第7話

『彼』の言うとおり、ここで終わっていればただのおとぎ話。

 ここから先は、私たちの罪と罰。それをどう判断するかは、被害者であるあなた次第。

 ……そう、聞きたいのね。

 一応、忠告はしたわよ。



 ◇◇◇



 ボルケイノでの日々は、はっきり言って楽しかった。

 いろいろな仲間がやってきたし、ミルシアという上客も出来た。それに、メリュー自体がボルケイノに馴染もうとしてくれたからね。一度彼女自身が逃げ出したこともあったけれど、それも水に流して平和な日々を送っていた。

 けれど、それも長くは続かなかった。

 呪いは終わり、メリューは人間として戻ることが出来る。

 けれど、それはボルケイノの終わりを意味していた。

 私は、それを拒否したかった。出来ることなら永遠にこの日々が続けば良いのに……と思っていた。

 でも、呪いはいつかは解かなくてはならない。メリューは人間に戻り、ボルケイノも消失する――はずだった。

 でも、人間だったケイタが、ドラゴンになることを望んだ。

 竜の盟約。

 それは、私が望んでいたボルケイノの継続でもあった。

 ボルケイノは続けられ、メリューの呪いは解け、記憶も改竄した。

 結果的に、生まれたのが――あなたよ、メイト。



 ◇◇◇



「これがすべて。私の、精算しなくてはならない、罪。そして、その罰は、与えられなくてはならない。竜の盟約は、終わりを迎えなくてはならない」


 ティアがゆっくりと動き始め、手に持っていた物を振りかざす。

 よく見るとそれは、果物ナイフだった!

 ティアは、自らの命を絶つつもりだったのか!

 まずい、間に合わない。そう思っていたそのとき――。

 それを止める、手があった。

 果物ナイフの刃を、血が出ることも厭わずに掴んだ手があった。

 それは――母さんの手だった。


「母さん!」

「メリュー、あなた……どうして止めるの! 嫌だ、私はここで死ぬの! そうすれば竜の盟約は強制的に解除され、あなたたちは平和に暮らすことが出来るのに……」

「私が、それを望むと思っているの?」


 メリューの言葉に、ティアは言葉を失っていた。

 そして、ティアはもうナイフから手を離していた。


「私が、ケイタが、いいや、それだけじゃあない。皆がそれを望むと思っているの? あなたが死ぬことですべて解決するとして、それを望むと思っているの?」

「私は……私は……」

「もうすべて、終わりにしましょう。竜の盟約だとか、そんなことはどうだっていい。しがらみに捕らわれることなんて、もうお終いにしましょう」

「私は……」


 ティアの身体は膝から崩れ落ちていた。

 そして、それは一つの事件の終わりを迎えているのだった。


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