第13話 突然のオフコラボ(2)
「お風呂あがりました!」
ジャージに着替えたまほろちゃんがリビングにやってくる。
ソファには寧々が寝転がっていて、私はPCで編集作業をしながら動画のアップロード処理を待っていた。
「スマホ、そろそろ充電できてると思うよ」
「ありがとうございます!」
先ほどよりだいぶ元気になってくれたまほろちゃんは、充電器から外してスマホを起動させる。
まほろちゃんのツイートンを見てても、リスナーや同僚からたくさんの心配リプライがついている。
まほろちゃんからツイートすれば、全員が全員安心してくれるだろう。
「あの、ちょっと録音いいですか?僕は大丈夫ですって伝えたいので。あと交番に電話も」
「もちろん」
私が笑って答えるとまほろちゃんは少し離れて、録音を開始する。
さて、その間に我が家の人見知りをどうにかしないと。
普段、基本的に私以外と会わない、喋らない寧々だ。
ネットでは普通に話せるのに、と本人も困惑した様子で、借りてきた猫様になっている。
どうしたものか。
困っていると、連絡が終わったらしいまほろちゃんがとてとてとやってきた。
「財布届けてくれた人がいたみたいです!明日、取りに行くって伝えました!」
「良かったね!」
「はい!……えと飼い主さんと雀ちゃん、今日はご迷惑をおかけして本当にごめんなさい。そして本当にありがとうございます。きっとお二人がいなければ、たぶんダメでした。心細くて、雀ちゃんからの連絡がどれほど嬉しかったか」
「いえいえ。困った時はお互い様ですし」
「うん。友だちが困ってたら手助けするのは当然」
少し目線を逸らしながら、呟く寧々。
まほろちゃんは両手で口を覆い、ちらっとこちらを見る。
「えっ、飼い主さん……雀ちゃんが可愛すぎて辛いんですがどうすればいいですか?」
「無限にわかります」
「……何言ってんの」
寧々の冷ややか目、だけど長い付き合いである私にはそれに若干の照れ隠しが含まれていることをちゃんと知っている。
「照れてる」
「……うっさい」
二人きりのときのような調子は出ないようだけど、それでも少しは先ほどまでの少し居心地の悪い空気はなくなったように感じる。
そんな姿を見て、まほろちゃんがくすくすと笑みをもらした。
「本当に仲が良いんですね」
「もち。幼馴染だから」
「あはは。まほろちゃんはお腹空いてたりしない?」
「大丈夫です!」
「分かった。寝るところは使ってない部屋があるから後で案内するね。布団は一応、ふとんクリーナーかけときはしたけど、まだちょっとほこりっぽいかも……、毛布は新品のがあったから安心して!」
「そんな……何から何までありがとうございます」
「まぁ、突然だったけどお泊り会みたいな感じで楽しんでいこ」
「はい!」
あとは……特にすることもないかな。
もう二時だし、暖かい部屋で映画か生放送でも観ながらゆっくり寝落ちしよう。
あれ、でも生放送といえば。
「そういえば二人はオフコラボとかしない感じ?」
Vのお泊りとオフコラボはだいたいイコールで結びついているようなイメージがある。
眠くなって、ふにゃふにゃになっていくVの姿や二人のオフならではの距離感や生活音。
リスナーが一時間で100ツイートしてしまう恒例行事だ。
二人はあっけにとられた顔をしたのち、口をそろえて言った。
「それだ!」と。
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『雀の巣にお邪魔している僕からみんなにゲリラ生放送をお知らせするよ!今日の出来事とか拾われた経緯とか雀ちゃんとオフコラボでお話します!開始時間は三時!しばし待て!』
『突然だけどまほろちゃんが家にいるからまほろチュンで緊急オフコラボするチュン!ゲームはしないで雑談メインになると思うチュン、眠くなるまで続けるチュンよ!開始時刻は三時!』
『熱い』『生放送助かる』『明日、仕事なのに寝れないんだが?』
といったリプライがたくさんついていく。
ながい、ながい金曜の夜はまだ始まったばかりだ。
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