とだけ。


どうやら配信を聞いていることはお見通しらしい。

まぁ、ちょくちょくコメントしてるから分かるだろうけど。


『おけ』

『りょ』


『飼い主さんは良いらしいチュン』

『わぁ!じゃあ明日もちょっと雀ちゃんたちと遊んでから帰るね!放送は……わかんないから未定!』

『そうチュンね……ふわぁ』

『雀ちゃんおねむ?』


時刻は午前4時。普通の人間だったら絶賛夢ツアーをしている時間だ。


『ちょっとだけチュン』

『あはは、僕も疲れて眠いからそろそろ終わろうか?』

『そうチュンね。明日もあるチュンし……みんなこんな遅くまで観にきてくれてありがとうチュン~』

『ありがとう!そして心配かけてごめんね!』


[おつでした!]

[ほんと何事もなくてよかった!]

[おつ!]


『それじゃあ最後に!いっせーの』


『まほろチュンの生放送が終わる!』


『このライブストリームはオフラインです』


……面白かった。漫画を読むことすら忘れて、聞き入ってしまっていた。

高評価はもちろん入れて、ライブを閉じ、睡眠用と書かれたフォルダに今日の生放送を入れる。


銃撃音もしない雑談放送でしかも聞きなれた雀の声が入っているとなれば、睡眠用BGMとして最適だ。

『かわいい』とコメントを打ちこんだ、ふたりの『いっせーの』を聞きながらゆっくりと眠りに落ちていった。


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