第6話

 その物語は、とても哀しい物語。

 正直者が馬鹿を見るとは、よく言ったものだと思う。いずれにせよ、それを経験したならば、そう思うに違いないのだから。

 ボルケイノはドラゴンを救った後も、繁盛していた。少なくとも一人で回していけるぐらいには、繁盛していた。

 しかし、誰かがある噂を聞きつけてやってきた。

 主人が、ドラゴンを飼っている、と。

 ドラゴンは主人に育てられ、すっかり身体も良くなった。

 だけれど、外に出すことは出来なかった。またいつ襲われるか分からなかったから。大きくなっていくドラゴンの身体を見つめながらも、なんとか守り通していきたいと思っていた。

 しかし、それは幻想だった。

 人間の欲望は、容易く人間を殺す。

 主人を殺して、ドラゴンを捕まえようとしたハンターがいた。

 そのハンターと、主人の死体を見たドラゴンは怨嗟の叫び声を上げ、そしてハンターを食い殺した。

 ドラゴンは誓いました。

 もうこんな世界は、信用できない。

 もう人間なんて、信用できない。

 ならばいっそ、人間の居る世界から隔絶した世界にこのお店を、永遠に保管しておきたいと。

 神の力を持つドラゴンには、それが容易に出来ることでした。

 だから、ドラゴンはその空間を、様々な世界とは違う時間軸、第666時間軸に移動させました。

 お店を保管するだけではもったいないと思ったドラゴンは、どうにか活用出来ないかと考えました。

 しかしドラゴンには料理をするだけの腕がありません。人間になることは出来たとしても、給仕なんて出来るわけがありませんでした。

 そんなとき、ドラゴンの卵を求めてハンターがやってきました。

 そのハンターは料理人でした。

 だから、ドラゴンは一つの契約を交わしました。

 呪いにも近い、契約を――。

 ドラゴンメイドとなり、ボルケイノを引き継ぐという契約を――。



 ◇◇◇



「これが、すべてです」


 ティアから語られた物語は、おとぎ話のようなそんな感覚だった。聞いていて、信じられない。そんな感じ。


「あなたがこの物語を信用するもしないも自由ですよ、メイト」


 ティアは、優しい目で僕を見つめて言った。


「けれど、この物語は哀しい物語。誰も救われない、誰も救われていない、哀しい物語」

『……その物語には、続きがあるのではないかね?』

「しかし、それを話すわけには」

『話しなさい。そして、解放してくれ。君を、君たちを、そして私を。この永遠の箱庭から――』


 マスターの言葉に、ティアはこくりと頷く。

 物語は、まだ終わらない。

 まだ、物語は終わって等いなかった。


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